第3話 準備②

 ここはF高の歴史資料室。男子のカタログが公開されていた。女子がはしゃいでいる。


「将来の彼氏候補だからね。真剣に見るのよ」

「は〜い!!!!!」


 実に楽しそうだ。ササヤンが思うよりも好評だった。


「男は照れくさいからふざけちゃうんだ。でも決してやる気がないわけじゃない。分かって欲しい」


 ヤハギがそう言って渡してきたカタログを見て笑ってしまった。写真もふざけているが、プロフィール欄も「実際に触って確かめましょう」や「ご想像にお任せします」や「あなたの行きたい場所が、私の行きたい場所です」などでボケまくっていた。悪ふざけが過ぎるが、限度を超えると可愛く見えてくる。変化に富んでいて実に飽きない。


「この人どういう人なのかな? 」


 逆に想像力をそそるのだった。当日の話のネタにもなりそうだ。計算して作っているなら大したものだ。


 目をキラキラを輝かせて見ているササヤン。その横顔をハルナが切ない表情で見つめていることに、気づく者は誰もいなかった。




 六月二十九日、S市公民館。今日は本番を想定しての予行演習を行っていた。本番と同じ時刻にスタートして、スタッフに演者をやらせて時間を測る。会場の飾り付けも終わらせ、すべての準備を整えてヤハギが言った。


「今日までみんなよく頑張ってくれた。明日に備えて夜は早めに休んでくれ。明日は十一時に公民館に集合。遅刻は厳禁で。解散! 」


 みんなが散っていく中、マツミヤはブツブツと明日の予定プログラムを読み込んでいた。


「お疲れ。大丈夫か? 」


 シオヤが声をかける。


「うん、大丈夫。なんか緊張しちゃって」


 この二人は仲良くなっていた。やはり同じ目的を持って仕事をすると人間性が見えてくる。マツミヤは幼馴染であるシオヤには阿吽の呼吸で思いが伝わっていることを感じていた。自分の欲しいもの、伝えたいことを説明しなくても理解してくれるのだ。非常に仕事がやりやすい。おかげでアシスタントの仕事に専念できている。


 最近では放課後待ち合わせして、仕事の相談をしながら帰宅したり、そのまま一緒に外食するまでになっていた。


 しかしそれも今日まで。明日のイベントが終わってしまえば、もうそんな事はしなくてもよいのだ。準備期間は楽しく充実して、その分だけ終わってしまう喪失感も感じていた。

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