第14話 マツミヤの夢
月曜日の衝撃の告白からの翌日。ヤハギはいつも通り明るく振舞っている。その様子を見ながらクボはぼやく、
「幸せな恋か......」
その言葉を聞きつけた女子がいた。我がクラスの癒し系、マツミヤである。
「どうしたの? クボ君」
彼女はいつも通りニコニコしていた。彼女にも人に言えない苦労があるのだろうか? 笑顔の下には実は壮大なドラマと決意がありその反動で......
クボはネガティヴ思考であり、ロマンチストでもあり、妄想癖もある童貞である。ヤハギの話にもろに影響を受けた男は、この純真そうな女子が悲しい過去を背負っている物語を一瞬で捏造する。情緒不安定な男の涙腺は崩壊した。
マツミヤはギョッとした。
「ど、どうしたの? 」
「何が? 」
「涙が出てるわ」
「ああ、出てるね。本当だ〜」
指で涙を確認して、不気味な笑いを浮かべるクボ。
彼女の将来の夢は看護師だった。福利厚生が充実していて、万が一独り身でも高収入だし、寮完備の所も多いので独り立ちできる。
彼女の母親はシングルマザーであり、看護師の職につき自分を養ってくれた。夜勤で母親が家を開ける時は彼女が家の家事を引き受けていた。
「パートナーに頼らなくても自分で食べていける職に就きなさい。お金はね、いくら有っても困らないのよ」
母親の口癖である。私が生まれた時にはお金の事で苦労したと祖母から聞いた。しかし母親から泣き言を聞いたことはなかった。
母親の勤める病院の若い看護師からも積極的に話を聞いて情報を集めていた。より高収入、高待遇を得るためには学歴が大事。高卒で専門学校を出た後に仕事の幅が広がるからと、通信教育で大卒資格の勉強をしながら働く人も多い。タフでなければ務まらない仕事であり、心体を壊して辞める者も多い。だが世の中になくてはならない仕事であり、やり甲斐がある素晴らしい仕事だとも聞いた。
「長くお世話して喧嘩もした患者さんがね。最後はありがとうって涙流しながら感謝して退院していくの。幾つになっても胸が熱くなるわ」
ベテランの看護師が照れ臭そうに話してくれた。
私の将来の夢は誰にも話していない。決意が軽くなりそうだから。
母親は気づいているだろうが何も言ってこなかった。親子関係は大変良いと思う。
今、目の前になぜか泣いている人がいる。私は何ができるだろうか? 母親から聞いた患者さんの励まし方を思い出した。
両手でクボの手をそっと握り包み込む。そして目を見て
「大丈夫だから」
「え? 」
「きっと大丈夫だから! 」
さらに手を強く握り、少女は願った。
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