魔天

街道をゆく三つの人影。

一人は黒く、一人は白く、一人は金……傍らには小さな光。


それの行く手を断ちふさぐ、重鎧をまとった騎士の一行。

先頭に立つ騎士とおぼしき者が、甲冑の奥から怒声をあげる。

「旅人、止まれ。この先は戦場となる。命が欲しくば迂回するか、

寂れた向こうの街道を迂回したまえ。

どうしても通るというのならこの先に小さな村がある。そこで数日は待ちたまえ。

今夜から、この地での安全は保障できん」


先頭にいた白銀の髪をもつ者が前に出ようとして、黒衣にして背に翼をもつ青年がさらに前に出る。

「どうも、ご教授ありがとうございます。ならば迂回ルートを使うと思います。ご親切にどうも」

騎士の強張った声にひるまず、堂々と言い返せる度量に、騎士は頷くと、

「見たところ多少は腕が立つと見受けられる。なれば寂れた街道の獣道にもいけよう。自分が安全と思える範囲で判断し、旅を続けたまえ。

我ら、フィウォンナ騎士団。フィウォン公国に立ち寄り、腕に自信があるならば騎士団に声を掛け給え。

腕の立つ若人は貴重なのでな。では、旅のご武運を――」


騎士は剣を天に掲げ、それと同時に兵士たちが歩調を合わせ、隊列を組み進む。

号令とともに進む一団に、黒い青年たちは道を譲り、その行く先を見送っていく――


======

「殴りたかった」

「開口一番に物騒だな。

と言うか、あの兜厚すぎね? 声張り上げないと喋れなさそうだったな」

「お二人とも、感想がどこかぶっ飛んでますね。私にはどうも……」

会話にまったく参加しなかった少女、エルフの娘が呟く。

「悪い方々には見えなかったのですが」

「いや悪い奴らだろ、これから殺し合いに行くんだから」

言い切ったのは、黒衣の青年キマイラ。白い翼をもつ者。

「人殺しは悪、か……。偽善者のいう美辞麗句だな」

毒づく銀髪のウォルフ。それに対してキマイラはなぜか微笑む。

「ほうほう、美辞麗句と言う四文字熟語を覚えたか。

だがまぁ、俺の生き方の基準だ。人を殺して食いもしないなら悪だよ。無駄な殺しならなおさらね」

「いや、殺して食うとか普通はしないだろ」

「いやいや、自然界での殺生は主に食事のためだろう。さすがに肉食獣まで悪認定はしないよ」

「どちらにせよ――お前の中じゃ、俺は悪党ではあるとな」

自嘲気味につぶやくウォルフだが、

「なら俺は極悪人だな。

悪いけどお前の殺害記録だが俺の中じゃ悪ではあっても悪いもんじゃなかったからね。

気分的にはお前に誰かを殺害させてるようなもんだ。悪い奴の元締め、悪の大幹部?」

「となるとお前が諸悪の根源か、覚悟しろ」

「あ~れ~~~」


「あの~談話で殺し合いは止めてくださいね……」

大型剣を真剣白羽取りするという光景を目にしながら、エルフの少女、パフは暮れる太陽を見据える。

「……戦争、お話の中だけだと思っていたわ」


その言葉が、二人の耳に嫌に残ってしまった。


=====


その夜の話。

夜番は主にキマイラの役目となる。

彼は眠らない。重い疲労を感じた際にはたまに眠れるのだが、睡眠をほとんど必要としない。

それが彼自身、人間でなくなったと痛感する重い事実なのだが、旅ではこの能力に大分救われている。

ウォルたちの睡眠時間、その間を自身の鍛錬と言う名の暇つぶしに当てられている。

今回は、寝袋にウォルフ、簡易テントにパフといるので、あまり音を立ててしまうとウォルフの睡眠を阻害してしまう。


最初のうちは読書、主にこの世界に来る際に所持していた教科書などを再び読み返し、役に立てそうな知識を探し漁り、飽きたころにはウォルフの睡眠が深いところに映ったのを目視してから、腕立てなどの筋トレを始めてみたりしていた。


