6話 「誰が人形を造った?」


 

 「私の親父に何とかしてもらおう!」

 

 胡蝶はさっきまで落ち込んでいたが急に元気になって言った。

 

 「お前父親がいたのか? てっきり工場で大量生産された物だと思ってたよ」

 

 俺は言葉を口に出した瞬間しまったと思った。何故なら胡蝶が段々複雑な表情を浮かべ始めたからだ。

 

 「確かに私は大量生産された中の一体だと思う……」

 「……あ、その……なんだ、えーと」

 

 胡蝶はプライドが高い。きっと自分と同じ人形が大量にあるという事実を許せないだろう。それを理解したが故に言葉が出なかった。

 

 胡蝶は今にも泣き出しそうな声で震えながら話す。

 

 「私を設計して造った人がいるはずだ、それが、その人が私にとって親父なんだ……うううっ、親父に会いてぇ……ぐすっ」

 

 そう言った後は胡蝶は遂に泣き出してしまった。それを見てかわいそうになった俺は胡蝶を抱き締めて頭を撫でてあげた。

 

 まさかカビでここまで事態が大きくなるとは、けど考えてみれば自分の身体がカビで覆われるかもしれない何て言われたら誰だって怖いし不安になるよな、しかもこんな時は自分の肉親に頼りたくなるのも分かる。

 

 俺は抱きしめるのをやめて胡蝶と向き合った。

 

 胡蝶は人形とはいえこうして感情も持っている、当然親に会いたいと思ったりするわけだ。

 

 「大我?」

 

 胡蝶が俺を不安そうに見つめる。

 

 「不安にさせてごめんな、きっと大丈夫だ俺が約束する」

 「……うん」

 「元気出せよこれから里帰りして親父さんをびっくりさせてやろうぜ!」

 「……ああ、そうだな! ……ええっ!? 里帰り!?」

 

 俺の発言に胡蝶は驚いたが直ぐに発言の内容を理解して笑顔になった。ここまでは良い。しかしまずは一つ気になる事が有ったので胡蝶に聞いてみることにした。

 

 「なあ胡蝶なんで自分を造った親が父親だと思ったんだ? もしかしたら母親かもしれないだろ?」

 「そんなの決まってんだろ? 私は女の腹から生まれていない」

 「そりゃまあそうだけど……」

 「それと私に命を持たせたのは親父だと最初からなぜか認識していた」

 

 胡蝶はその後はそれ以上は分からないようだ。俺はますます不思議に思った。誰がなんの目的で胡蝶に命を与えたのだろう。

 

 暫く考えたが今考えても無駄だと思い胡蝶の製造元へ電話をかけてみることにした。

 

 「……はい! こちら幻想的人形工業カスタマーサービスです!」

 

 元気の良さそうな女性の声が電話越しに聞こえてくる。俺は勇気を出して話を切り出した。

 

 「実はそちらの球体関節シリーズについて伺いたいんですが……」

 「球体関節シリーズですか? 申し訳ございませんそちらは全て販売中止でして製造してないんですよ」

 「えっ! シリーズ全部ですか?」

 

 どうやら胡蝶だけじゃなく他の人形達も販売中止のようだ。

 

 「それはどうしてですか?」

 「申し訳ございません理由はお答えできないんですよ」

 「…………そうですか」


 電話の女性の話し方なら何かを隠すような気配を感じて疑念を抱いた。

 

 「あのお客様畏れ入りますが球体関節シリーズを所持しておいででしょうか?」

 「……持ってますけど?」

 「でしたら現在我が社は球体関節シリーズを自主回収しておりまして無料で別の娘と交換いたしますがどうされますか?」 

 

 電話の声が聞こえたのか胡蝶は一瞬ビクッとなって不安そうに俺を見つめる。大丈夫だと安心させるために俺は胡蝶の頭を撫でる。

 

 「いえけっこうです、それよりこのシリーズの製作者に会いたいんですが」

 「申し訳ございませんそちらはできないです」

 

 電話の女性は淡々と伝えてきた。そこを何とか会えないかとお願いするが女性はできないとしか答えない。

 

 「あのお客様どう言った理由でお会いになりたいんですか?」

 

 俺はここしかないと思い賭けに出た。

 

 もう正直に話して当たるしかねぇ!

 

 「実はお宅の人形が生きてまして毎日俺に乱暴してくるんです、だから製作者に会わせてください!」

 「おいっ、ちげーだろ!」

 

 胡蝶がそう言うと俺に掴みかかりガクガクと揺らした。

 

 「……分かりました担当者に代わりますので少々お待ちください」

 

 女性はそう言った後保留の音楽が電話から流れてきた。

 

 これはマズかったか?

 

 しばらくして保留音が鳴り終わった。

 

 「君かね、我が社の人形が生きてると言っていたのは」

 

 聞こえてきたのは年老いた老人の声だった。すると突然胡蝶が電話を俺から取り上げた。

 

 「おい、お前が担当者か? いいから早く私の親父に代われ」

 

 俺は慌てて胡蝶から電話を奪う。

 

 「すみません」

 「いえいえ構わないよ、それよりさっきの女の子が君の言っていた人形だね?」

 「えっ!?」

 

 俺は驚いた。普通はイタズラかと思うはずなのに受け入れられた。電話の向こうの男性は何か知っている。俺はそう直感的に確信を持った。

 

 「その通りです、本当に生きてるんです」

 「そうかそうか、それは是非とも会いたいね……予定を開けておくから来なさい待っているよ」

 

 その後俺は男性と予定を調整して電話を切った。

 

 「胡蝶、父親に会えるかもしれないぞ!」

 

 俺がそう伝えると胡蝶は嬉しそうに微笑み俺のベットに飛び込み枕を抱いてごろごろして喜びを表した。

 

 胡蝶の製造元『幻想的人形工業』は住んでいるところから遠く時間が掛かる。しかも男性と会う日までかなり時間があった。

 

 俺は暫く考え込むと徐に何かないかパソコンで調べた。そうしてある程度調べ終わると俺は胡蝶に向かって言った。

 

 「おい旅行に行くぞ!」

 

 胡蝶は目を見開き驚いて俺を見る。

 

 「会いに行くのにお前を連れてかなくちゃいけないからな、ちょうど良い機会だと思ったんだ」

 「大我、お前は前まで私を外に連れ出そうとしなかったじゃないか、それなのに良いのか?」

 「構わないよ」

 「本当か!? 嬉しいぞ大我!」

 

 胡蝶は益々喜んで俺に抱きついてきた。先週公園に行って以来外には一度しか出たことがない。久しぶりの外出だ。

 

 俺は胡蝶の嬉しそうな姿に満足して旅行の計画を練った。

 

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