【KAC9】小説家のカク頃に~カクヨム三周年おめでとう!

《伝説の幽霊作家倶楽部会員》とみふぅ

ウンエイサマ、三周年おめでとう!

ここはカクヨム村。

山間にひっそりと存在する秘境であり、三年前までは外部からの移住さえ禁止されていた場所である。


俺、相良 圭壱けいいち都会なろうからそんな村へと引っ越してきた。

ここはあそこほど人と活気に溢れた場所ではないけれど、都会とは違い、空気も淀んでいないし、人混みにあうこともない。


なにより、ここには俺を受け入れてくれる仲間がいる。


学校として運営している木造の建物に入り、俺が所属する非公式の部活『カクヨム部』へと向かう。


『カクヨム部』とは要するに文芸部のことだ。皆で集まってお互いが好きなジャンルで小説を書き、読み合い、感想を述べることでより良い成長を促しあう、という目的で活動している。


「おーっす、皆おはよう!」


扉を開けると、そこには四人の少女がいた。



「あ、圭壱君。おはよう」


こいつの名前はカノ。本名は叶というらしいが、本人がそう名乗っているので俺達もカノと呼んでいる。見た目清純そうに見えるが侮るなかれ。なんとこいつは。


「……はぁうぅ!?圭壱君のオットセイストラップかぁいいよぉ!おっもちかえりー!」

「おい待てカノ!泥棒は犯罪だー!!」


そう、可愛いものは何でも持って帰ろうとする危ないやつなのだ。

加えて書く小説のほとんどが変態チックなものばかりである。お持ち帰りされたものがどうなるかというと……知らない。俺は何も知らないぞ。イソギンチャクにヌルヌルにされた可愛いもの達のことなんて知らない……。



「圭壱、朝から大変なのですよ。にぱー☆」


俺に無邪気な笑顔を向けるこの子は、うみ。

このメンバーにおいての唯一の清涼剤である、絶壁まな板娘である。本人は「貧乳はステータスなのですよー」と無い胸を張っている。書くジャンルは統一性がない程バラエティに富んでいて脱帽するが、一つ共通点をあげるならば、女性キャラのほとんどが一部分が貧しいキャラということだろうか。どこがとは言わないが。



「あはは!圭ちゃん。朝から笑わせないでよー」


腹が捩れると喚きながら涙を浮かべる少女はこの部活の部長、水樹である。


一時期は長編小説などをあげる書き手であったが、今は筆を置き、読み専となっている。

手先が器用で様々な創作活動に取り組むため、困ったときに大変頼りになる存在だ。



そして、俺は最後の一人に視線を向ける。


「ふんもおおおおおお!!」


……頭に牛の頭部を模した被り物を着けている彼女は、うっしー。牛である。以上。



カクヨム村には村人一人一人が書き上げた小説を読み、評価するという習慣がある。

この四人は、ここに来て間もない俺が早く村の環境に馴染めるよう、この部活に誘ってくれたのだ。だから俺も、そんな彼らの想いに応えるためにも、より良い小説を書きたい。


え?俺が何を書いているのかって?


……ふっ、決まっているだろう。





男ならミニスカ白ハイソックスのエルフしかねーだろJK!!



