第3話 オンステージ②

 お互いの顔を見ながら「なんだ、お前もかよ」「それならそうと、早く言ってくれよ」「みんな仲間だったんだな」奇妙な連帯感が生まれていた。全員が憑き物が落ちたような爽やかな顔をしていた。ヤマダは安心してニコニコしていた。


「でも、それでいいのか? 」


 全員がハッとクボを見た。


「このまま彼女もできずに、人生で三年間しかない貴重な高校生活が終わってしまって本当にいいのかい? 」


 いつのまにかヤハギは照明を暗くしていた。シオヤはカーテンを引いて日光を遮断した。教室の隅に怪しげなお香が焚かれ、クボの顔だけにアルコールランプの淡い光が照らされる。


「今を努力しない者には明日は来ない。頭のいい君たちならわかるはずだ。モテる者にはより多くの女性が近づき、仕草が洗練されて余裕ができてさらにモテる。モテない奴はとことんモテない。なぜかわかるか? モテないからだ! 大学生や社会人になったら自動的に彼女ができるとでも? はっ、甘いな! 過去の自分を振り返ってごらん...... 君たちにはすでに大きな差がついているんだよ」


 思い当たる節が多すぎて、苦悩する男子一同だった。


 催眠商法を知っているだろうか? 特殊な閉鎖空間で巧みな話術により、客の不安な心理状態を作り出して、高額な商品を買わせる一種のマインドコントロールである。前もって客の中にサクラを紛れ込ませて、最初は普通の商品を買わせるが


「この商品を買うと不安が和らぎますよ〜」


 タイミングよく


「私、買います! 私も! 」


 サクラに演技させ


「早い者勝ちですよ! 限定品で今だけしか買えないですよ〜」


 煽って、買わせた後に


「はい。売り切れちゃいました。残念でした」


 と突き放す。買いそびれた客が不安がっていると


「でも安心してください。次の商品はさっきよりも効力が強く、しかもこの次に紹介する有難い壺と合わせて買うと、なんとその効果は二倍に跳ね上がります。少しお値段は張りますが......」


 延々と煽り、徐々に値段を釣り上げながら買わせていくのだ。閉鎖空間で光、音、香り、言葉で人間の心理を操る卑劣な犯罪行為である。


 現在、二年四組の男子はトランス状態だった。クボの囁く声でもよく聞こえるほど、みんなよく集中している。催眠効果はバッチリだった。クボも自分自身に酔っていた。

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