第15話 シオヤ
クボは固まっていた。突然同級生の女子が手を握り、なぜか励ましてくれている。女の子の手は小さくて柔らかくてスベスベで暖かい。「女子ってすげ〜、 女子ってすげ〜」内心、男祭り状態だったが顔には出さずに澄ましていた。この時間が一秒でも続きますように。しかし鼻の穴は膨らみっぱなしだった。
教室の隅で二人の様子を歯ぎしりしながら、ガン見してる男がいた。
「野郎......殺す......」
「落ち着いた? 」
「ああ、大丈夫」
最初から大丈夫だったがクボは格好つけて答えた。にやつきが止まらない。それを見た彼女はますます心配する。
「本当に大丈夫? 」
彼女は帰ったら母親に相談してみようと思った。自分には荷が重すぎるのかもしれない。
彼女にもう少し男性経験があれば、すぐに男の下品な笑いの意味に気づいたかもしれないが、彼女の看護師魂には火がついていた。
「私でよければ相談に乗るからね」
上目遣いに見つめられて、クボはますます挙動不審になっていった。
密かに観察していたヤハギは思った。あれは大抵の男は参っちまうな。特に童貞には劇薬だ。しかも本人は自覚なしにやっている。すごい才能だ。見るものが見れば光る原石だと気付くだろう。夜の世界で光り輝く蝶になるかもしれない。ただし、今の彼女の目は「愛」ではなくて「慈愛」だけどな。そこの区別ができる男もなかなかいないと思うが。やれやれだぜ。
十六歳でハードな十字架を背負った男は、いつのまにか女の子の本質を見抜く一級の鑑定眼を持っていた。彼もまたある世界から見れば光り輝くダイヤの原石であることを本人は自覚していない。
その日の昼休み、ヤハギと一緒に連れションしていたクボは、まだマツミヤの手の余韻に浸っていた。
「だらしないから、顔のにやつきを直せよ」
相変わらずの馬鹿面だった。よほど嬉しかったのだろう。
「ささやんの依頼どうするんだよ? そっちのこと考えるのが先だろう? 」
「そうだった」
嫌なことを思い出してやっと通常モードに戻った。残念だがこの男には憂鬱な顔がよく似合う。
教室に戻ろうとした時に男がドアの前に立ちふさがった。クボは知らないがヤハギは知っていた。同じクラスのシオヤだった。クボは人の名前と顔を覚えられない性質があるのでわからなかった。
長身で筋肉質で運動神経抜群、色黒の爽やかな野郎だった。女子にモテるが付き合ってる子はいない。なぜなら小学校の時から片思いの女子がいるからである。そう、マツミヤにである。思い続けてかれこれ八年になる。
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