第5話 本番当日

 六月三十日、S市公民館内。身だしなみを整えた若い男女は、不安と期待が入りまじった表情で会場入りした。だがそれも一瞬のことで、会場に入ればカタログで予備知識のあるお目当ての相手を前に興奮が隠せない。


 服装は制服だが髪型は自由だ。この日のために人生で初めて美容院に行った者も少なくない。男子は清潔感を意識し女子は化粧はもちろん、手の爪先にまで気を配り、男子が隣に座った時にさりげなく香る香水をつけている。会場はむせ返りそうな若い熱気に包まれていた。


 回転寿司のように時計回りに席を移りながら、一対一で対話していく。笑いを取ろうとする者。相手の詳しい情報を聞き出そうとする者。本命を前に自分のアピールに余念がない者。異性とのおしゃべりがとにかく楽しくて仕方ない者。


 運営スタッフはその喧騒の中、さりげなく軽食やドリンクの補充をしたり、参加者の質問に耳打ちで答えながら黒子に徹していた。


 会場の出入り口ではクボとシオヤが奈良の金剛力士像のように目を光らせている。外にはRSIの屈強な男たちが邪魔者が入らないように建物の周りを徘徊していた。


 司会のヤハギとマツミヤは参加者たちの笑いを取りながら、会場を盛り上げスムーズな進行をしている。一周したところで、一旦休憩する。


 一度男女を分けて、「印象確認カード」に話が合いそうだな、お付き合いしたいなと思う相手の番号に印をつけてもらい、「アプローチカード」に直接メールアドレスや電話番号などのメッセージを記入してもらう。スタッフはその二つを回収し集計して、フリータイム中に相手にこっそり渡すのだ。


 そこは残酷な弱肉強食の人間恋愛社会。やはり偏る傾向があった。モテる奴はとことんモテ、モテない奴は限りなくモテない。


 しかしまだ諦めてはいけない。スポーツや勉強よりもさらに不確定要素の多い恋愛は、最後まで何が起こるかわからないのだから。

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