刻の行く果て
1
「ここはあの有名な新撰組が屯所とした八木邸です」
「みなさんは幕末きっての剣客集団であった新撰組のことをどれだけご存知ですか?」
高校の修学旅行で京都に来た私、北山和葉は何とも言えない懐かしさに包まれていた。
生まれも育ちも東京で、京都はおろか、関東から出たことさえ初めてなのに。
ガイドをしてくれている人の声もろくに入ってこない。
「女人禁制と定められた新撰組にもたった一人だけ女性がいたそうです。彼女は五稜郭までついていき、副長……その頃にはちがう役職であった土方歳三を庇って亡くなったそうです」
「違う」
「え?」
「……え?」
何故かその部分だけはっきりと聞こえ、また同時に否定の言葉を発していた。
ガイドさんは当然ながら怪訝そうにしている。
「ちょっ、和葉っ! なに訳の分からないこと言ってんの!?」
「す、すいません!」
親友の百合に怒られ、私は慌ててガイドさんに謝った。
するとガイドさんは気を取り直したようで、また説明を始めた。
ガイドさんからの説明を終え、この後は自由行動。
私達は八木邸を後にした。
離れてからも未だに残る町並みに違和感を感じながら、私は百合の後についていった。
「和葉、あんた大丈夫なの? さっきからおかしいけど」
「うん、大丈夫」
「歴史苦手なあんたがいきなり“違う”なんて言うから、みんなびっくりしたわよ」
百合以外の仲の良い友達も、皆一様に首を縦に振った。
……………その時だった。
「和紗」
ふわりと風にのって、声が聞こえた。
……あぁ、あの人だ。
自分の名前が呼ばれたわけじゃない。
記憶もない。
でも、魂は覚えてる。
間違いない。
あの人の声だ。
「……私、行かなきゃ!」
「和葉!?」
みんなが驚きの声をあげているけど、今は返事をする時間すら惜しい。
早く
早く会いたい。
私の大好きなあの人に。
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