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 「……もう電話は終わりだ」



 「あっ!」





 まだ話の途中だったのに。



 土方さんは無理矢理私の手の中から携帯を取り戻した。





 「まだ途中だったのに……」



 「うるせぇ」





 土方さんはスッと顔を背けてしまった。



 でも私を抱きしめる手は決して緩めようとはしない。





 怒ってるんじゃないよね?



 それじゃあ、何で?





 「……何で俺の時より嬉しそうなんだよ」



 「え?」





 土方さん、それって……



 …………………ヤキモチ?



 妬いてくれてるの?





 「土方さん」



 「……」





 顔は背けたまま、でも視線だけはこちらにくれる。





 「今度、みんなに会いたいです」



 「……」



 「でも、私が一番会いたかったし、一緒にいたいと思ったのは土方さんですよ」





 ニコリと笑うと、土方さんはハアッと溜め息をはいた。



 そしてフッと笑い、軽いキスを私の額にくれた。





 「……俺もだ。もう離さねぇよ」



 「はい」





 土方さんは私があの頃ずっと見たくて、でも見られなかった笑顔だった。



 みんな、ごめんなさい。



 みんなの土方さんを今だけ独り占めさせて下さい。





 「土方さ……むっ」





 言おうとした言葉を土方さんの片手に遮られた。









 「…………………………和紗………
















                       愛してる……………」









 あぁ、もう駄目。





 私は涙が止まらなかった。





 動乱の時代に別れて、またこの平和な世で出会えて、またそう言ってもらえた。



 幸せだ。



 幸せすぎるほどだ。




 だから私も言おう、伝えよう。



 私の百五十年分の思い。




 私は涙をぐしぐしと拭った。





 「土方さん。私もずっとずっと愛してます」





 土方さんは嬉しそうに笑い、もう一度、今度は唇にキスをくれた。





 決して平和とは言えない時代に出会い、別れたからこそさらに分かる。



 相手の命の重み。



 ただ、側にいさせて欲しいという思い。





 「土方さん」



 「何だ?」



 「ただ呼んだだけです」



 「……そうか」





 土方さん。



 ありがとう。



 私はまたついていきます。



 今度はずっと。



 ……再び死が二人を別つまで。



 私は土方さんにギュッとさらに抱きつき、土方さんも私をさらに抱きしめてくれた。





 幸せな二人を、見事に美しく咲き誇る桜と、鳴りやまぬ携帯の着信音が祝福しているようだった。



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傷を背に隠して 綾織 茅 @cerisier

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