第30話 リュートと呪いと

 1話すっとばしてました。申し訳ございません。

こっちが30話になるので『29話 成長しました』 をお読みで無い方は前話に戻っていただけるとありがたいです。

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 淡い光が収束し、


 目の前には人化したリュート。


 アス君と同じ白髪に黒のメッシュが入った髪は肩からさらりと胸に落ちる。

 頭にはケモ耳がピクピクと動きもふりたくなる。

 瞳の色もアス君と同じ。綺麗な藍色に金のラメを散らした様に、ネコ科の縦に長い瞳孔が此方を見て少し狭まる。

 睫毛はほぼ白く所々に黒が混じり、長さのあるそれは少し上向きにカールしていた。

 ツリ目がちの大きな眼を何度も瞬かせるリュート。

 顔というのは誰でもややアシメトリーなものだ。だがリュートの鼻は筋がスッと通り少し右の小鼻が大きいかも、ほんと少しね、よく見ないとわからないくらい。

 薄めの上唇と、それよりも厚めのぷっくりとした下唇、といっても分厚過ぎず……赤い舌がぺろりと舐めた。


 ゾクリ


 ハイ、イケメンです。ムッチャイケメンです。アイドル、いや歌舞伎町でナンバーワンも狙える美青年。

 あ、そういやナンバーワン男娼でしたね。納得のかんばせで御座います。


 両手を眼の前に上げ何度も握っては開きを繰り返すリュート。指の感触を確かめる様に。


「指が長い……」


 形の良い長い指の先、爪は結構伸びている。リュートの手から毛が消えてスベスベだ。


「…にしゃま……兄しゃまっ」


 ドン!


 アス君がリュートの胸に飛びついて首にしがみつく。


「兄しゃま、兄しゃま、兄しゃま……」


 ひたすら兄しゃま連呼して胸にグリグリ頭を擦り付ける。そんなアス君をしっかり抱きしめ頭を撫でるリュート。

 リュートの呪いを解きたくて小さいのに必死で頑張ってきたアス君にとって、人化したリュートの姿は嬉しさひとしおだろう。


 しばらくすると落ち着いたのかアス君が顔を上げた。


「ごめんなしゃい、オネーしゃん。ぼく…ぼくうれしくて」


 真っ赤な眼を袖で擦って拭うアス君。


「いいよ、嬉しくて泣いたっておかしくないんだから」


 そう言うとリュートから離れて今度は私の胸にぽすんと頭をつける。泣いた顔を見られたくないのだろう、男の子だねぇ。


「ありがとう、オネーしゃん」


 アス君のケモ耳がピクピク動く。思わずもふもふしてしまった。


「ううん、まだ本当に呪いが解けたわけじゃないから、お礼は早いよ」


 リュートの手がアス君に伸び頭を撫でる。2人係でアス君モフリタイムに突入です。

 モフリつつリュートに視線を向けると、ふっと微笑み返された。なんだか耳が熱い。


「それでリュート、どんな感じ?HPの方は」


「……ああ、長時間は無理かもしれないけど、2〜3時間なら問題ないと思う」


「回復魔法を定期的にかけることもできるけど」


 そのまま人化状態で過ごすこともできると提案する。


「いや、それはちょっと…」


 自分を見下ろすリュート。あっ、なんか服がダボついている。左腕を上げ自分の右手で何度も撫でる。


「装備のサイズが合わなくなってる、この手じゃ爪も装着出来ない」


「剣か槍貸そうか?」


「いや、あまり使ったことのない武器をダンジョンでいきなりは怪我の元だ。それに身体能力は人化状態の方が劣るからね。無理はしないでおくよ。まあ当分は食事時とお風呂の時くらいかな。ああ、お風呂入りたいな」


「半獣形態の時は入ってなかったものね。じゃあとっとと5階層クリアして街に戻りましょうか」


「うん、ぼく兄しゃまの背中流してあげる」


 ようやく復活したアス君が眩しい笑顔を向けた。

 出発準備を終えるとリュートは半獣形態に戻る。


「マタセタ、行ウカ」


 通路を5階層に向かって歩き出す。


「そういえば、半獣形態の時と口調が違うよね」


「半獣形態のときは喋りにくいんでしゅ。ぼくは獣化形態と人化形態しかなれないのでまだ経験ないでしゅが」


 うん、人化形態でも『さしすせそ』が『しゃししゅしぇしょ』だよね。

 それよりもアス君の獣化形態見たい、見たことないよ、見せてくれてないよね。


「……いやでしゅ。なんだかもみくちゃにしゃれしょうでしゅ」


「が〜〜ん!」


「ブッ」


「あ、リュート笑ったわね」


「アア、スマン。マアソノウチ、叶ウサ」


 そんな風に会話をしながら三人と一頭は5階層に出た。





 

