3
「……なぁ。覚えてるか?」
「え?」
「この桜……あの時、みんなで最後に花見をした桜だ」
やっぱり。
この桜もみんなとの思い出の欠片だったんだ。
私はそっと桜を見上げた。
大きな桜。
あれから百五十年。
どれほどの人達の生活の営みをこの桜は見てきたんだろう。
「……土方さん」
「何だ?」
「私、私ね? ……五稜郭にいた時、あの頃に戻りたいって思ってた」
「……」
土方さんは黙って聞いてくれてる。
ただ、ほんの僅かな間、頭を撫でる手が止まった。
「たくさん大切な人達がいなくなって……辛いって、こんなの嫌だって、思ってた」
「……そうか」
「でもね、私ね、忘れてたんです。あの日、誓ったんですよ、この桜に」
「……何をだ?」
あの日、京を出発する前の日に。
そして正しくは桜と……先に逝ってしまった芹沢さんや山南さん、藤堂さんに。
「私の大切な人達が守るものを、私も一緒に守っていきますって」
そうだ。
私は何を忘れていたんだろう。
昔に戻るということは、彼らの死を否定すること。
つまり、彼らが死んでも守ろうとしたものを、思いを、志を、彼ら自身の誠の道を否定することだ。
こんな大切な誓いを、再びあの桜を見るまで忘れているなんて。
「あの時の願い、今では叶わなくて良かったと思います。もう少しで守るどころか、踏みにじるところだった」
「……そうか」
「それに、神様は意地悪ではなかった。またこうして土方さんに本当に会わせてくれた」
「……会いたいか? あいつらに」
「え?」
ほんの少しの沈黙の後、土方さんの口から出てきた言葉に、私は顔を上げた。
柔らかい笑みを、彼は浮かべていた。
土方さんはスーツの内側から携帯を取り出して、どこかに電話をかけだした。
……まさか、まさかまさかまさか。
そんなことって……。
「あ、もしもし? 俺だ。……ん? あぁ。……見つけたよ。やっと」
その時、それまでぼそぼそとしか聞こえなかった電話の向こう側からすごい歓声が聞こえてきた。
あぁ、やっぱり。
この声の持ち主達は……。
「泣くんじゃねぇ。笑ってろ。お前はいつだって、どんな時だって」
「土方さん……」
ほら、と差し出される携帯。
私はそれを受け取り、耳に当てた。
「……あ、あのっ!」
『和紗(さん)!!』
あぁ、私、幸せだ。
願い、叶ったよ。
みんないる。
この向こうにみんな揃ってる。
夢じゃ、ないよね?
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