第38話 夢
激しく揺れる足元、きしみをあげる柱。
あちこちから物が倒れ、崩れ落ちる。
痛い。
足が
動かない。
だれか……
だれか……
「ミャー」
暖かいざらりとした感触が指先をなぞる。
「ー ー ーくん」
視界の端に濁った水が流れ込むのが見えた。
「ミャー、ミャー」
袖を引っ張られる。でもーー ーくんの力じゃ無理だよ。
「逃げて、逃げなさい。早く、いいから……」
「ミャーッ、ミャーッ」
冷たい。水が身体を覆って行く……
どこだここ?
手を伸ばすと、視界に入ったのはちっちゃなちっちゃな紅葉のような手。
赤ちゃん?私今赤ちゃんなの?パニクりそうになった時聞き覚えのある声がした。
『あら、ー ー ー 目が覚めたのね』
何?よく聞き取れない。ピンク色の髪がふわりと落ちた。あ、やっぱママンだ。ママンいつ見ても美人だよな。
『目が覚めたのか?』
この声はパパンか。
『ほーら、ー ー ー ちゃん、パパでちゅよ~』
相変わらずだなパパン、て言うかパパン髭はどうした?髭ないしなんか若いぞ。
あれなんか視界がかすむ、よく見えないよ。ねえ…
ねえ
ねえ━━━━━━━━
真っ直ぐに伸ばした手の先には
「宿の天井だ」
何度目だ、天井見て呟くの。
「オネーしゃん、怖い夢でも見たんでしゅか?」
隣に寝ていたアス君が心配そうに覗き込む、その向こうでリュートがトラの身体をむくりともちあげる。
「なんだろ、夢見てたのかな、覚えてないけど。どうして?」
そっとアス君が目元を拭ってくれる。
「だってオネーしゃん、泣いてましゅよ?」
瞬きをした途端、顳顬を雫が伝う冷たい感覚、そして枕に落ちた。
「ほんとだ、泣いてる、なんでだろ?」
夢見て泣くなんて、ちょっと恥ずかしい。
ーーイチニ冒険者ギルドーー
「此処はテメェらみたいなガキが来る所じゃねぇ! とっとと帰りな!!ボウズども!」
そこにはガラの悪そうな髭ズラのオッさんとぽっちゃりと言うよりやや巨体な割につぶらな目の男と、細いと言うより骸骨っぽいオッさんの3人が、14、5歳の少年2人に凄んでいた。
「ちょっといいかしら」
ぽん、と肩を叩かれ柄の悪そうな髭ズラのオッさん、グーザは振り向きざま怒鳴る。
「なんで……え?」
「グーザの兄……き」
「……ワォ」
「オ、オレに何かご用で」
にっこり微笑むピンクブロンドの髪をなびかせた女性がそこにいた。ありきたりな冒険者が普段に着るどこにでもありそうなチュニックとロングパンツ姿だがそこはかとなく気品を感じる。
「あなた達、グリフォンを連れた16歳くらいの女の子の冒険者をしらないかしら」
「グリフォン、いや、チョーザ、パーザお前ら知ってるか」
「さあ、おいらは知らねっす」
「ぼ、僕も、し、知らないんだな」
グーザに言われた二人もプルプル首を振る。
ピンクブロンドの美女は顎に手を当て、右足を軽く前に出し考えるポーズとる。それだけで周りの視線が集中する。
「あの子のことだから、この辺りでギルド登録して身分証を作るかと思ったんだけど、読み違えたかしら」
小さな声の呟きは周りには聴こえていない。
「グリフォン連れの冒険者ならしばらく前にいたが、どこか他の街に移ったって話しだけど」
そう声をかけてきたのは17、8歳の剣士の青年で、すこし年下のショートソードと弓を持ってる狩人スタイルの女の子と、ローブに杖の魔術師スタイルの女の子を連れていた。
なあに、両手に花のハーレムチームなのかしら。
「その
青年は頬を染めると、両脇の少女達がムッとした顔をする。
