5話 「人形の以外な問題点」


  

 「今日の降水確率は八十パーセントで天気は雨でしょう」

 

 テレビでニュースキャスターが俺達の住んでいる地域に雨が降ることを伝えていた。

 

 「はぁ、この天気じゃ洗濯物が乾かねぇな」

 

 現在部屋に俺と胡蝶の洗濯物を干している、扇風機を着けているがそれでもジメジメしている。

 

 胡蝶はというと肌が湿って気持ち悪いと言ってシャワーを浴びに行った。

 

 シャワーを浴びたらまた濡れるだろうに、あいつはどんだけ水浴びが好きなんだ。

 

 俺は暇だったので調べものをしようとパソコンを使った。

 

 「えーと生きた人形っと」

 

 検索ワードにそう入力したが望んだ情報は出てこなかった。俺はここ最近ずっと胡蝶がどうやって命を持ったのかずっと気になっていた。

 

 「うーん、やっぱ出ないよな……でもあそこなら」

 

 俺は胡蝶の製造元である『幻想的人形工業』を検索した。サイトを開いて調べていると胡蝶についてお知らせが載っている。内容は胡蝶は販売中止となった事だった。

 

 「胡蝶が……販売中止?」

 

 胸騒ぎがしてさらに何か重要な事がないか調べた。

 

 「こっ、これは……大変だ!」

 

 慌てて胡蝶の元へ向かった。そうして風呂場のドアを勢いよく開けて叫んだ。


 「胡蝶、やめろー!」

 

 「きゃああああ! た、大我!?」

 

 シャワーを浴びている胡蝶は突然の俺の侵入に驚き、そのせいで身体の全てを隠すのを忘れて俺を見た。


 うわっ素っ裸だ……エロいな、けどなんだろう、謎の湯気であんまり見えないな。


 「てめぇ、この野郎早く出ていけ!」

 「うわっ、ごめん、ぐはっ!」

 

 このあと胡蝶にボコボコに殴られた。


 暫くして胡蝶はシャワーを終えるといつもの赤い着物に着替えて俺に問い詰める。


 「……で、どういうつもりだ、この変態」

 

 胡蝶は大変ご立腹のようで声が低くなっている。

 

 「悪かった……でもまずはこれを見てくれ。」

 

 俺は胡蝶にパソコンを見せた。

 

 「ふんっ、いったいなんだ?…………人形とのお風呂の入り方? 大我、てめぇ」

 

 胡蝶は益々ご立腹になったので俺は慌てて訂正した。

 

 「ちげーよ! 注意書を見ろ!」

 

 胡蝶は冷めた目で俺を見ると注意書を読み始める。

 

 「……入浴の注意『球体関節シリーズ』は入浴できるようにできていません決して水をかけないで下さい……おい、まさか!?」

 

 胡蝶は嘘だと言ってくれと言わんばかりの表情で俺を見つめる。そのまさかだ。

 

 「そうだ胡蝶お前は球体関節シリーズだ」

 

 本当の事を告げると胡蝶は立ち上がり叫んだ。

 

 「ざっけんな! 私はそのシリーズじゃねえ!」

 「胡蝶落ち着け……これは事実だ」

 「だいたいもしそうだとしてもどうってことねーよ!」

 「現実を見ろ!」

 

 声を荒げて言うと胡蝶はビクッとして黙り込み、最後は観念したかのように床にヘタリこんでしまった。

 

 「私は……いったい……どうなるんだ」

 

 胡蝶は声を震わせている。そんな胡蝶に俺は両肩を掴みまっすぐ目を見つめて宣言する。

 

 「胡蝶このままだとお前は……」

 「私は……」

 「お前は……カビだらけになる」

 「……」

 「……」

 

 しばらくお互いに無言が続いた。

 

 「うわああん!!」

 

 胡蝶は耐えきれなくなったのか泣き出した。

 

 「嫌だ嫌だ! 私は高貴で美しいんだ、そんな私にカビだなんて……嫌だよぉ」

 

 こんな弱気な胡蝶は初めて見た。俺は胡蝶を慰めて安心させる為に優しく抱き締めてあげた。

 

 「胡蝶、俺が何とかしてやるそれにカビはすぐに生えないから心配すんな」

 

