第37話 武器新調と

 

 アス君のギルドカードです。


 名前:アス・年齢:8歳・性別:男

 出身地:シーデ村、北方連合国

 職業:魔法弓師、冒険者

 所属:ウェイシア王国、クロード領、エオカ支部

 ランク:D

 パーティー:金色の翼/メンバー

 パーティーリーダー:エル(魔法剣士)


 賞罰:ー


 ちゃんとランクDになっています。

 でも8歳なので当分ランクアップには大きなギルドで試験を受ける必要があります。

 アス君は冒険者ギルドカードを眺めてニッコニコだ。今日はお祝いで肉パーティをしようかな。お昼もたっぷり食べたけど。


「Cランクアップの条件は達成しているので、受験資格がある。ギルドが指定する護衛依頼、もしくは盗賊討伐依頼だが、今盗賊討伐依頼は無いから護衛依頼になる。こちらで依頼を検討するので数日間待ってもらわないといけないのだが」


 と、カードを渡してくれたマーリオさんが説明をしてくれた。


「すぐにランクアップの必要はないので今はいいです。当分ダンジョン三昧の予定ですし」


「そうか、試験は街以上のギルドでしか受けられないので覚えておいてくれ」


「はい、ありがとうございました」


「では俺はこれで失礼する」


「「「ありがとうございました」」」


 ギルドを出たところで二人に告げる。



 今の所、護衛依頼だとか、盗賊の討伐依頼だとか受ける気ないのでランクDのままで問題ありません。

 四季ダンジョンで荒稼ぎする予定です。


 ギルドを出て、次は武器屋だ。

 リュートの武器が壊れてしまったので、買い替えなくてはならない。


「人型形態でも戦えるように剣とかに変える?」

「いや、あまり長い時間はもたないし、戦闘能力は半獣形態のほうが断然勝っているから」


 そんなわけで前にもきた武器屋にやってきた。

 リュートは壊れた武器を店主にみせた。


「こりゃあ根元からぽっきりだな。修理は無理だ。新調するにもこのタイプは……」


 一旦奥に引っ込んでごそごそしだした。

 その間に他の武器をみてまわる。


「アス君のクロスボウも新調する?」


 筋力私とたいして差がないのよね、折り畳みの携帯タイプじゃなく普通のクロスボウでも大丈夫と思う。先端の金具を足で踏んで両手で弦を弾くタイプ。ボルトも多めに、あ、背中に背負う感じになるとリュックは邪魔かな。


「しょうでしゅね、もうしゅこし威力がほしいでしゅけど……」


 アス君が見ていたのは槍だった。

 ああ、マーリオさんが棒術のこと言ってたもんね。今持っているのは魔法発動補助の杖で、短くて近接戦闘向きじゃない。


「そこそこ長さと強度があって尚且つ魔法発動補助もある杖ねえ」

「ねえよ、そんなもん。普通魔法使いは近接戦闘を念頭に入れて杖を選ばないし、棒術をメインにするのは僧兵くらいで長物を使うなら槍を選ぶ」

「デスヨネー」


 これは作るしかないか。

 奥から出てきた店主がいくつかガントレットを持ってきてカウンターに置いた。


「コイツはツーフェの騎馬民族が使うガントレットでな」


 手背から肘近くまで上腕を覆う感じのガントレットだ。色は艶のない黒と銀のツートン。店主が左腕だけ腕につける。


「材質は聖銀ミスリルと魔銀と黒鉄。魔力をより通しやすい聖銀と全く通さない魔銀を黒鉄で繋いでる。でここに魔力を通すと……」


 ジャキンッ


 甲から刃が延びた。マジックアイテム、いや魔法武具の一種になるのかな。


「刃は魔力を流している間出続けるがさほど量はいらん。魔力の込め様によって刃の出具合を調整して長さを変えられる」


 離すと刃が引っ込んだ。魔力を止めたからか。形はジャマダハルに似ているが、ガントレット一体型なので握る必要はないようだ。


「爪とは刃の向きが違うから慣れるまで使い勝手が悪いかも知れんが。あと、こっちにも」


 ガントレットをはめた左腕を胸の前に持ってくると。


 シャキンッ


 肘のほうから杭が飛び出た。


「「おぉ」」


 私とアス君が、歓声をあげる。


「前後同時には出せないが、どうだ。癖のある武器だが、手綱を離さずに済むよう考えられた武器だな。

 こっちは黒鉄製で一応刃の出し入れは、手背に付いているここに魔力を流す必要があるから反対の手で触れなきゃならん、肘側の杭も無しだ」


 リュートは右腕にガントレットをはめる。ジャキンッ、シャキッと刃を出しては軽く腕を振る。


「いくらだ?」


「こいつは20万、こっちは5万だな」


 多分リュートとしては最初の方が欲しいんだろうな、しばらく悩んでいた。

「もう少し下がらないか」

「まあ、まけて18万か」

「こいつを下取りしてもらったら?」


 爪をカウンターに置くリュート。

「武器としては使えないから鋳直す材料として5千……6千ってところか」

「兄しゃま、僕のお金も使ってくだしゃい、僕のしょうびはまだ使えましゅから」


 今二人はそれぞれ7万ウルほど持っているが足しても14万、まだ足りない。


「リュート、この前ので借金返済額が16万に達したから返済終了になるわ。残りのトレントの売り上げからは配分が増えるし倒した魔物の魔石もまだ売ってないから一人10万はあるはずだから立て替えれるわ」


