第36話 ランクアップ試験
冒険者ギルドに入ると受付にいたのは、お胸様の立派なレイナさんでアルカさんではありませんでした。
あの時はカンペキとか思ったのは大きな勘違いでしたね~
「冒険者ギルドエオカ支部へようこそ、ご用件はレイナが承ります」
ルイジさんからもらった手紙をカウンターに置く。
「【四季ダンジョン】のルイジさんから10歳以下の冒険者登録の件で……「もしかして【金色の翼】の皆さんですか?」
レイナさん、カウンターに乗り出して食い気味で来たよ。
「はいそうです」
「リーザ!!ちょっとここ代わって!あ、すいません、すぐにギルドマスターのところにご案内します」
カウンターを跳ね上げレイナさんが飛び出してきた。
そして私たちを二階に連れて行くと大きなドアの前でノックをする。
「マスター、【金色の翼】の皆さんをお連れしました」
レイナさんの声かけに中から返事が返ってきた。
「入ってくれ」
「失礼します」
レイナさんがドアを開けて私達に中に入るよう促すので恐る恐る入ってみた。
部屋の正面には耳のとんがった金髪碧眼のエルフの男性が、ちょび髭の男性と話をしていた。ちょび髭の男性は背が低くがっちりした身体をしていて多分ドワーフだと思う。
レイナさんはルイジさんの手紙をちょび髭の男性に渡した。
ちょび髭の男性は手紙を受け取ると私たちに頭を下げ、レイナさんと部屋を出て行ってしまった。残された私はリュートと顔を見合す。するとエルフの男性が近づいてきて挨拶をしてきた。
「冒険者ギルドエオカ支部のマスターのジュールだ、この度はうちの職員が迷惑をかけた。本当に申し訳ない、どうぞ、こちらにかけてくれ」
ソファーを勧められたので3人並んで座ると、向かい側にギルマスが座る。ふーん、ここのギルマスエルフなんだ、それで職員にポツポツエルフがいるのかな?
エルフの国ってこの大陸の南西の端だったよね。ウェイシア王国との間にはドワーフの国を挟んでいるのだけど、国を出たエルフは流浪するのが好きって話しだから、ここまで来たのかな。ギルマスなんて地位について定住するエルフもいるんだ。あ、でもここ他にもエルフの職員いたよね、件のアルカさんもエルフだし。
「そちらの虎獣人の彼がポーター登録した少年かな」
「アスといいましゅ」
頭を下げきちっと挨拶をするアス君に微笑みかけるギルマス。そして彼は子供にもきっちり頭を下げれる人でした。
「本当に申し訳ない、君たちの受けた依頼については覚えている職員がいてね。ギルドランクについてはそちらの虎獣人の青年と同等の扱いをさせていただこう、登録費用も免除ということで許していただけないだろうか」
そこまでしてもらえるなら私はいいと思うけど、当事者はアス君だから。
「アス君はそれでいい?」
「僕は冒険者になれて、兄しゃまと同じにしてもらえるんでしたらしょれでいいでしゅが、今後こんなことがないようにしてほちいでしゅ」
「それは…」
コンコンコン
「レイナです、アルカを連れてきました」
「ああ、入れ」
ドアが開くと足元にスライディングしてきた人がいた。
「申し訳ぇありません~、このたびわぁ、ご迷惑をぉ、おかけしましたぁ」
スライディング土下座初めてみた。ってこの世界に普通に土下座の風習あるのだけどスライディング土下座もあるのか。アス君とリュートが若干引いてるしギルマスは引きつってます。
そしてなにもないかのごとくレイナさんがテーブルにお茶を置いて去って行く。クールだな、ペコリとお茶の礼をしておく。
「アルカは……まあこんな風だが仕事は真面目に取り組んでいるんだ。最近は特に問題なく仕事もこなせていたので受け付けも担当させたんだが……」
お茶をいただきながらギルマスの話を聞く。
「だが?」
リュートがギルマスの言い淀んだ言葉尻を捕らえた。
「だが、なぜかアルカに古い受け付けマニュアルが渡されていてな、10歳以下の登録が最近なかったものだから今回までその事がわからなかったんだ」
うるうる涙眼のアルカさん。本当に手違いか、それとも誰かがいたずらで古いマニュアルを渡しでもしたのか、いや多分アルカさんじゃなかったら渡されたのが古いマニュアルだって気が付けたかも……今更だけどね。
