第6話 ダークホース

 イノウエごとガチャピンはコオロギの生態について熱く語った。女子はほぼ全員が引いていたが、イノウエはこれしか自信を持って話すことができない。全く手応えはなかったが、女子と近くで話せることができて満足だった。


 フリータイムでは壁に寄りかかり、離れて会場を観察していた。見た目が良く会話の上手な者には人が群がり争い奪い合う。きっとこれからも自分には縁がない世界なのだろう。今回は参加できてよかった。いい思い出ができた。


 イノウエが感慨深く浸っていると、スタッフであるハルナが音もなく忍び寄りカードを渡してきた。


「頑張ってね」


 呆気にとられるイノウエはカードを読んだ。こじんまりとした可愛い字でそこにはこう書かれていた。


 私も生物いきものが好きで化学部に入っています。でも私の趣味を理解してくれる人はいないと思い、プロフィールには載せませんでした。驚きました。目をキラキラさせてコオロギの事について話してくれた貴方に興味があります。こんな私でよければ、もっとおしゃべりしませんか?


 メールアドレスと電話番号まで書かれていた。周りを見渡すと壁の花になり、恥ずかしそうに顔を赤らめながら自分を見ている小柄な少女に気づいた。眼鏡をかけ髪を三つ編みにして、タンポポをイメージさせる素朴な少女だった。


 二人は近づき見つめ合う。この二人は将来結婚する事になるが、今はまだ誰も知らない。

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