カノの可愛い物探しに廃棄場まで付き合ったとある日の夕方。


「こんな所で何か探し物かい?」


バッと振り返ると、そこにはタンクトップの男がいた。


「うほっ、いい男」

「やぁ、僕はとみた……トミー・フゥ。ジャンル不問フリーのライターでね」


トミーさんとはそれからしばらくなんでもない話をしていたが、ある時彼の様子が変わった。


「それにしても、こういう伝統を大切にする村って、過去になんかあったんじゃないかって疑っちゃいますよね」

「……」

「トミーさん?」

「いやな、事件だったね。犯人が見つかっていないんだろ?」

「……え?」


その後、黙りこんで去ってしまったトミーを見送り、俺はこの村について調べ始めた。


ゴミ廃棄場の奥の奥。そこにあった過去の週刊誌にそれは載っていた。


カクヨムフォロ爆・☆爆事件。


企画クラスタ事件。


pv爆殺事件。


「……なんだよこれ」


それ意外にも、小さいながらも物騒なものがわらわらわらわらと出てくる。


どうしてカノ達は、このことを教えてくれなかったんだろう。


このとき、俺の中にほんの僅かな猜疑心が生まれた。



「垢流し?」

「うん、年に一度、夏祭りでやる大事な行事なんだよ、だよ」


彼女達に聞けずじまいのまま、あれから数週間。


今日はその夏祭りの当日。俺はカノからそれに関する詳しいことを教わっていた。


「垢とアカウントを掛けててね。綿でごしごし腕を擦って、その綿を川に流すの」

「へぇ、変わった行事だな」

「うん。だってウンエイサマへの感謝と、認知のための行事だもの」

「ウンエイサマ?」


聞き慣れない言葉だな。


「ウンエイサマはね、この村の神様なんだよ。私達を温かく見守ってくれてるの」

「ふーん、神様、か」

「……でもね」


今まで明るかったカノの様子が突如、ほの暗いものへ一変した。


「ウンエイサマは、村を捨てる者や不正を決して許さない。その怒りに触れたが最後、どこまでもどこまでもついてくるの」

「……」

「だから、圭壱君もちゃんと敬って、気を付けないと駄目だよ?」


普段と変わらぬ様子に戻ったカノに、俺は何を言えばいいか分からなかった。




夏祭りを終えてから、俺の周囲はおかしくなってしまった。


まず、筋肉モリモリマッチョマンの変態的なバーサーカースタイルで発見されたトミーさんの死体……イソギンチャクに襲われながらも、その顔は恍惚としていた。


「トミーさんは、ウンエイサマの怒りに触れてしまったんだよ!!」


いや、どっからどう見てもお前の飼っているイソギンチャクのせいだろこれ。




部活に所属し始めた当初から気になっていた、部室のロッカー。そこに書かれた『まなみん』という文字。


「まなみんはね、私達の仲間だったの」

「……だった?」

「うん、まなみんはね、『転校』したの」


カノのその声は、酷く冷めていた。


「転校って、どこに?」

「ここから遠い、遠い、お月様。今頃きっとろくでもない目にあってるんじゃない?」

「なんでそんな他人事なんだよ」

「罰だから」

「罰?」

「まなみんは信じなかったの。ウンエイサマの存在を。ウンエイサマは信じる者には寛大だけど、信じない人には祟りでもってその存在を認めさせるの」


圭壱君も、『転校』したら、やだよ?


耳元で呟かれたその言葉が、弾んでいるように聞こえたのは気のせいだろうか。




村にて発生する不可解な事件。突如村人が消える事件。容疑者が消息不明になる事件。村を出た若者がその後音信不通になる事件。


彼らは、これら全てを総称して、こう呼ぶ。


ウンエイサマの祟り、と。


「ウンエイサマからは逃げられない。ぺたぺた、ぺたぺたと後ろにべったりとくっついてくる。だから、気を付けなよ?圭壱君。もし、足音が聞こえて、そこに誰もいなかったら、それはウンエイサマなんだから。疑いが晴れない限り、ついてくる。たとえ、地獄の果てまでも」




「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」


何故だ。一体、どうしてこうなった。


俺は裏切ってなんていない。不正なんてしていない。なのに、何故。


何故、足音が聞こえる……?



ぺたぺた。ぺたぺた。ぺたぺた。ぺたぺた。



もう、三日だ。どこにいても、聞こえてくる。俺が止まっていれば聞こえない。だが、視線を強く感じる。ご飯のときも、寝ているときも、ずっと、ずっと。



ぺたぺた。ぺたぺた。ぺたぺた。ぺたぺた。



俺が何をしたって言うんだ!俺はただ、皆で仲良く小説を書いて、毎日を楽しく過ごしたかっただけなのに!



ぺたぺた。ぺたぺた。ぺたぺた。ぺたぺた。



頼む。もう、いい加減にしてくれよ!いい加減に……。



ぺたぺた。ぺたぺた。ぺたぺた。ぺたぺた。



ぴたり。



俺が止まると、やつも止まる。



俺はすぐさま、手に持ったバットを振り向き様に思い切り横へと振った。


大きく唸りをあげたバットが空気を切り裂きそのまま――。




なんの抵抗もなく、通りすぎていった。


「……あ………?」


ポタポタと赤い何かが流れるのが視界に入る。


更に下へと視線をおろすと、そこには小さなフクロウが、瞳をぎらつかせて悠々と佇んでいた。


やつは、こちらへと眼を合わせるや、ニタァと笑みを浮かべ――。






デンデン デンデン


デンデン デンデン


デン デデン♪



おきのどくですが


あなたのアカウントは


きえてしまいました。





「うわああああああああ!!」


暗闇に包また部屋の中、俺は絶叫をあげながら飛び起きた。


服に触れると手の平には湿った感触。


「な、なんだ……夢か」


昼寝のつもりだったのに、疲れていたのか、もうすでに夜である。


手探りで明かりをつけ、コップに水を注ぐ。


コップを持って部屋に戻り、机のマウスを動かす。スリープ状態から起動した画面には小説投稿サイト『カクヨム』が映っていた。


「三周年、か」


かつての記憶へと想いを馳せ、感慨に耽る。


なんだか、あっという間の三年間だった気がする。


サイトとして動き始めたあの頃はまだ知名度は低く、ユーザーも少なかった。


応援コメント機能なんてなかったし、自主企画なんてものも存在しなかった。


ユーザー同士で罵り合い、☆爆やフォロ爆が起き、運営に抗議することもしばしばあった。




それでも、この三年という年月は決して無駄ではなかった。


運営が管理し、ユーザー達が己の想いを胸にぶつかり合い、ときに運営も巻き込んで。


少しずつ、少しずつ改善されていって。


そうやって、今の『カクヨム』が生まれた。


もちろん、騒ぎに嫌気が差し、退会してしまった人もたくさんいる。そんな人達もまた、このカクヨムを支えてくれた大事な存在の一部だった。


今のカクヨムを見たら、彼らはどんな顔をするだろう。そう思うと、自然と笑みが溢れる。


いつか。そう、いつか。彼らがまたこのサイトへと戻ってきてくれる、そんな場所になることを切に願う。



どうかこれから先もここが、ユーザー達の良き居場所であるように。



画面にデカデカと映る、どこか抜けた顔をしたフクロウ。


俺はそんなトリにコップを軽く触れさせた。


「カクヨムにいる全てのユーザーに、そして三年間ずっと頑張ってきた運営に乾杯」



ウンエイサマ、三周年おめでとうございます



どうかこれからも良しなに

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