第2話 準備

 ここはヤハギの家。ヤハギとクボも女子に渡すカタログを仕上げていた。


「しかしなんだな。何とかならなかったのかね」


 クボが写真をペラペラを扇のように仰いでいる。


「いいじゃないか。実際に話せばメッキなんて剥がれるんだし。女は男より鋭いからな」


 ヤハギが作業しながら答える。


 「女子に見せる写真を撮ってこい」


 男たちには難問だった。合コン用の写真など今まで撮ったことがない。


 ある者は髪を七三分けにして蝶ネクタイにスーツでまるで芸人だった。


 ある者は今は夏なのになぜか冬のスキーウェアを着込んでいた。理由が自分の持っている一番高い服だから。


 ある者は体育祭で走り抜けている姿だが、逆光で顔が写っていない。理由が自分が一番輝いている姿だから。


 その他にも変顔や顔が緊張しすぎて原型をとどめていない者。生徒手帳に貼った過去の自分の写真を持って来た者。ビキニパンツでダブルバイセップスのポージングをした者。剣道の面を被っている者。赤ん坊の頃の自分の写真。ペットの猫の写真。女装した者。目線に黒い棒を加工した者。リューピー君の生首。飼育しているコオロギ。鯖江産のメガネ。ソースカツ丼。越前がに。とにかく酷かった。


「本当に全員これでいいんだな? 」


 一応確認したが


「問題ない」


 なぜか誇らしげに言うので、時間もなかったので諦めた。


「終わったぞ! 」


 矢作が編集作業を終えてカタログを見返してみるが、とても合コン用には見えない。女子が笑ってくれることを祈るしかない。


「お疲れ〜」


 畳に寝転ぶ二人。


「シオヤはどうした? 」

「マツミヤと買い出しに行ってもらってるよ」


 あの会議の後、司会がヤハギ。アシスタントはマツミヤ。警備責任者がシオヤ。受付がクボとハルナになった。運営スタッフそれぞれの役割も決めてリハーサルも入念に行なっていた。文化祭前夜のような高揚感があった。



 二日後T高校、放課後の視聴覚室。音楽室から廊下を伝い吹奏楽部のライディーンの演奏が響いてくる。二年四組の男たちが集まっていた。今日は待ちに待ったF高校女子のカタログ公開日。二十人同時では見づらいので一グループ六〜七人で分けた。シオヤと矢作がボディーチェックを行う。撮影機材は持込厳禁だ。


「一応言っておくが不正行為をした者には退場してもらう。時間も限られているので、仲良くみるように。それではどうぞめくってください」


 代表して出席番号一番のイノウエが本に触れる。そこには素晴らしい光景が広がっていた。ある者は猫耳をつけて。ある者は清楚な感じで。あざとくポーズをとった者や遠くを眺めている者。片膝を抱えてパンツが見えそうな子もいた。蛍光ペンでイラストを入れたり、ラインを引いて「ここ重要♡」とクリクリした文字で注釈が入れてあった。


 甘ったるい、煌びやかな世界がそこにあった。男子は興奮して、ページを広げるたびに歓声をあげる。


 目を皿のようにして文字を読み、情報を頭に叩き込む童貞達。


「将来の恋人候補だからな、しっかり読めよ」


 その言葉にさらに真剣になる男達だった。




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