54話 「我を通す」


 朝になり古家さんと心春さんは仕事へ出掛けた。

 

 この時、朝から騒々しいことが起こり俺は何か良くないことが起こるのではないかと不安を感じた。しかし騒動の原因に俺も関わっているのだから自業自得だ。

 

 「久我様、繭様、今朝食を準備しますので座って待っててください」

 

 ヒガンバナちゃんが朝食を作ってくれるそうだ、昨夜の夕食も美味しく作っていたので期待できる。

 

 俺が席に着くと繭さんが俺の隣へ来る。繭さんは朝起きたばかりということもあるが顔を下に俯けて元気がなさそうだ。


 「夢見鳥、今日一日私に付き合え」

 「え、胡蝶お姉ちゃん? 突然どうしたの?

 「聞きたいことがある、だから来い」

 「……わかった」


 胡蝶は夢見鳥ちゃんを連れてどこかへ行く。


 胡蝶のやつ、気を使って俺と繭さんが話をしやすいようにしてくれたんだな、けど俺はいったい繭さんをどうしたらいいんだ?


 暫く考えていると急に肩に重みを感じる。


 「ねぇねぇ兄ちゃん今日も私達と遊ぼうよ」  

 「そうしようよ、また川に行こう!」

 

 どうやらヒマワリとツキミソウが俺にのし掛かかって遊びに誘っているようだ。

 

 「えー、またお前らと遊ぶのか? けどなぁ……」

 「ダメっ!!」

 

 突然繭さんが大きな声を出し俺とヒマワリとツキミソウは驚いた。

 

 「ハッ、私は何を言って……大我さん、すみませんさっきのことは気にしないでください!」

 

 繭さんは必死に誤魔化そうとする。そんな状況をみて俺は今日誰と過ごすべきか決めた。

 

 「ヒマワリとツキミソウ、悪いが今日は遊べないまた今度にしよう」

 「うん、わかったよ兄ちゃん」

 

 ヒマワリは何かを察したようでツキミソウと共に去って行く。

 

 「繭さん、今日は俺とこの辺を散策しに行きませんか?」

 「え、そんな大我さん、私に気を使わなくても……」

 「俺は繭さんと行動したいんだ」

 「え、はっ、はいぃ……」

 

 うわぁ、俺は何言ってんだろう、もっとオブラートに包んで言わなきゃ繭さんがびっくりするだろ!

 

 繭さんは顔を真っ赤にしてもじもじしている。そして上目遣いをしながら俺に話しかけて来た。

 

 「大我さん、本当に私でいいんですか?」

 

 ……かわいい。

 

 「もちろんですよ! いやぁ断られるんじゃないかと思って俺にドキドキしてました……あ、いやその」

 

 うわああああ! これじゃあ俺が繭さんに気があるみたいじゃないか恥ずかしい、きっと繭さんは俺のことをこう思ってるにちがいない『キモッ、この筋肉デブ』って……いやあああああぁ!

 

 俺は繭さんがどんな反応を見せるか気になり横目で見いると繭さんはじっと俺のことを見つめて固まっている。

 

 「久我様、繭様朝食をお持ちしました」

 

 ヒガンバナとスイカズラがお盆に朝食を乗せて来た。

 

 メニューはご飯と味噌汁、そして焼いたサケだ。

 

 「いただきます……うん、美味しいよ! ヒガンバナちゃんとスイカズラちゃんは味覚がないのにここまで美味しくできるなんてすごいな」

 「ありがとうございます、でも覚えたら簡単ですよ?」

 「感覚と材料の分量と焼き時間を覚えればできます」

 

 それはそれですごいな。


 「あ、そうだ二人とも聞きたいことがあるんだけど、この辺りに観光できるところってない?」

 「観光ですか……実はここの土地にはあまり観光地と呼べるところがないんです」

 「ヒガンバナお姉様あの畑なんかどうですか?」

 「スイカズラ、それよ! ふふふ、やっぱりあなたは頼りになるわね」

 「えへへ」

 

 どうやら観光地に目処がたったようだ。

 

 「大我様決まりました、この屋敷から結構掛かるんですけどそのヒマワリ畑に行くのをオススメします」

 「そこは古家家所有の畑で今お父様が大学に資金と土地を提供してバイオ燃料研究用のヒマワリを栽培してるんです、私達が言うのもなんですけど辺り一面黄色で景色がすごいんですよ」

 

 ヒマワリとツキミソウが自慢気に話すのを聞いて俺は興味が湧く。

 

 「なんだか良さそうな場所だな、どうですか繭さん、行きますか?」

 「は、はい大我さんが行くなら私も……あ」

 

 お互いに恥ずかしくなってきた。

 

 おいなんだよこの初々しい感じは、繭さんはまだ若いけど俺なんて二四歳の大人だぞ、もっと余裕を持ったほうがいいのか?

 

 ヒガンバナとスイカズラも俺達の光景をみて恥ずかしそうにしている。

 

 全くここは男女の関わりに免疫がないやつしかいないのか、ヤバい早くここから出よう……そう言えば俺は胡蝶といてこんなに緊張することもなかったな、やっぱりそれは胡蝶のことを女として好きじゃなく友達として好きだったってことなのか?

 

 俺はまだ胡蝶との関係に完璧に整理がついていない。

 

 俺は繭さんのことをどう思っているんだろう……自分のことなのに分からない、きっと胡蝶はこうなるのをわかっていたから自分から別れると言ったんだ。

 

 「大我さん、やっぱり私……」

 「繭さん、俺は繭さんと一緒にヒマワリ畑に行きたいです」

 「え、でも胡蝶ちゃんは?」

 「大丈夫です、もしかして繭さんは俺と行きたくないですか?」

 「いえ、そんなこと……ありません、あぅ」

 

 我ながら卑怯な聞き方をした、そのおかげで繭さんは恥ずかしがってもじもじしている。

 

 少し違うかもしれないが今日から俺は胡蝶が言っていた『我』を通す人間になろうと思った。

 

 今の俺の気持ちは繭さんが落ち込んでいるので慰めてできることなら悩みを解決してあげたい。

 

 その気持ちに素直になることにする。

 

 「えっと、大我さん今日はよろしくお願いします」

 「はい、繭さん」

 

 この選択がどういう結果になるか分からないが後悔だけはしないと心に決めた。

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