今回は、読書の途中で物語が始まる。

森の向こうが騒がしい。

そういえば昼頃であった騎士団を思い出す。彼らが騒いで……ここまで手が及んだのだろうか。

ウォルフたちを起こした方がいいだろうか? などと逡巡していると、

「……」

ウォルフの毛布が動き出し、彼は大型剣を手にして目覚めた。

「起きた?」

「呑気な。さっさとどこかに隠れるぞ」

「やっぱり?」

「あれだけ重武装な連中を野放しにしたんだ。それと同等かそれ以上の何かがうごめいてるのは想像つくだろう」

「離れてるから大丈夫だと思ったんだけどなぁ。それにそれを考えて――」


彼は見下ろす。

周りの森はとても静かだが、夜は明るい。

夜にこれだけの光があるのは、夜眠らない街の輝きか、もしくは……

「燃えてるか、かな」

「恐らく」

ウォルフは森の向こうを見据える。

夜の冷たい空気に、燻る炎の匂い。


「おい、吊ってあるパフを起こせ」

「いや、もう起きてる」

二人の地面が揺れている。いや地面ではない。彼らは今、太い木の枝に座り込んでいる。

その下にミノムシのように吊ってあるのがパフ。寝袋を纏って、宙づりで眠っていた。今はなんとか上に戻ろうと縄を手繰っている。


「なんか、こんな罰ゲームがあった気がします」

「だってそれが一番暖かい寝方だし。むしろ俺もしてみたい」

「次回吊ってやる。首でな」

ウォルフの方はと言うと、警戒して寝るといい、毛布を体に巻いてすぐ寝入ってしまった。そしてその予想はあたった。


「で、次はどこで隠れ過ごす? 木の下に穴でも掘る?」

「暇はない。追われているわけではないから、ここで様子を見てもいいが――」

そんな最中、爆発音。爆風は届いていないが、静かな森には大きすぎる音である。

「この世界、爆弾あるのか?」

「いえ、おそらく攻撃性の魔術かと――」

「魔術なんでもありだな」

「なんでもありですよ。おそらくあの騎士さんたちに向けられてと思います。あの重装備の兵士相手でしたら、魔術で対抗するのが普通かと」

「魔術師、面倒だな」

舌打ちをこぼしたのはウォルフ。

パフは知らないが、ウォルフは魔道騎士を相手に一度苦戦を強いられたことがある。

仲間一人の命を引き換えにして……


「じゃ、一番早いのは暗殺か」

言い切るキマイラはその背の翼を広げるが、

「できるのか、雑魚」

「眠れる夜に騒ぐのは許せん。と言うか……怒る」

「怒るだけで解決できるわけないだろう。逃げるといった、戦うな」

「ウォルフがそういうなら……」

そこは素直に従ったが、どうも妙だ。

「と言うかお前、また暴れて力を調節しようとか企んでるな。絶対やめろ」

「まぁ、そうなんだけど、なんで?」

「その後始末は俺らが負いそうだからだ。まぁ逃げれるだけは逃げるが」

「なら戦わない、絶対。ケツ拭かれるのは気持ち悪い」

「なんだそれ」

「俺の自覚が足りなさすぎだって反省したの。ありがと&了解した」

よくわからんと唸るウォルフに、パフは二人の視線を集める。

「お二人とも、おそらく左向こうからあの騎士団たちが逃げ込んでくると思います。彼らがどんな敵と戦っているかわかりませんが、あの光量と爆発からみて、この森を焼き払うのは可能だと思います」