 リュートが私の方を振り向きじっと見つめてきた。


 えーっと……


 フッと微笑むリュート、あわわわ顔に熱が登ってくる。


「お、おじさん、もうちょっとまけてよ。この爪だってそんなに長く使ったわけじゃないのに折れたのよっ」

「お、おう、じゃあ下取り低めて17万」

「もう一声!」

「16万8千、これ以上は赤字になる、勘弁してくれ」

「買った!」


「エル……」

「お姉しゃん……」


 私は金貨をカウンターに叩きつけるように置いた。


 自動調節機能がついており半獣形態でも人形態でもフィットするんだけど、呪い軽減バングルが邪魔だった。


「じゃあバングルを腕にまけばどうでしゅか」

「アス君、それよ!」


 一旦外すので宿に戻ってから装着し直すことにした。


 アス君の方は今回はボルトを購入にとどめた。後は近接用は棒術をギルドで習うことにする。さすがに私も棒術は教えられなくて。棒術なら杖で戦えるからね。杖の方はトレントの腕枝で私が作ることにする。今回の分は全て商業ギルドに卸してしまったから次に行ったときにトレントを獲ろう。


 忘れるところだった、ゴブリン装備を売却するのを。これもあとで分配できる。

 あとはいろいろな武器を研ぎに出す。メンテはしてるけど定期的に本職にお願いした方がいいからね。


 武具屋の次は服を買いに行く。戦闘で敗れたりもするから繕えないものも出てきたのだ。

 あとは道具屋で薬用の小瓶や夏階層のゴーレム用に麻袋を購入する。


「今日は試験に合格して、無事Dランク冒険者になれたお祝いに、ご馳走作ろうか?」


「ほんと! やったぁ」


「エル、お昼もたっぷり食べたし、そこまでは」


「ええ〜、兄しゃま、いいでしょ、お祝い」


「そうよ、リュート。お祝いなんだから」


「……わかったよ」


「じゃあ材料買って帰ろうか」


  ではまずお肉屋さんに行きましょう。角牛シリーズ、出来れば黒毛牛があればと思ってね。


「お嬢ちゃん、角アンガス牛のフィレなんてどうだ?、角ヘレフォード牛のタンもあるぜ」


  えっと、種類の違いがどう味に違いが出るのかわからないのですよ。でもタンシチューを作りましょう。当然ステーキは必須ですね、あとはローストビーフ。あ、ミートボールスパゲティなんていいかな、あとはブロック肉の丸焼き…は部屋の中じゃちょっとまずい。角牛シリーズは秋エリアにいるらしい。いずれ狩に行くけどいくらかストックほしいな。


「えっと、じゃあ、コレとこれとそれ、あそっちも10キロづつくださいな、あ、タンは一本でお願いします」


「……ま、まいどあり、姉ちゃん配達してやろうか?」


「あ、大丈夫です、バックあるんで」


  アス君の目がキラッキラです。あとは野菜を買って帰りましょう。


「アス君達は自由にしてていいよ。支度に時間がかかるから、夕方まで自由行動ね」


「え、お手伝いしましゅ「ああ、わかった」」


 アス君を遮るようにリュートが返事をする、珍しいな。


「兄しゃ「じゃあ、行こうか、アス」兄しゃま?」


 アス君の背中をグイッと押しながらリュート達は雑踏に紛れていった。

 エオカで一年近く暮らしていたのだから、この街のことは私よりよく知っている二人だ。

 行きたいとこあるんだろう、さあ、戻って料理しないと。





 窓を開け風魔法で煙や匂いを逃しつつ調理。タンシチューの鍋は土魔法と火魔法と時魔法を合成して作り出したオリジナル魔法保温調理で鍋を包む。短時間で長時間煮込んだ効果が得られる優れものだ。この魔法鍋に付加したらシャト◯シェフみたいな調理器具作れそうだ。

 ローストビーフはオーブンの中。今は鍋の中でトマトソースとミートボールとハンバーグが煮込まれている。ハンバーグはダンジョン用に煮込みハンバーグを作り置き。そろそろいい頃合いだ《保温》をかけておくか。

 パスタは茹でたてをインベントリに入れてあるしでサラダはすでに出来上がっている。あとはステーキ用はハーブや塩胡椒でマリネしてあるのでこれから焼く。

 アス君はライス派、リュートはパン派なのでどっちも用意済み、パン屋さんで大量購入しておいた。


 二人ともそろそろ帰って来るかな。

 窓の外からは夕陽に染められた中庭が見える。

 先にレイディに餌をあげてこよう。レイディにも今日は牛をたっぷりプレゼント。


 