「いや、どこに行ったかまでは知らない。ギルドの職員なら聞いてるんじゃないかな」
「そおね、ギルド職員に尋ねてみるわ、ありがとう」
ニッコリ微笑み、青年の頬をそっと撫でてから、振り返りカウンターへ向かった。
「ちょっと、なに真っ赤になってるのよ」
「鼻の下伸ばして…い、い、いやらしい」
「ちょっ、鼻の下伸ばしてなんか」
「いいや、伸ばしてるぜ、このクソ野郎」
「そおっす、伸びてるっすよ」
「ぼ、僕もそう、お、思うんだな」
後ろの喧騒など我関せずでカウンターにたどり着く。
「冒険者ギルドイチニ支部へようこそ、担当のロッタです、ご用件をどうぞ」
「以前ここにグリフォン連れの女の子がいたと思うのだけどどこに向かったか教えて貰えないかしら」
ロッタが訝しげに眉を顰めた。
「あなたは?」
ピンクブロンドの女性は胸の谷間からゴールドのカードをそっと定時する。
名前:リッサ・年齢:35歳・性別:女
出身地:ディヴァン領、オルフェリア王国
職業:剣士、冒険者
所属:オルフェリア王国、ディヴァン領、ヨイツ支部
ランク:A
賞罰:ー
「もしかしてエルのお姉さんですか?」
ロッタはギルドカードのランクに眼がいってしまい年齢を見落とした。
さらにピンクブロンドはエルと同じ色で、容姿も似ていたため、姉妹かと思ってしまったのだ。
ロッタの言葉にリッサと名乗る冒険者が静止した。
(……あの娘、エルって名乗っているの?偽名にしては安直ね。エルはエレーニアの愛称でもあるのだから)
きっとエルはリッサという名で冒険者登録している母親に言われたくはないだろうが。
「リッサさん?」
ロッタに呼ばれはっと我にかえる。
「そ、そうなの、あの娘1人で飛び出しちゃって心配で追いかけてきたの」
「そうですか、彼女ダンジョンに挑戦したいと言ってウェイシア王国に向かいましたよ。まあ、色々見て回りたいと言ってましたから、必ずダンジョン目指したかどうかはわかりませんが」
「いえ、その情報だけでもありがたいですわ」
振り向きギルドハウスを出て行こうとした時、一連のやりとりを、新人受付をしながら見ていたランダが声をかける。
「今から追いかけるのかい?」
「ええ、うちのカルラなら日暮れ前にはウェイシア王国を越えられますわ。ご心配は無用です」
ニッコリ微笑むと颯爽とギルドハウスを後にする。それをポーッと頬を染めたグーザ、パーザ、チョーザが見送る。
「さあ、カルラ、行きましょうか」
『了解です。リッサ様』
「え、ヒッポグリフ?」
「すげえっす」
「ぼ、僕もそう、お、思うんだな」
その後のイチニのギルドでは…
「ねえ、今日エルを追いかけて、すごい美人の冒険者が来たのだけど」
と、共に夕食をとるロッタ、ギブソン、ロブスの顔を見る。
「ああ、随分洗練された物腰の女性だったらしい、グーザが興奮気味に言ってたな、俺も見たかったぜ」
ギブソンがジョッキを傾けながらゴチる。
「その女性、ヒッポグリフを連れていたそうですね。チョーザが言ってました」
ロブスの言葉にスープを口に口に仕掛けていたロッタの手が止まる。
「グリフォン連れの娘を追いかけて来た、ヒッポグリフ連れの女性……」
「「「「まさかね…」」」」
再びディヴァン領主の侯爵令嬢と侯爵夫人の従魔の事を思い出した4人は乾いた笑い声を上げるのだった。
悪役令嬢?既に詰んでいるので冒険者になろうと思う 琳太 @Rinta-ha-Rinda
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