第9話 ヤハギ家
放課後、クボはヤハギ家にきていた。どこにでもある木造2階建ての家である。手にはコンビニで買った栄養ドリンクとプリンの入ったビニール袋が握られている。
あの昼休み以降、クボはマツミヤの顔を見ることができず、決して後ろを振り返らなかった。もう一度見たら自分は顔を赤くしてしまうだろうと確信していた。おがげで授業は耳に入らず、午後は目を閉じて般若心境を暗唱していた。
「お前、俺の授業なめてんのか? 」
社会科の先生にぶっ飛ばされそうになったが、些細なことだ。
ヤハギは意外と元気そうだった。やはり大会の疲れと睡眠不足が原因だったらしい。明日には登校できると言った。クボは宿題のプリントを渡し、昨日の団体戦の結果を祝福した。一通り会話した後沈黙が訪れる。
「どうした? 」
「実はさ......」
昨日のササヤンとの出来事を説明する。説明下手なクボの話をヤハギはいつも辛抱強く聞いてくれる。
「お前友達少ないから紹介なんてできないだろ? 」
一番懸念してることを当ててくれた。さすが親友。でもちょっと傷ついた。
「うん。だからお前の人脈を使わせてくんない? お前友達多いだろう? 誰か適当に見繕ってさ〜」
ヤハギは難しい顔をしていた。いつもの調子のいい男ではない。
「ササヤンて俺たちの幼馴染じゃん。だからあいつには幸せになってもらいたい。変な奴を紹介して不幸になる姿は見たくないだろう? 紹介するなら、それなりの奴を選びたい」
目から鱗だった。クボは厄介な案件を片付けるだけに対し、目の前の男は友人の幸福を望んでいる。男として完敗だった。メンタルと胃腸が弱い、小太りでひょうきんな男だと思っていたが......
「一回俺もささやんと直接話したい。あの時はバタバタしてたし」
ささやんにアポを取り、次の日曜日に三人で会うことになった。
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