第6話 アクション②
会話は弾んだ。改めてお互いの自己紹介を済ませ学校のこと、家族のこと、将来のことについて話していた。話題は尽きない。
「マツミヤさんは誰か好きな人いないの? 」
「いない、いない。勉強と家事だけで精一杯だわ」
「もったいない。可愛いのに。さっきの大きい人はどうなの? 幼馴染なんでしょ? 」
「シオヤ君? そうゆう感じで見たことないな。弟みたいなもんだしね」
「そうなんだ」
会話が止まった。何か言いたそうにモジモジしている。
「実はね。誰にも内緒なんだけど」
ナカジマハルナはササヤンの友人だ。演劇部所属。高校卒業後は上京してアクターズスクールに通い女優を目指そうと考えている。今回のヤハギからの依頼で紹介してもらったエージェントだ。友情と女優魂に火がついたらしい。ここまで素晴らしい演技をしてくれている。ササヤンは感心していた。
店の端席で帽子をかぶり、彼女たちの会話を聞いているのはヤハギとササヤンだった。クボは昼間の大仕事(集団催眠)でダウンしてしまい、休養をとってもらっている。あいつも実にいい仕事をした。人間一つぐらいは取り柄があるものだ。残念ながらシオヤは大根役者だったが、まだマツミヤにはバレてはいないはずだ。
ハルナは会話の要所でシオヤの話題を振ることより、マツミヤの潜在意識に好印象を与えるように差し向けていた。
「私ね。お見合いパーティーの裏方のバイトをすることにしたんだ」
「バイト禁止でしょ? 」
「うん。でも上京の資金も貯めたいし、それに演技の幅を広げるために色々経験したいんだ。なかなか田舎だと人数も集まらなくて、滅多にないバイトなんだって」
「ふーん」
「それでね、バイトの人数が集まらなくて、社長に誰か探してこいってい言われてるの。できれば同い年ぐらいで口が固くて聡明そうな子がいいんだけど。やって見ない? 」
お願いのポーズに上目遣いで目をウルウルさせている。あざといが美人がやると様になるものだ。男なら一発で落ちるが、果たして彼女はどうするかな? 今日会ったばかりの初対面だが、気の合いそうな友人になれそうな同級生からの誘い。
ここまでの彼女の演技は完璧だ。ちなみに脚本はヤハギが書いた。T高もバイトは禁止だが、彼女は母親の教育もありお金の大切さはよく知っている。先立つものは必要。十六歳で若く好奇心もある。何より困っている人を見捨てては置けない。条件は揃った。さあ、どうする?
マツミヤは一瞬だけ迷ったが決断した。
「ハルナは悪い人じゃなさそうだし、見捨てられないな。面接だけでも受けてみようかな」
「ありがとう! 助かったわ」
ハルナは笑った。華が咲いたようだった。
ヤハギも笑った。悪魔が微笑んだようだった。
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