 胡蝶を更に安心させるために背中を摩りながら言葉をかけた。

 

 「大我ぁ……」

 

 胡蝶は力強くすがるように俺に抱きついた。

 

 俺が何とかしてやらないと……それに外は雨で部屋は少し湿っぽい、急いで対策をしないと。

 

 早速部屋に湿気取りを何個か設置して再びパソコンで調べた。その間胡蝶は俺の背中に抱きつき後ろから不安そうにパソコンの画面を覗いている。

 

 「どれどれ……おっ!こいつは」

 「何か見つかったのか?」

 

 胡蝶は期待のこもった声で聞いてくる。

 

 「超本物人形シリーズ! うわっすげーな……値段は百万!?」

 

 胡蝶の目がすぅっと細くなった。

 

 「……貴様、私を捨てて他の女の人形を迎え入れる気か?」

 

 胡蝶急に言葉遣いが変わると両腕を俺の首と頭にもってきた。裸絞と言う技をかけるつもりでかなり本気だ。

 

 このままでは息を止められて、さらに首をへし折られそうなので真面目に探すことにする。

 

 「えーとメンテナンスの仕方は……あった、どうやらベビーパウダーを使えば良いらしいぞ」

 「そうか、なら安心だな」

 

 胡蝶は俺の首から腕を外してくれた。

 

 「いや安心するのはまだ早い」

 「ま……まだ他にあるのか?」

 

 動揺する胡蝶に俺は別のサイトのページを見せる。

 

 「ひぃ!」

 

 胡蝶は俺から離れて腰を抜かした。俺が胡蝶に見せたのはメンテナンスのためにバラバラにされた人形の画像だった。胡蝶のような球体関節人形は一旦バラバラにしないとメンテナンスできない。

 

 「おい大我……お前は私をバラバラにするつもりか?」

 

 胡蝶は肩を抱き寄せながら後ずさる。

 

 「そのつもりだが?」

 「このバカヤロー! 私にそんな趣味はねーぞこの鬼畜!」

 

 胡蝶は立ち上がって怒りを俺にぶつける。それにしても鬼畜とは酷い言われようだ。

  

 「俺だってねーよ! けどこうしねぇと確実にお前の関節からカビが生えるぞ!」

 

 俺も負けじと立ち上がり大きな声で言い返した。すると胡蝶は目に見えるように落ち込んだ。

 

 「……もう他に方法はねぇんだな?」

 「ああ、ない」

 

 何だか胡蝶がとても可哀想に思えた。その後胡蝶はゆっくりと両腕を上げて俺に差し出した。

 

 「覚悟は決まった……一思いにやってくれ」

 

 胡蝶が泣きそうな表情で俺に言った。どうやら胡蝶はメンテナンスのためにバラバラになる覚悟が出来たようだ。俺は胡蝶の両手を掴んで確認する。

 

 「本当に……いいんだな?」

 

 胡蝶は無言で頷く。俺も覚悟を決めて胡蝶の手をおもいっきり引いた。この瞬間、周りの風景がスローモーションに見えた。

 

 胡蝶はゆっくりと俺の方に向かって引っ張られてバランスを崩し倒れ込む。そうして向かって行く先には俺の股間だ。

 

 「あふぅ!」

 

 俺が変な声を出したと同時に周りの風景が元に戻る。

 

 ……。

 

 胡蝶は俺の背中をゲシゲシと踏みつけてきた。それを俺は謝りながら丸くうずくまって耐えるしかなかった。

 

 その後色々試したが胡蝶はとても丈夫にできているようで関節を外すことができずついに疲れて二人して倒れた。

 

 「すまん胡蝶、もう無理だ」

 「……大我いいんだ、お前は良くしてくれた、ありがとう」

 

 なんだかこれが胡蝶との最期の別れのように感じて泣いた。

 

 部屋に雨の音と扇風機の音だけが響く。俺が声を圧し殺して泣いていると胡蝶が突然起き上がり俺に向かって言う。

 

 「大我まだ方法はあるぞ!」

 

 俺は涙を拭いて胡蝶を見た。

 

 「私の親父に何とかしてもらおう!」

 

 胡蝶に父親がいる!?

 

 俺は衝撃の事実に驚いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る