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 「……」



 「……和紗っ!!」





 気がつくと、目の前には土方さんがいた。



 顔色がわるい。



 あまり眠れていないのか、綺麗な顔立ちには隈もできている。





 見覚えのある調度品を見ると、ここは土方さんの部屋であるらしい。



 私は柔らかいベッドに寝かせられていた。





 あぁ、痛くて痛くて眠れなかった日々を思うと、もっと早く潜り込めば良かった。



 そうすれば、傷も痛まずにすんだ。



 それに、なにより、子守唄の一つや二つ、この人に唄ってあげられたのに。





 「和紗っ、何で背中の怪我のことを言わなかった!?」





 土方さんは先程まで青かった顔を今度は怒りで赤く染め上げた。



 こんなに怒られたのは、女であることをやめ、ついて行くと言った時以来かもしれない。





 「……」





 私は何も言わず、口をつぐみ続けた。



 そうしてただ黙って真っ直ぐ土方さんの瞳を見つめるのだ。





 土方さんの綺麗な瞳に、私が映っている。



 こんな状況だけど嬉しかった。



 今まで、彼は近藤さんや新撰組のことで頭が一杯で。



 私だけをこの黒の瞳に映してくれたことがどれだけあっただろう?





 「……」





 あれ?



 声が出ない。



 そっか、私、もう…。





 土方さん、土方さん。



 私、あなたに会えて幸せだった。



 みんなに会えて幸せだった。



 土方さんに最期までついてこられて良かった。



 守ることなんて結局できなくて、守られてばかりだったけど。





 ねぇ、土方さん。



 あなたは?



 私と会えてどうだった?



 私があなたにしてもらえた幸せの、ほんの少しは返してあげられてた?





 「おいっ! 和紗っ!! 寝るなっ!! 目を瞑るんじゃねぇよっ!!」





 土方さん。



 静かにして?



 やっと背中が痛くなくなって眠れるんだから。





 …………ごめんね。





 近藤さん、沖田さん。



 土方さん、最後まで守れなかったよ。



 許してくれる?



 ごめんなさい。





 ……あぁ、みんなに会いたいなぁ。





 「和紗っ! お前まで逝っちまうなら、俺は、俺はっ!!」





 土方さん。



 土方さんはもっと生きてよ。



 私達の分まで。





 ………あれ?



 鬼の副長の目にも涙が。



 駄目だなぁ泣いちゃったら。



 嘘なの?



 あの時言ってたの。



 士気が下がるでしょう?



 士道不覚悟で切腹だよ?





 「和紗っ! 和紗っ!!」





 土方さん、私ね、土方さんのこと…





 「     」



 「和紗? ……………和紗っ!!」





 土方さん、聞こえた?



 聞こえてないならないでいいや。



 土方さんが来るまで待ってるから。



 その時いーっぱい言ってあげる。





 だから今は……お休みなさい、土方さん。





 『和紗君』



 『和紗さん』



 『和紗』





 ……あ。



 みんな、迎えに来てくれたの?



 最後の最後でお願い聞いてくれてありがとう、神様。





 「土方さん、生まれ変わっても見つけてね?」




 私もきっと見つけるから……。








 『またね』








 絶対会えるって信じてるからこそ、言える言葉。



 私はいつでもあなたのことを想っています。



 今も昔も、これからも。



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