第7話 コンプライアンス

 土曜日、学校が午前中で終わり友達と遊びに行く者や、午後の部活に備えてピクニックのようにお弁当を広げる者たち。T高校の庭はオレンジガーデンと呼ばれている。鮮やかにオレンジに塗装されたコンクリートの道の周りには、若草色の芝生が広がり、傍には茶色の木のベンチが並んで設置されている。


 青空には所々白いすじ雲が流れ、直射日光は少なく風が心地よい。木陰でランチタイムを楽しむ学生たちの憩いの時間がゆったりと流れていた。


 クボは二階の視聴覚室からその様子を眺め、分厚い遮光カーテンを引き、男たちに向き直った。二年四組の男子一同が揃っていた。ケータイを使えばこんな手間を取る必要はないが、用心深いシオヤが


「証拠が残る」


 と言い張るため口頭で伝達することにした。この部屋はRSIの非合法な力で鍵を取得して秘密裏に使用していた。朝一番、教室の後ろの黒板の左隅に合言葉が書いてあれば、昼休みにこの部屋に集合することになっていた。合言葉は「トラ、トラ、トラ」だった。


「諸君! 合同コンパの日時を伝える。六月三十日の日曜日、午後十二時にS市公民館に集合だ。制服を着用すること。参加費は一人二千円。昼飯は済ませておくこと。終了予定時刻は午後三時だ。女子の参加人数も二十人だ。特に必要なものはない。いるのは己の身体のみ。体調を崩さず万全の体制で来てくれ」


 歓声が上がる。


「もう一つ伝えたいことがある。最近F高校周辺にカメラを持った不審者がうろついている情報が入った。帽子をかぶった若い男が女子高生に話しかける事案も発生している。彼女たちは怯えている。私は大変心を痛めている。そこでだ......先生! お願いします! 」


 ゆらりとシオヤが前に出る。左手には福井県警察のシンボルマスコット「リュウピー君」人形が抱えられ、右手には真剣が握られていた。


「御免! 」


 上空に人形が投げられる。素早く居合の型に構えたシオヤは目にも止まらぬスピードで刀を一閃。人形の首が椿の花が散るようにボトリと落ちた。


 その戦慄の光景を見た男たちは言葉を失っていた。床には首と胴体に切断されて、中身のワタがはみ出た人形が悲しげにこちらを見ていた。


「ヤマダ、イノウエ。そのリュウピー君の首を拾って裁縫しといてくれないか? 」


 突然名前を呼ばれて、目を見開く二人。


「な、なんで俺たちがそんな......」

「たまたま目についたからさ。このままじゃリュウピー君が可哀想だろう? それとも俺がお前たちに頼む深い理由があるとでも? 」


 震える二人。RSIの報告により犯人はわかっていた。そして他の男子も望遠レンズを購入したという情報も入っていた。


「人は過ちを犯す。でも俺は一度は許すことにしている。意味はわかるな? 」


 二人は黙って人形を拾った。


「よし報告は以上だ。解散! 」


 我先に、男たちは散って行った。


 

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