 夕陽はすでに沈み空にはキラキラと星が瞬き始めた。遅いな、2人とも。



 ようやく廊下に気配を感じ椅子から立ち上がるとノックの音がした。


「エル、ただいま」

「開けてくだしゃい」


 鍵を開け2人を迎え入れる。


「遅かったね、もうご飯できてるよ」


 なんとなくもじもじするアス君と、アス君を前に押し出すリュート。なんだろう。



「オネーしゃんにお話がありましゅ」

「話し?」

「しょうでしゅ」


「オレ達、エルにはすごく感謝してる」


 え? あらたまってなに?


「僕達、オネーしゃんに、出会えて、たしゅけてもらってとっても感謝してます」

「エルのお陰でお金も稼げるようになったし、冒険者になれた」


  それって…


「冒険者になれたのも全部オネーしゃんのお陰でしゅ」


 まさか、まさか…


「だから、僕と兄しゃま…」


 もう……私……必要……な………い?






「「これからもよろしくお願いします」しましゅ」


 差し出された2人の手、アス君の手には金色の装飾品、リュートの手には可愛らしい花束がのっていた。

 固まったまま動けないのに、足の力が抜けペタンと座り込んでしまった。2人がそばに駆け寄って来る。



「あれ?オネー氏ゃん?」

「……エル? なんて顔してる?」


 だって、だって『いらない』って言われるのかと、もう『いらない』って…

 アス君が私の頭を撫でる、いつもと逆だ。


「えっと、そんなにびっくりしましたか?」

「遅くなって心配した? とか」


 2人の言葉にふるふると首を振る。


「耳と尻尾しゃわっていいでしゅよ?」

「なんなら獣化携帯をモフるか?」


 頬を染めていうことですか、リュートは。

 2人を仰ぎみてにっこり微笑む。まだ一緒にいていいんだよね。


「エル」

「ぐぇっ」


 いきなりリュートに抱きしめられて、変な声がでた。く、くるし……


「兄しゃま、兄しゃま! オネーしゃん息ができましぇん」


 唐突な力一杯の抱擁は、これまた唐突に終わった。お互い顔を真っ赤にして。


「もう、兄しゃまは……」

「う、うるさい」


 いつもと逆の立場の二人に、なんだかおかしさがこみ上げる。それをごまかすわけではないけど。


「ありがとう、2人とも、こんな私だけど一緒にいてくれる?」

「僕まだオネーしゃんにおしょわりたい事いっぱいありましゅ」

「オレも、呪いが解けたわけじゃない。もっと強くなって、呪いに負けない身体をつくらないと。それに四季ダンジョンだって春階層しか行ってない。」

「うん、そうだね、いっぱい頑張って、一緒にダンジョンで大儲けしなくっちゃ」

「うん」

「ああ……」


 目尻を拭って立ち上がる。2人の手からプレゼントを受け取った。


「プレゼントこんな安物で申し訳ない」

「オネーしゃんは、武器とかいっぱい持ってるし、兄しゃまが前に『女の人はキラキラ光るものと花が好き』って言ってたから」

「あ、おい、それは……」

「マジックアイテムも、オネーしゃんなら自分で良いの造っちゃうから。ただのアクしぇしゃリーだけど」


 金色の羽のモチーフのイヤーカフ。


「本当は『翼』が良かったんだけど、無くてな」

「しゃがしてておしょくなりました」


「『金色の翼』……」


「ああ、オレ達のチームの名前だ、エル、いいか」


 リュートがアス君の手からイヤーカフを取り、耳につけてくれた。


「うん、似合いましゅ」

「ああ、似合ってる」


 見上げるとリュートが眩しそうに目を細目ていた。


「あ……ありがと」


 少し収まった赤みが倍の熱を持って頬を染める。


「は、花、綺麗ね。お水、花瓶はないから、コップでいいかしら」


 そんなことを口にしつつワタワタとコップに水を出し花束を生けテーブルの真ん中に飾る。

 ご、ごまかしてるわけじゃないんだからねっ。


「さあ、お肉料理いっぱい造ったよ、みんなで食べよう」

「やった~、肉肉~」

「昼もいっぱい食べたのに。アス、ほどほどにしないと戦闘時に動きが鈍るぞ」

「大丈夫でしゅ~、僕は育ちじゃかりなんでしゅ。そんなこと言うなら兄しゃまのぶんも、僕が食べましゅ」

「あ、こら。エルの手料理なんだぞ」


(娼館で売れっ子だった兄しゃまが、オネーしゃんの前ではワタワタするなんて、おかしいでしゅ。オネーしゃんも真っ赤っかだし。これは僕がなんとかしなくちゃいけましぇんね)


 アス君がそんなことを考えていたとは二人ともつゆ知らず。

 楽しくて騒がしい夕食が始まった。


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