第3話 出会い

 大会当日、バスに揺られながら景色を眺めていると県立武道館特有の白い屋根瓦が見えてきた。


「あの白い屋根瓦が見えてくると、いつも胃がギューッと締め付けられるんだ」


 そういえばヤハギが言っていたが実際に見たのは初めてだった。


 あれこれ迷ったが私服ではなく制服にしておいた。ダサい服しか持ち合わせがなく、無難に落ち着いてしまったのは仕方がないのだ。


 会場には道着を着た鋭い眼光の高校生が蟻のように溢れていた。弓道部の他にも柔道部と剣道部の学生もいる。本当に同じ高校生か? 疑いたくなるような坊主頭の集団を見る機会のないクボは、会場独特の空気に興奮していた。


 案内図を確認して弓道場に向かう。バス専用駐車場の近くにT高校弓道部の選手たちが集合していた。白い道着に黒い袴、藍色の足袋たびを身につけた真剣な表情で顧問の話を聞く選手たち。クボは場違いな気がして逃げ出したくなった。ヤハギと目が合い「そこらへんで待ってろ」と目で合図してくる。


 心は通じ合っていた。伊達に何年も付き合ってはいない。


 壁に身を預け周りを見渡していると、黒いセーラー服に小豆色のスカーフを締めた女子と目が合った。髪はポニーテールで少し茶色い。強い意志を感じさせる大きな瞳でこちらを見ている。クボの周りには誰もいない。後ろを振り返るが白い土壁があるだけだ。


「なんだ? 」


 盗み見するようにもう一度見た。まだこちらを凝視している。少女はこちらに一直線に向かって歩いてきた。

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