第5話 アクション
放課後、今日は母親が夜勤であり、一人分の食事を作るのも面倒になったマツミヤは外食でもしようかと、鼻歌を鳴らしながら自転車で風を切りご機嫌で帰宅していた。
湿ったエロ本がよく落ちている高速道路の高架下のトンネルを通過しようとした時、ひっくり返った自転車と共に女性が倒れているのが見えた。
「どうしました? 大丈夫ですか? 」
目立った外傷はないが、スカートが少し土で汚れている。
「はい、大丈夫です。転んでしまって」
自転車をよく見るとチェーンが外れていた。
「本当に大丈夫ですか? 痛いところはない? 気分は悪くない? 」
「はい、受身もとりましたし、怪我もないです」
少し青ざめてはいるがすぐに立ち上がっている。自分と同じぐらいの年齢の少女に見える。サラサラのロングの黒髪の美人だった。身長も高く、痩せ型でモデルみたいだ。
「ありがとうございました。急に自転車のチェーンが外れて驚いてバランスを崩しただけなんです。ここら辺に自転車屋さんはあるかしら? この辺の土地勘がなくて」
マツミヤは困った。自分には自転車の修理技術はない。一番近い自転車屋はここから五キロは離れている。道案内をしたいけど、ここに自転車を置いてだと時間がかかるし、彼女を放っておくわけにもいかない。どうしたものか、悩んでいると
「どうした、マツミヤ? 」
自転車にまたがったシオヤがタイミングよく現れた。
「これくらいなら俺が直せるよ」
シオヤがカチャカチャと自転車を修理してあっという間に直してしまった。自分も自転車に乗って最終確認をする。
「フレームも曲がってないし、大丈夫みたいだね。自転車屋で油をさしてもらったほうがいいかな」
「ありがとうございます。助かりました」
「シオヤ君。ありがとね」
マツミヤの百万ドルの笑顔。生きててよかった。
「お二人ともT高校の制服ですよね。私はF高校のナカジマハルナと言います。
「私はマツミヤリカと言います。こっちは同じクラスのシオヤユキト。二人とも二年生です」
「私も二年生なの。同級生だね」
「えっそうなの。すごい偶然」
はしゃぐ二人。二人とも社交的ですぐに仲良くなる。その光景を眺めて、これはこれでアリだな、と何かに目覚めそうになるシオヤだった。
「よかったらお礼もしたいし、どこかで落ち着かない? 用事がなければだけど」
「私はいいけど」
「俺は用事がある。でも行くなら、そのすぐ先にあるファミレスがいいんじゃないのか? 店内は広いし、ゆったりしてて話しやすいぞ」
「そうなんだ。じゃあそこに行きましょう。マツミヤさん」
「うん。そうしようか......」
何だろう? シオヤくんの様子がおかしい。昔から後ろめたい時は早口になる癖があるけど......
「じゃあ俺はこれで。気をつけてな」
立ち漕ぎでジャンが鳴った後のS級競輪選手顔負けのスピードで消えていった。あっけにとられる二人だったが、顔を見合わせて笑い合い、店に仲良く向かって行く。
時間差で茂みの中から、双眼鏡を構えた二つの怪しげな人影が女子高生を尾行して行く。
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