言われて、夜目効かないまま、森向こうの光量を観察する。

光は確かに彼らの左手に向かって広がり、その勢いは収まるどころか広がっている。

「焼き払われたら、隠れてても火達磨が三つ、かな」

「森から脱出かと――森の中でしたら、多分、案内できるかと……」

「夜の森での散歩の経験は?」

「弟が夜中に飛び出して半日探し回った程度です!」

「よし、出発!」


キマイラに続いて、パフも飛び降り、それを眺めた後のウォルフは

「あの娘、どんどん不良になっていく気がしてきた」

故郷に返した時、即座に逃げようと心に誓った。


======


本人たちは知る由もないのだが、森の外の平野部では彼らの想像通り、戦闘が行われていた。

勇猛果敢、号令とも怒号ともとれる叫びをあげ突き進む重武装の騎士団たちは、次々に人型の兵士たちを薙ぎ払っていく。

人型の兵士、人にあらざる者。

この世界では「魔族」などと呼ばれる、人にあらざる種族と認識されている。


連合部隊、大小さまざなな種族が、人間の騎士団と戦い続けている。

その劫火の最中、一角だけ夜の帳を落としたような夜の闇が存在する。


中央にいるのは、色白で、人の姿をした、何か。

異様に赤い唇が弧を描く。

覗いた小さな犬歯が、炎に照らされ煌めいた――


======


夜に沈んだ森の中、さめざめと響く女の声。

「いや怖いよ。いつからホラー路線目指してるんだ」

泣いているエルフの娘は、さらに涙を浮かべては零し、そろそろ池ができあがるのではないかとウォルフは無表情で眺めていた。


詳しく語るまでもない。彼女は迷った。

最初は順調に、彼女が分かる目印をたどり、森の端まではと戻れるはずだった。

だが行けども行けども同じ木々、同じ場所、そして同じ土。


合いの手を入れたのはキマイラ。彼は森の中を一瞥し、頭を掻きむしる。

「パフの姉ちゃん、この仕組み、もしかして森になれている方が深みにはまる仕組みになってるんじゃね? 木々の配置はおろか、なんか宿っている色合いがなんかおかしい、全部同一に近い」

例えるなら青色と言っても紺色や藍色といった色合いの微妙な違い。

キマイラには魔力が色で見えていることにこの時気が付いた。そう認識しているのかと、自らに刻む。

「形的にはどう、ウォル」

「知るか。そもそも夜目が効かない。暗闇に慣れはしても、木々の形の仔細なんか覚えていられるか」

「さすが記憶喪失」

「もう一度死ぬか? 魔力が見えるなら、何か方法はないのか?」

「あるけど、あんまり使いたくないな――しかも一方向に進むということしか使えない」

言いながら、キマイラは自分の爪を噛んでは、噛み切った爪を吐き捨てて、同じ指を再び噛み続けている。

目が一瞬閉じて開く、その表情で深い部分を噛み切ったとわかる。


親指の爪の淵から、暗闇ではわかりづらい、血がにじんでいる。

それをぽたりと地面に落とす。


『色は赤い』。

「ただ痛いんだよなぁ」

「ほう、お前自分の血を目印にすれば進める、と。おい女、こいつの血から魔力とか精霊力とか感じるか?」

「ぶべぇ? ……じぇ、全然……」

泣きすぎだろう。ウォルフは言えず、ただただ唸った。

となると、こいつの血を――駄目だ。そこで思い当たる。


「止めろ、血の匂いは他の獣を呼び寄せる」

「あッ」

キマイラの弱点は、どこか抜けているというところだ。

パフがキマイラの魔力を感知できないというのも気にかかる。魔力にも相性というものがあるのだろうか。

「だがまっすぐ進むのは賛成だ。こうなったら強引にいくぞ」

ウォルフはそういうと、大型剣を引き抜き、正眼に構える。


手近な巨木を切り裂き、物凄い震動とともに、巨木は倒れた。

「これを続ける」

「しんどくね?」

「役立たずが二名だからな」


それを見ていたパフは呟く。

「パーティに賢者下さい」


==そのころ==

可愛いくしゃみが、夜の街に響いた。

「なによ、もんくあんの?」


金色二人組は要領よく、街中で宿を得ながら平穏に過ごしていた。


======


たしかにまっすぐ、森を抜けた。


戦場のど真ん中に、巨木を切り倒して現れた銀髪の人間に、魔族たちは驚愕を覚えた。


魔族:人種にありながら秩序を持たず、暴力と魔力による実力主義的な者たちを指す。

主に人型をたもちつつ、それでいて異なる者たち。

だがその銀色の何者かは、限りなく人に近い形をし、人である血と匂いをまき散らしながら、違和感を感じるほど、何かが違っていた。


その正体は、漆黒の大型剣。

まずはその剣身、持ち手の身長をゆうに超え、それが尾のように、鞭のように、さながら植物の蔓のようにしなりながら、木々をなぎ倒してきた。

次の剣の太さ――持ち主の腕を二回りするほどの幅をもち、それだけで重さを痛感させる。

重さとは即ち、ただだた純粋な破壊力を指す。これが脳天から叩きこまれたのなら、頭蓋であれば破裂し、腕ならば皮を残して中身を粉砕し、胴体であれば触れるだけであらぬ方向へ曲がる。