「原因がわかって解決できたのならいいでしゅよ」
「本当に申し訳ない」
「申し訳ございません~」
コンコンコン
「マスター入室許可を」
「ああ、入れ」
今度はちょび髭の男性でした。
「ルイジからの証明書だが、E、Dランク依頼共に5件以上連続成功となっている。受験資格条件達成の確認が取れた。Fランクの試験を受けて合格すれば続けてEランクの試験が可能となる」
「そうか、ではこちらの申請書に記入してもらい、先にギルド登録をしておこう」
ギルマスは申請書をテーブルの上に置きアス君の方に滑らす。
アス君は嬉しそうに申請書を埋めていく。
ギルマスがちょび髭の男性の方を向く。
「試験は誰が担当するんだ?」
「俺が担当する。俺はギルドエオカ支部の副マスターのマーリオだ、よろしく」
プッ。お茶吹きそうになった。副マスターは配管工と思われがちだがオフィシャル設定は大工のゲーキャラか、赤と青の服でなくてよかった。ルイジとマーリオ、微妙だ、ルイジさんはヒューマンだったから兄弟ではないけど。
「オネーしゃん、職業どうしよう?」
「得意武器をクロスボウにして、魔法弓士にするかな(アス君、魔法属性全部書かなくていいからね)」
小声で魔法属性についてのアドバイスもしておく。
名前:アス
年齢:8歳
性別:男
出身:シーデ村、北方連合国
職業:魔法弓士
その他:得意武器・クロスボウ/魔法属性・光、水、風
パーティー:金色の翼/リーダー:エル
「ではアルカ、案内して差し上げろ」
「はい、マスター。ではぁ、皆さんこちらにどうぞぉ」
前にリュートの登録の時に来た部屋だ。係のお兄さんは前回とは違う人だった。
魔道具【鑑定機】に係りのお兄さんが用紙をセットするとアス君に手を置くように説明する。
手を置くと青く光りカタカタと紙を吐き出す。
「ではこちらを確認してください。カードは試験後に発行しまが、手続きの都合上仮のカードを作成します。用紙を確認後カードに魔力を流してください。裏面は表示非表示は任意で設定してくださって構いませんので。試験の合否でランクが変わりますから試験後に正式のカードをお渡しします」
アス君は用紙を持って私の横に来る、一緒に見ようと用紙を見えるように広げた。私の後ろからリュートも覗き込む。
名前:アス
年齢:8歳
性別:男
出身:シーデ村、北方連合国
職業:魔法弓士・冒険者
職業ジョブ
剣士、拳士、戦士、弓士、狩人、盗賊、野伏、魔術師、薬師、農夫、娼妓(禿)、漁師、掃除夫、料理人
魔法属性
光、闇、風、火、水、土、雷
加護
&£>*+@*
%#¥〒=%$
やはり加護はバグってますね。
アス君は私達を見上げて来たのでジョブや魔法属性の表示は正式なのが手元に来れば設定すればいいから今は非表示をすすめた。リュートも頷くとアス君はカードに魔力を流して係りの人に渡した。
そして待つことしばし、アルカさんがやって来た。
「あのぉ…カードのぉ、手続きがぁ終わりましたのでぇ、次は試験場に案内しますぅ、こちらにどうぞぉ…」
別の部屋に案内された。学校の教室を思い出す造りだ。部屋に机が並んでいて前方に教壇のような机があった。そこにちょび髭ことマーリオさんが待っていた。
「アス君頑張れ」
「うん、頑張る」
「じゃあこっちに座ってくれるかな、今から見せる薬草の名前と効能を答えてくれ」
私とリュートは後ろでアス君の試験を見守る。
マーリオさんはケースに入った薬草見本を順番に取り出し、アス君は淀みなく名前と効能となんの薬に使うかを答えていった。
Gランクの依頼って雑用だけどFランクの依頼は薬草採取が多かった気がする。だから薬草の知識があればFランクとして問題ないって事か。あ、それは…
「擬き草でしゅ、似てるけど根のところが赤いのと、毒がありましゅ」
おお、ちゃんと見分けれたね。引っ掛け問題のように出すんだ。
「アスはオレの為に薬草探し回ってくれてたからオレより薬草には詳しいんだが、エルのおかげでさらに詳しくなって調合もできるようになったからなぁ。オレだと擬きに気付かないかも、ケースに入ってるから匂いも解りにくいし」
そうか、獣人は嗅覚が優れている種族が多い、匂いも判断材料なんだ。
