第4話 彼女とヤハギ②

 彼女は高校卒業後に一年間ニート生活をしていたが、なんとか立ち直って地元の繊維工場のパートの仕事に就いていた。学業優秀だったが中絶のショックが原因で勉強に手がつかず大学進学を諦めたのだ。ふくよかだった彼女は痩せてしまった。


「もう一度大学受験に挑戦してみたら? 」

「何か資格取得のために専門学校に通ってみたら? 」


 心配する両親は勧めてくるが乗り気にはなれなかった。ひたすら糸を紡ぎ織る仕事をしていると嫌なことが忘れられた。必要最小限の糧を得るためにただひたすらに労働する。


 工場にはシングルマザーが多かった。バイトを3つ掛け持ちして子供を育てている十代の娘もいる。年金だけでは食べていけないから。息子が病気で働けないから。理由は様々だ。


 私も訳ありの女だ。お互いに傷を舐めないながら励まし合う。いつの間にか居心地のいい職場になっていた。賃金は安いが辞める気は無い。もちろん将来に不安はある。だがあの頃から心にポッカリ穴が空いていて、私は前に進めていなかった。あの人は今何をしているだろうか? 


「会いたいな......」


 数年間、まだヤハギの事を引きずっていた。




 彼女はパートの仕事の前に必ず喫茶店に立ち寄る。全国チェーン店で朝六時半から営業している店だった。


 何年もこの習慣を続けているため、店のスタッフは彼女が何も注文しなくても、いつものブレンドコーヒーを持ってきてくれる。出勤前に新聞を読むサラリーマンや毎日必ずモーニングを食べにやってくる老人。みんな顔なじみになり其々の席の場所も決まっていた。


 今日は雪が降っていたので少し出遅れた。そのせいで到着時刻が遅れていつもの場所に先客がいた。息を飲んだ。


「久しぶりだね」


 高校時代よりも貫禄があり、頭の禿げたヤハギがいた。

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