最後に、これほどの巨大さを、片手で振り回すこの――人間。


そんな人間、『この世界に存在しない』。


「あ~、森を抜けたは良いが、問題がいくつか」

「戦場のど真ん中だね。どうするよ?」

その銀色の背後から、見るだけで人間以外と評せる、翼を備えた人間が呆れながらその銀色の隣に立つ。

漆黒の髪、服、そして瞳――翼だけが白く、月光に映える。

「それが第一問題。第二に疲れた。第三に前が戦場、後ろが人食いの森――」

「はは、笑えない――絶体絶命ジャン」

「だから考えるんだよ。お前が」

「とりあえず両手上げて、交渉でもしてみる?」

おもむろに両手を上げる翼を持つ人間:キマイラだがその腕を弓が貫通し、腕があらぬ方向に曲がり、体が崩れかける。



「――――ッ」

悲鳴は上がらなかった。


「ッ」

代わりに、魔族の一部が、巨大な光に飲み込まれ――消失した。



銀髪:ウォルフの髪が流れ、その動きから大型剣を振るったのを把握していたのは、木々に身を潜めていたパフと妖精であった。

そして、その大型剣が何か光を放出し、魔族の軍勢を一瞬で薙ぎ払っていた。

その後、ウォルフの体が少しかがみ、肩で息をしているのが見て取れた。

その輝きの流れに見覚えがある。

魔力と人が呼ぶ力の奔流。それだろうか?


