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 「ハァ、ハァ、ハァ」





 こんなに走ったのいつぶりだろう。



 私は気づいたら一本の桜の木の前に立っていた。





 「ここは……」





 綺麗な桜。



 それも満開の。





 「……」





 私、この桜……知ってる。



 何で?



 桜はみんな似たような木だから、ただの思い違い?



 ……ううん、違う。



 やっぱり……絶対知ってる。





 「……和紗」






 「っ!!」





 後ろから風が吹いた。



 声が、した。



 今度ははっきりと。





 私はゆっくりと振り返ろうとした。



 けれど、できなかった。



 もうその時には、私は腕の中に捕らわれていたから。





 「和紗……会いたかった」





 その言葉を聞いた瞬間、私は思い出した。



 全てを。



 幕末に生きたこと、新撰組にいたこと、あなたについて行ったこと、あなたに最期を看取ってもらえたこと。



 それから……



 大切な約束をしたこと。





 「やっと……見つけた」



 「……土方さん!」





 クルリと身体を反転させ、彼の胸に飛び込んだ。



 懐かしい、この感じ。



 そして、ついさっき彼が言ってくれた言葉から、本当に約束を守ってくれたんだとはっきり分かった。





 …………嬉しい。



 どうしよう。



 たまらなく、ただただ嬉しい。





 「……泣くんじゃねぇよ」



 「だって……だって……」





 会いたかった。



 またこうして名前を呼んで、抱きしめてもらいたかった。



 ……先に逝ってしまった私が言えることじゃないけど。



 それでも。



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