第3章 彼女の場合
第1話 秘密
数日後、ここはササヤンの自宅の部屋。二人の少女が机に向かい作業をしていた。
「よしっ、できた! 」
「お疲れ様」
ササヤンとハルナはパーティーに参加する者たちのプロフィールと写真が貼られたカタログを編集していた。本人の簡単な情報を載せたカタログを製作して、本番三日前にお互いの高校で閲覧できるようにしておく。ヤハギのアイディアだった。みんな気合の入った、自分が一番可愛く見えるポーズをとっている。非常に味のある可愛いカタログが完成した。
「よし。明日男どもに渡して......閲覧会場はどうしようかな? 」
「放課後に歴史資料室がいいんじゃない? 人が寄らない場所だし。文芸部の友達に頼んでみる」
「ありがとう、助かるわ。でも本当に良かったの? 運営スタッフになって。私は言い出しっぺで責任があるから資料作りしてるけど、当日はパーティーに参加するし」
「いいのよ。今は男に興味ないし。こっちの方が面白いわ」
「ハルナは美人だから、参加したら強力なライバルになってたわ」
背伸びして、肩を鳴らす。
「お茶にしようか。ケーキがあるから持ってくる」
「うん。ありがとう」
部屋を出ていくササヤン。悪ぶってはいるが、ササヤンの部屋は実に女の子らしい。ぬいぐるみがたくさん置いてあるかわいい部屋だった。ハルナはササヤンのベッドにうつ伏せに寝転んだ。そして鼻息を思い切り吸い込んで枕の匂いを嗅いだ。
「本当に、男には興味がないのよ......ササヤン......」
自分の性癖に気づいたのは十歳の時だった。初恋が教育実習の女子大生で告白したが相手にされなかった。かなり悩んだが、思春期特有のもので次第にノーマルに戻っていくと信じた。しかし実際は戻らず、気づけば女の子ばかり目で追っている。
レズビアンであることは誰にも言っていないし、身体の経験はない。女子校に入学したのは学力に見合った学校を選んだだけだ。
両親は気づいていない。一人娘の私を目に入れても痛くないほど溺愛してくれている。
「ハルナは美人だから男は尻込みしちゃうんだろうな。でもいずれいい人が見つかるよ。その時はすぐに家に連れて来なさい」
「わかったわ。パパ」
嘘をつくと胸が痛んだ。一生そんな事は起きる筈がないのだから。
演劇はいい。私は背が高いので男役がよく回ってくる。演じてる時は自分のマイノリティな性癖も忘れられた。
正直、田舎は息苦しい。都会に行けば仲間に出会えるかもしれない。悩みを打ち明けられる人間だっているかもしれない。
ササヤンに出会ったのは高校入学の時だった。話しかけると関西から福井に戻って来たばかりだと言う。田舎にいないタイプの垢抜けた雰囲気を持つ少女だった。可愛くて、チョットませた、恋に恋する少女だった。一目惚れだった。
今回のイベントには興味はなかったが、ササヤンに頼まれたので引き受けた。愛する人のために何かしてあげられることが、私は本当に嬉しかったのだ。それは性別なんて超えてしまう。
この想いはササヤンには言えないし、言うつもりはない。彼女はノーマルであり、告白すれば愛する人も、友達も同時に失ってしまうのだから。仮面をつけて演じるのには慣れていた。
ササヤンがケーキをお盆に乗せて戻って来た。
「お待たせ。紅茶も淹れて来たわよ」
「わ〜。美味しそう! 」
私は今日も愛する人の前で、演じ続ける。
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