「あ~あ、いいの? 必殺技放っちゃって」

「そのヒサツ? 技とかいうのを止めろ――俺だってよく分かってないんだ」

黒い天使は失いかけた右腕をひらひらさせて、動作を確認しつつ、

銀の人間は大きく呼吸を整えてから、再び大型剣を構える。


「とうとう死ぬのかな、俺たち」

「俺はとうに覚悟していた。だが死ぬ気はない――あの女が何者か、まったくわかってないんだ」

「おや、記憶戻ったの?」

「わからん。ただ夢で微笑みかけてきた――妙な女。黒髪で黒い瞳で、髪の長い女」

「じゃ、生きて帰らなきゃその娘さんに悪いな――死ぬ気で生きろ、人間」

「貴様こそ、死ぬ気で守りぬけ、生かした意味がない」

「ああ、生きてきた意味がこんなとこでわかるなんて――面白い人生だったな、いや天生とでもいうのかな!」


両手と翼を広げる、キマイラ――

深く身構え、剣をまっすぐ正眼に構えるウォルフ――


その背後に、キマイラの流した血と、渦巻くウォルフの放った何かの渦に――


魔法陣が描かれる――


二人とも、後ろと叫ぼうとしたパフだが――

天と魔の渦に、それは降臨する。


「『よし、手を貸そう』」

光の奔流、だが当の二人は背を向けない。

二人の真ん中に、大鎌を携え、軽鎧をまとった女性が居座り、ゆらりと立ち上がる。


「この二人には貸がある。ゆえに助太刀しよう――」

「あとで話がある、堕天使」

「二度目の助力すいません――姐さん」

「うんむ。じゃ、必死に生き抜け、人間ども――」

宵闇に降誕した光の女。虹を纏い、動くたびに色を脈動させる翼。

唯一、変わらぬのは軽鎧に色づいた赤黒い色彩。


三色は、それぞれ闇夜に向かう――


=====


結局パフは、最後まで眠れなかった。

「天使づかいが荒いと思うのだが?」

彼女を背負う、大天使の娘はぼやく。


「いや、女の子を背負うと、男子的に」

「なるほど、胸部の接触だけで欲情できるのか、それなら大丈夫」

「だいじょばねぇよッ!」


結論から言うと、ウォルフたちは生き延びた。

そもそも将軍クラスを倒したあたりで、統制は崩れ、やがて撤退していった。

主にウォルフの破壊剣:光の奔流をぶち込む一撃があのあと三度ほど叩き込まれた。

それに巻き込まれるキマイラと大天使は、それでも暴れるのを止めないというリビングデッドな戦い方。これは誰でも嫌がる。

大天使は謎の回避、キマイラに至っては黒焦げから爆発の過程を経て蘇生する。

彼自身は(アドレナリンでもガンガンだったんだろうか?)と自分の行動を納得させていたのだが、もう二度としたくない戦い方でもある。


なお、敵将軍の最後は爆死である。


「そもそも姐さん、どうやって現れたんです?」

「お前の無意識化をちょちょいといじって、良いところにウォルフの魔と君の魔が混じったので、それを通じて逆召喚を編んでみた。ようは無理やりこれるようになったんだ。

それを経路に土塊から肉体を構成して、こうして人間として現界した――一度、君たちで召喚の手順を見ているからな」

天使:彼女はマザーと名乗った。妖精が名付けたそうだ。

彼女は言った。キマイラ四人が召喚されるのを見ていた、と。

「なら俺としては聞かなきゃいけないことが」

「知ってる。ウォルの故郷だろう。この世界にはない」

彼女は断言する。それはキマイラも気づいていた。多分、ウォルフもだ。

「次に帰り方としてはウォルフの記憶が戻らないと確実には帰れない。強制的に移動しても、また別の世界に行くのが目に見えている。

次に移動手段は私が降臨できたので問題ないだろう。バックアップに君もいる」

なんとなく、気づいていた。

この膨大な力はキマイラの手に余る。使うべき時と場所があるなら――きっと、と。

「最後の問題は、この移動手段がポンコツでね」

天使がポンコツと言う言葉を使う方が驚いた。

「暇つぶしに改良を試みているが、本来はの召喚陣なのだ。これでは後の二人を巻き込んだままになってしまう」

「あ~、あの二人を放置して帰るのは確かに後味悪いっすね」

キマイラは頷くが、そうなるとあの二人と再会するのもまた目的となる。

「いや、ここに残るというのなら問題ないのだが――まぁ、まずは対話だ。お互い、納得なしにことを進めてしまえば、最後は争うしかなくなる。

私はあまり強くないのだ。多分」

昨日あれだけ蹂躙しておいて、言うセリフがこれである。

そもそも、彼女との会話には最初、苦労を強いられた。

まず人間と、この世界と、そして彼女の価値観がまったく違う。

キマイラが会話を続けられるのは、彼女に一度、曲がりなりにも命を救われているからであろう。

ウォルフに助けられた際の感情と似たようなものを、彼女にも持っている。

その感情を依存、と気づいてはいても、今はそれしか生き残るすべを知らない。


「いや、それもメインだけど、召喚された者として、一個確認したいんだよ。俺たちはあの御姫様、現王女様になるのかな、に召喚されたと思いこんでいる。

けれど、この体になって、白の魔法陣を感知して気づいたんだ。姐さんの逆召喚も確認してわかったんだけど。

……俺たちを寄せ集めたのは、姐さんでいいんだな?」

それは、依存心とは別の、懐疑的な設問であった。

ウォルフは現在、キマイラが背負っている。

一晩中戦い続け、彼も糸が切れたように「あとは任せた」と天使との会話をキマイラに押し付け、今は寝息を立てている。


「ああ、私だな。ただ私は最初に拾った ウォルフ から、連鎖的に君たちの場所に飛ばされてしまい、そこで死にかけていた君たちを次々拾っていっただけだ。

四人目にして、ようやく君たちの認識で言う『誘拐』にあたるのだろうかと思ったのだが、まぁ人間の一人や二人から四人、いなくなったところで問題ないかと。

ちなみに君の死因を聞きたいか?」

空を仰ぎ、思い出しながら言葉を告げる仕草に、嘘や誇張は見られなかったが、相手は天使だ。知識や経験など到底およぶまい。

「話を信じるなら、命を救われたってわけか」

「そう解釈してもらえると嬉しい」

「天使に嬉しいって感情はあるのか……」


そして、意外な言葉にキマイラは戸惑う。

「ああ、お前と同じ、人間に、ヒトに教わった。ヒトを理解しない者にヒトを救うなど愚昧極まる、と怒られた」

彼女は、以前に人間とかかわっていたという内容。

それを問い詰めようとして、街が見えてきた。

「まずはこの荷物を布団に叩きこもう。そのあといろいろ相談しようか。

君は世界の情勢など、今のところは興味がないのだろう。さしあたってその体の調整も必要だろうし。なんの拍子に爆発でもされたら、私でも手に負えない」

「あ、俺爆発するんっすか」

「この星を丸ごと破壊する程度だ。軽い軽い」

「大参事じゃないっすか、人類滅亡!」

「私の予見ではあと四回ほど世界を壊して成長すると思う」

「……嘘に聞こえない」


空を飛ばない天使たちは、とぼとぼ街路を進む。

傍らの小さな光が、どことなく遠くで輝いていた。

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