第10話 福井駅

 ここはJR福井駅。建物の老朽化が進む建物も、駅前の古いビルも、再開発の話は持ち上がってはいるが、未だに工事は着工していない。


 県民老若男女から愛される駅ナカの蕎麦屋は、昔ながらの佇まいを残して今日もたくましく営業していた。


 二階にあるお土産コーナーは内装が数年前から変化せず、壁が黄ばんで風情を醸し出している。


 切符はJR職員が乗客に直接手渡しして、目視で確認している。子供の頃、いつか画用紙に偽造して通行可能か試してやろうという野望は幸いにして未遂に終わっていた。


 今日は日曜日で人の流れは平日よりゆったりしている。天気も快晴で家族連れも多い。


 都会の電車と違い、一本乗り遅れると遅刻確実のため電車通学、通勤の方々は余裕を持った行動が望まれる。そんな我が愛しきJR福井駅西口から徒歩五分。クボとヤハギは某全国チェーンのドーナツ屋にいた。


 男二人組は落ち着かなかった。普段からこういう場所の出入りはせず、特にインドア派のクボは店での立ち振る舞いがわからない。ましてや「女性を待たしてはいけない」とクボが頑なに言い張り、一時間も前から店で待つ二人は話題も尽きて、鬼のような顔で飲み終わったコーラの氷を眺めるという不毛な時間を過ごしていた。


 約束の時間は五分過ぎている。ケータイにかけようか迷っているところでササヤンの姿が見えた。男の器量を見せようと、こういう時のスマートな仕草を考えるが、そもそもそんな器量は持ち合わせていないことに気づいて自分を呪った。


「ごめーん。遅れちゃった」


 遅刻の理由は言わずに笑顔でごまかそうとしている。髪は頭の上でお団子に纏め、デニムのミニスカートに白いタンクトップ、黒いインナーを着て、白いスニーカーに身を包む彼女は若い身体を惜しげも無く露出し、愛想を振りまいている。レモン色のマニキュアがキラリと光る、太陽のように目立つ女だった。その迫力に押されクボは圧倒されるが


「遅いよ。罰としてこの店はササヤンのおごりな」


 軽く返すヤハギに嫉妬を覚えるクボ。


「ちょっと待ってよー」


 二人ではしゃぐ姿を横目に早くも帰りたくなるクボだった。

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