第1章 高校二年生にはなったけど

第1話 クボ

 地球が滅亡すると言ったノストラダムスの大預言に世界が踊らされ、携帯電話が世間に十分普及していない一九九九年。福井県T高校二年四組のクボはホームルームの担任の話を聴きながら、クラス替えをしてもたいして一年生の時と変わりばえしない周りの顔を眺めながら嘆いた。


「つまんねぇ......」


 T高校は進学校ではあるが受験一色の学校ではない。一学年二百人。全校生徒六百人程度の文武両道で部活にもそれなりに力を入れた学校である。


 校舎周辺を山と田畑に囲まれてどこか牧歌的な雰囲気のあるやたら敷地面積が広い、ヘルメット着用の自転車通学率九十九パーセントの学校。つまりは普通の田舎の学校である。


 普通科と国際化があり若干女子学生の多い共学であり、男子は黒い学ラン、女子は紺色のブレザーに灰色のスカート、それにオレンジ色のリボンをしていた。


 都会と比べれば学校周辺にも街灯が少ない。部活や生徒会で遅くなる女子は親が迎えにきたりするが、バイク通学禁止のため大多数の生徒は仕方なく自転車通学を余儀なくされていた。


 夏の夕方になると帰り道の田んぼのあぜ道には、ユスリカと呼ばれる小さなハエ科の虫が大発生して、自転車で下校する生徒のヘルメットで潰れたり、口の中に侵入してたりして謎の酸っぱい味を経験させる洗礼を浴びたりする。


 全国的に案外知られていないが豪雪地帯であり、真冬には除雪された雪の壁が道路にそびえ立つのでスクールバスが運行される事と、この学校特有のオレンジダイアリーと呼ばれる、毎日の勉強スケジュールを書いて提出を義務付ける習慣さえなければ不満のない学校生活の筈だった。


 受験に集中できるように三年生には早めに引退してもらい、二年生がリーダーとなり世代交代して学校を盛り上げていく。


 先輩になり後輩の指導や部活に青春を注ぐ者。大学進学を目指して勉強に勤しむ者。ダラダラ時が過ぎるのを待つ者。


 クボは勉強には力を入れず、毎回赤点と追試を繰り返す不真面目な生徒だった。部活にも入らず、ただみんなと同じように机に座り授業を受けて、虐められることもなく、目立つこともなく、淡々と日常を生きていた。中肉中背、これと言って特徴のない平凡な男。将来に夢もなく、とりあえず卒業してどこかに就職できれば良いと楽観的に考えていた。


 モテるはずもなく、もちろん彼女なんていない童貞である。青春時代を謳歌しているものを横目にどこか冷めていて、自分には打ち込めるものがなくて虚しいと感じていた。毎日流されるように生きることに


「本当にこれでいいのか?」


 悶々としていた。

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