第4話 準備③

 彼女のそばにいることができて、シオヤは本当に幸せだった。まるで恋人のように放課後デートまでしている。しかしそれも今日までだ。もう口実がなくなってしまう。明日からはただの幼馴染に戻ってしまう。「自分の気持ちを相手に伝える」ヤハギの言葉を思い出していた。


「シオヤ君〜。明日のことなんだけど〜」


 F高の運営スタッフ女子三人組だった。普段より二オクターブ高い声で声をかけてきた。


 シオヤは長身でイケメンであり、バトミントンの全国クラスの選手である。シオヤのマツミヤに対する上級ストーカー並みの執念を知らない女子からは当然モテた。女子たちはシオヤと仲良く、あわよくば恋人になりたかった。


 シオヤから見ればピクリとも反応しないが、仕事はきっちりやらなければならない。基本的には真面目な男なので無視はできなかった。マツミヤにも見られている。


「なんだい? 」


 シオヤがマツミヤから離れていく。




 女子三人組がシオヤに声をかける、遡ること十分前。女子トイレの鏡の前で念入りに見出しなみを整えながら


「誰がシオヤ君と仲良くなっても、恨みっこなしだからね」

「わかってる。でも本当にかっこいいよね〜」

「本当。なんで彼女いないのかな? 」

「やっぱりバトミントンに青春を捧げたから女の子に対して奥手なんじゃない? 中学時代の彼って今よりストイックで、休み時間もバトミントンの練習をしてたって話よ。すごいよね〜」


 それは違う。彼はストーキングで忙しかっただけだ。


「私がシオヤ君に女の子を教えてあげなくちゃ! 」

「今の言葉、いやらしい〜」

「そうゆう意味じゃないよ。普通に付き合うってことだってば! 」


 女子三人寄ればかしましい。そのまま三人は賑やかに出て行った。そのあと複雑な顔をしたマツミヤが個室から顔を出した。




 そして現在、シオヤが女の子に囲まれて色目を使われている。マツミヤはイラついていた。用事が終わりシオヤが戻ってくる。


「いや、ごめん、ごめん」


 シオヤはいつもの爽やかな笑顔だったが、鼻の下を伸ばしているように彼女には見えた。


「何がごめんなの? 」

「え、話の途中だったから......」

「私、別に待ってなんかいないわ。だからもっとお喋りしてくれば? 」


 彼女はご立腹でそのまま帰ってしまった。シオヤは立ち尽くしている。


「いい兆候だ」


 ヤハギはニヤリと時代劇の悪代官のように唇を歪めた。

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