 

 




 階段部屋の通路を抜けると森でした。鬱蒼と茂る葉が陽射し(太陽がないのにこの言い方変だな)を遮り薄暗い。これは頭上注意だな、8本足のやつが落ちて来るんだろう。


 アス君は図鑑で【除虫草】を調べていたので直ぐに菊の葉に似た薬草を見つけた。

 まだこの辺りに蜘蛛がいない事を《サーチ》で確かめ採取にかかる。ポツポツと【オークトレント】がいるので後でいつものごとく伐採しますか。


 お、ブルーベリー見っけ、あ、向こうに苺もある。さすが春階層、他はないかな?クランベリーは夏だし。オレンジとかメロンって春の果物じゃなかったっけ?日本ではハウス栽培とか輸入品とかでシーズンよくわかんないの…ん、何か近づいてきた。


「アス君、リュート、戦闘準備ね」


 現れたのはゴブリン集団でした。ウォーリアー2匹、メイジ1匹、アーチャー2匹、最後尾にゴブリンナイト。


「リュートとレイディはウォーリアー、アス君はメイジねらって。私はアーチャーを倒すから。」


 指示するとそのままアーチャーに向かって《縮地》で一瞬で移動し2匹まとめて槍で薙ぐ。

 同時にリュートがウォーリアーに向かった。

 アーチャーを仕留め振り返るとそこにナイトが突っ込んできたがバックステップで距離をとる。

 レイディは前足の一撃でウォーリアーを仕留め、リュートも爪で首を飛ばし瞬殺後アス君が喉を射ったメイジに留めをさした。

 残るはナイト。シールドを構えリュートに向かって行く。リュートは腕を前で交差させ防御するもナイトの《シールドバッシュ》で吹っ飛んだ。


「リュート!」

「兄しゃま!」


 ニヤリと笑うリュートはクルンと空中回転し、後ろの木を蹴り飛び出した。吹っ飛んだと見せかけて《シールドバッシュ》に合わせ後方に飛んで勢いを殺したのか。

 ナイトはレイディの前脚攻撃を盾で防ぎ、リュートに背を向ける形になった。


「ハアッ!」


 気合い一発見事な一閃でナイトの首がチョンパされあっけなく沈んだ。


「リュート、怪我はない?」


「大丈夫ダ、エル」


 ニカッと笑うリュート、やはり獣人の戦闘センスおそるべしだな。


「レイディとアス君もお疲れ様」


 とっとと耳切り落とそう。ナイトの盾使えそうかなと思ったらレイディの一撃で凹んでる、とりあえず持って行くか。

 売れそうなゴブリンの装備を回収し先に進む。









『なんか来たなのヨ』


 苺摘みをしていると、辺りを警戒していたレイディが知らせて来た。

【ポイズンタランチュラ】のお出ましだ。脚をピンと伸ばすと最長2メートルくらいある毛むくじゃらの蜘蛛が前脚を振り上げて威嚇する。


 ビュシュッ


「オット」


【ポイズンタランチュラ】が毒を飛ばしてきたが、リュートは横っ飛びで上手く避けた。


 毒がかかった所の草がシュ~っという音と共に変色し枯れて行く。


 リュートはスローイングナイフ、アス君がクロスボウで遠距離攻撃に切り替えるも【ポイズンタランチュラ】はぴょんぴょん飛び跳ねて上手く避けられた。


「エル、サッキノ盾ヲ貸シテクレ」


 リュートの要請にインベントリからゴブリンナイトの盾を取り出し、リュートに向かって地面を滑らせて投げ渡す。


「フ、コレデ毒ハ防ゲル」


 セリフは勇ましいが盾持てるのかな、大丈夫かな。あ、持ち手に爪を通して盾を固定してる。


「アス、魔法頼ム」

「うんまかしぇて《ストーンバレット》」


 石の礫が3個【ポイズンタランチュラ】に向かって飛んで行く、しかしリュートに向かって飛び上がる事でストーンバレットを避けた。


「ヨシ、《シールドバッシュ》」


 飛び込んできた【ポイズンタランチュラ】を《シールドバッシュ》で叩き落とす。

 初盾装備でさっき見たばかりのゴブリンナイトの《シールドバッシュ》を繰り出すリュート。


「エル、今ダ」

「あ、《アイスランス》」


 氷の槍が地面でひっくり返ってる【ポイズンタランチュラ】に突き刺さり、脚を痙攣させてから生き絶えた。


「兄しゃま、やったね」


 リュートとアス君はハイタッチを交わす。

 たった一度見た、というかくらった《シールドバッシュ》を使って見せたリュートに、驚きでパカんと口を開けてしまいました。


「エル、コノ盾、使ッテイイカ?」


 ゴブリンが使ってたものだからサイズ的には小盾なのだろうか。


「ええ、いいわよ」



 ポイズンタランチュラの脚は食べれるそうだ。だが、食べたくはないが素材として売れるので回収する。