「全問正解、合格だ」
「やった、アス君おめでとう」
「ありがとう」
立ち上がり駆け寄って来るアス君をナデナデナデ。
「すごいですぅ、全問正解なんてぇ」
「ああ、アルカ。後はこっちでやる。案内ご苦労、マスターに報告だけして業務に戻れ」
「わかりましたぁ。金色の翼の皆さん。本当にご迷惑をおかけして申し訳ぇありませんでしたぁ。次の試験も頑張ってくださいねぇ」
深々と頭を下げてアルカさんは去って行った。
「あの、ちょっといいですか」
「ん、なんだ」
「その見本ガラスケースに入ってますよね、獣人族は嗅覚の優れた種族ですから、素材の見分けとか、獲物の察知とかの判断の1つに嗅覚も使います。匂いを絶たれると獣人族には不利かと考えるのですが」
「ふむ、言われてみれば当然だ。種族の特徴を殺してしまうような試験は公平性に欠く、その意見有り難く頂戴する」
ぺこりと頭を下げるマーリオさん。
「アス君にも謝ろう」
「え、そんな、別にいいでしゅ」
ワタワタするアス君にほっこりしてしまいました。
「オネーしゃん、笑ってる!」
「ええ、笑ってないよ」
「いーや、笑ったでしゅ」
「二人とも、やめろ、副ギルドマスターの前で」
「「ごめん」なしゃい」
リュートに叱られました。
あ、マーリオさんは口元を隠しているが笑ってるな。
「ふむ、ではDランクアップの試験は実技だ。練習場へ移動しよう」
バスケットコート2つぶんはあるだろう訓練場にマーリオさんとやってきた。
「アス君、君は魔法弓士、って珍しい職業だな。弓も魔法も遠距離攻撃タイプだから向こうの的を狙ってもらおうか。まずは弓から」
面白い的だ。三重の円を描いた板が洗濯ロープのようなものにつられていて二本の柱の間にぶら下がっている。あ、端のロープを引くことで的が動く仕組みなのか。アス君のは小型のクロスボウなので射程は短い。なので10メートルの距離から狙い撃つ。5本撃って3本は中心の円の中、2本は二重目の円の中に当たる。
「ほう、いい腕だ、じゃあ次は魔法を撃ってくれ」
アス君は《ウインドカッター》の魔法を連続で3発放ち板を真ん中から切り落とした。
「獣人族で《詠唱破棄》で撃てるとは。しかも魔力操作もできるようだ。羨ましいな」
「
にっこり微笑むアス君です。嬉しいことを言ってくれる。
獣人族に次いで魔法が不得意とされるのがドワーフ族だ。羨ましいと言うのは本心だろう。
「では最後に格闘戦をしよう、後衛であっても自衛手段は必要だからな。武器は何を使う?」
アス君の武器は杖の他は解体ナイフくらいしか持ってない。
リュートはマーリオさんに尋ねた。
「弟の武器は杖なんですが近接戦闘用に何か他を持たせた方がいいでしょうか」
「とっさに持ち帰られるならそれもいいが、それでなくともクロスボウと杖を持ち替えるのだろう?あまり増やすより、杖を使った棒術なんかがいいんだろうが、殺傷力にかけるか……まあ、おいおい考えてみてくれて。今回は杖を使ってくれ」
アス君は自分の杖を構える。マーリオさんは練習用の木剣を構える。
「では始める」
マーリオさんが真っ直ぐに木剣をで突きを繰り出す。アス君はそれを杖で払いながら後ろに飛んだ。そのまま続けて突きを繰り出すマーリオさん。アス君は杖で木剣を払うが力の差か剣筋はあまりそらせず、足を懸命に動かし右に左に剣先を避ける。必死で避けることで攻撃は当たっていないが完全に避けにかかりきりで攻撃を仕掛けられずにいた。
マーリオさんは突きから剣を払いに転じるとアス君の杖が手から弾き飛ばされる。
「あっ」
アス君はとっさにしゃがみ込みマーリオさんの足元をすり抜け杖を拾い構える。
「終了だ」
「まだやれましゅ」
マーリオさんは木剣をひきにっこり笑う。
「合格だ、この試験は勝敗を決めるものではなく、実力を見るためのものだ。さすが獣族ということか。幼いのに素早さと眼もいい。力は成長とともにやがてついていくだろう。今の時点でそれだけ躱せれられるならランクDでも問題なかろう」
アス君はしばし呆然とするも深々と頭を下げた。
「ありがとうごじゃいましゅ」
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