第2話 ヤハギ
同じクラスのヤハギはクボの小学校からの友人で弓道部に所属していた。少し太り気味で、明るく社交的で皆から好かれる奴だがイケメンではなかった。彼女もいないので多分童貞である。しかし友人思いであり休日は一人でゴロゴロ過ごすクボを心配していた。
「よかったら弓道の大会、見にこないか? 」
年中部屋に引きこもっているクボにとって新鮮な申し出だった。T高校で盛んな部活は吹奏楽部と弓道部である。全国行きの切符をかけた熱戦が県立武道館で行われる。朝練、昼練、放課後、休日練習も強制ではなくみんな自主的に参加していた。初心者から始めたヤハギだったが、三年生を押しのけてレギュラーになった。
「外れた先輩の分も、俺は負けられないんだ.....」
静かな闘志を燃やすヤハギだがクボは知っていた。ヤハギはお調子者を装っているが実は繊細であることを。大会前にはいつもお腹を壊してしまい、下痢止めが欠かせないことを。緊張すると手足が冷えて、夏でも真冬のように息を吹きかけて指を温めていることを。大会前日はいつも眠れずにほぼ徹夜であることを。
今回の誘いも半分は自分の心の平穏のためではないのか? とクボは疑っていた。
「ああ、別にいいよ」
だからすぐに気のないふりをして言った。ヤハギのホッとした顔が一瞬見えたが、すぐにいつものお調子者の態度に戻っていた。
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