 その後何度か【ポイズンタランチュラ】に遭遇するが問題なく倒し、たまに木の上に巣を張ってる【レッサースパイダー】をアス君が射落しながら先へ進む。

 途中レイディがどこかへ行ったと思ったら角熊を仕留めて帰ってきたよ。


 ゴブリンは小隊編成で襲って来るがあっさり返り討ち。メイジやアーチャーの武器はトレント製でした。

 小盾や剣も使えそうなものは回収。防具?臭いし汚いのでいりません。


 その後唐突に森が終わり壁に突き当たる。壁と言うか岩肌に不釣り合いな扉があった。中ボス部屋の前に到着したようだ。



 近くの蜘蛛はあらかた駆除したので扉の近くでお昼にしましょう。


「生姜焼きでいいかな?」

「うん」

「アア」


 リュートは食事をする間、人化形態になると、アス君がニッコニコで甲斐甲斐しくお世話をするのがなんとも微笑ましい。

 本当は人化形態より半獣形態の方が色々不便だったはずなのに。

 シートがわりの毛皮を敷いて車座になって座り真ん中に《ストーンクリエイト》で卓袱台擬を出してキャベツの千切りたっぷり添えた角豚の生姜焼き、あとは塩オニギリと大根とお揚げのお味噌汁を置いていく。

 レイディには角熊のお肉を出しました。





 食事が終わり後片付けをしていると、中ボス部屋の扉が突然開き、咄嗟に武器を構える。


「お、なんだ?女とガキ?」

「さっさと行けよ、って冒険者か」


 それはこちらのセリフです。扉から2人の冒険者が出て来て私達を見つけた。

 ダンジョン入ってから他の冒険者に会うのは初めてだ。


「なっ、なんで5階にグリフォンが」


 2人の冒険者は剣を構え跳びづさる。


「この子は私の従魔です、剣を向けないで」


「え?従魔?」

「あ、首輪してる」


 2人の冒険者は気不味そうに剣を収めた。


「わりい、わりい。そーいやグリフォン連れの冒険者が入って行ったってギルド職員が言ってたな」

「すまんな、姉ちゃん。もしかして今から中ボスか?」


「そーでしゅ」


 2人はアス君を見て

「おい、こんな小さい子連れて大丈夫って、グリフォンがいれば問題なしか」


 男のセリフにムッとするアス君とリュート。


「おい、さっさと採取行かないと間に合わねーぜ」

「おお、ま、頑張れよ、じゃあな」


 2人の冒険者は足早に去って行った。


「中ボス、今の人達に倒されちゃったのかなぁ」

 残念そうに2人の去った方を見るアス君。


「それはないから大丈夫。階段部屋の《転移水晶柱》から逆にボス部屋に入ってもボスは出現しないの、階層側の扉から入った時だけ出現する仕組み。だから今の人達みたいに採取したいものがある階層に下から登ってくることもできるの。ただ帰りにもう一度ボス部屋通るなら出るけどね。で、同じ階層のボスは一度倒したらダンジョンをでない限りもう一度出現することはないんだって」


 リポップ待ってボス戦繰り返すことはできない仕組みになっている。

 じゃあボス倒して一度出てまた入ってボス戦、と言う方法はできるがそれはギルド職員が見張っているので、やっているのを見つかるとペナルティーがある、ランク降下とかね。


 それでは中ボス戦、準備して参りましょう。


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 *魔法は滑舌悪くとも発動します。

 *エル達は入口から階段までほぼ直進している、他の冒険者は目当ての素材を求め散らばっているのですれ違わなかった。階段部屋でも遭わなかったのはたまたまです。


 5階層の獲得品

 除虫草48本、ロキ草34本、リポ草14本、ゴブリンウォーリアーの耳5、ゴブリンアーチャーの耳8、ゴブリンメイジの耳7、ゴブリンナイトの耳3個、オークトレントの鼻枝5本、オークトレント6本、ポイズンタランチュラの牙14対、ポイズンタランチュラの毒袋14個、ポイズンタランチュラの脚51本、レッサースパイダーの牙8対、レッサースパイダーの糸袋8個、苺1籠、ブルーベリー1籠


 ゴブリンの戦利品

 鉄の短剣3(ウォーリアー)、トレントの弓4(アーチャー)、トレントの杖2(メイジ)、鉄の小盾2(ナイト)、鉄の剣1(ナイト)



 魔石

 ゴブリンウォーリアー5個、ゴブリンメイジ7個、ゴブリンアーチャー5個、ゴブリンナイト3個、オークトレント6個、ポイズンタランチュラ14個、レッサースパイダー8個、角熊1個





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