第14話 たっぷり収穫
歩きながらの《エリアサーチ》で薬草系も探しておく。あ、向こうにヒール草がポツポツ生えてるので摘みながら行こう。
30分ほど進むと《エリアサーチ》に角猪が引っかかった。そろりそろりと気配を消しながら進むと何かを一心に食べている角猪発見。レイディと挟み撃ちにする為、飛び上がって角猪を越え反対側に着地。レイディが「Gyua!」と鳴いて威嚇すると驚いた角猪がレイディとは反対方向に走り出す。そこで待ち受けてる私。そのまま真っ直ぐ突っ込んで来たのでひらりと身を交わしつつすれ違い様グルカナイフをひと薙する。首を斬られた角猪は暫く進むが脚がもつれ、ドウッっと倒れる。そのまま近くの木にぶら下げ血抜き解体。いや解体にこのグルカナイフお役立ちです。ミスリル製なので魔力を通すとスパスパ切れます。
さらにもう1匹角猪飼ったところでお昼にしました。レイディには狩りたての角猪肉をあげる。
お肉って熟成させた方が美味しいというのが日本人知識にあるが獣系モンスターは魔素を多く含んだ狩りたての方が美味しいのだ。時間で魔素が抜けていき味が落ちるらしい。インベントリに入れておくといつでも狩りたて。売る分は狩りたてすぎも怪しまれるので街に帰る前にマジックバックに入れ替えないとな。
さてレイディにもたれて食休みもとったし昼からは薬草採取でもしましょう。
2時間ほどぶらぶらしながら薬草採取してると崖下に突き当たった。結構断崖絶壁っぽいがレイディに乗ればひとっ飛び……あ、崖の中腹辺りに角鹿発見。
ここで妖精の弓を取り出す。雷の属性を込めてピュッとな。急所に当たらなくとも雷で痺れて一発で落ちて来る。そこを《フローティングコントロール》で優しくキャッチ。でないと崖で擦って毛皮の価値が下がっちゃいますもん。
角鹿にトドメさしてるとレイディが寄って来た。
『御主人、なんか来たなのヨ』
レイディが何かを察知したようなので私も《エリアサーチサーチ》。コッチにジリジリにじり寄る点がひーふーみー…6個程あるな。何だろうと一番近い奴の方向を見ると、ガサリと繁みの間から出て来たのは森狼もしくはグリーンウルフと呼ばれるモンスター。うん、深緑色の毛並み。そりゃ人間もピンクだの青だの紫だの色んな髪の毛生やしてるんだから、獣も色んな毛生やしてるよね。
グルルルゥっと唸るグリーンウルフ、しかしレイディをみて一瞬ビビったようだ。だが気を取り直したのかのそり、のそりと警戒しながら近付いて来た。私達を囲むように次々現れるグリーンウルフ。角鹿と言うより私がロックオンされてる気がする。
『うっとおしいのなのヨ、御主人、やっちゃっていいなのヨ?』
「Gyuryuuu~」
レイディが唸ると前傾姿勢で構えるグリーンウルフ達、
繁みから「ガオォォン」と吠えながらひとまわり大きなグリーンウルフがレイディに飛びかかって来た。レイディは前足を振り上げグリーンウルフに一撃を加えようとするがグリーンウルフは素早く跳びのき、爪は空を切る。レイディがグリーンウルフを追いかけると、残りの5匹が一斉に私に飛びかかってきた。
インベントリからグレイブを出し大きく振り回す。当たるとは思ってない、とりあえず牽制して隙をさがさないと。レイディに向かって行ったのが群れのボスだろう。自分を囮にしてレイディを引き寄せ、その間に仲間が弱い私を狙う、頭がいいボスだわ。しかし、私を弱いと舐めた事を後悔させてあげる。
「《
地を這うように3本の雷がグリーンウルフに向かう」
「キャウンッ」「ギャウッ」
1匹避けられた。魔法で狙わなかった左のグリーンウルフに踏み込みグレイブを横薙ぎに払う。浅い、胸元を僅かに掠っただけで横っ飛びに逃げられた。その隙を狙いフリーになっている1匹が飛びかかって来る。
「甘い!《
突如地面から突き出た厚さ10センチ横幅50センチ高さ150センチの石の壁にグリーンウルフが頭から突っ込んだ。
「ギャウッ」
突っ込んで来たグリーンウルフは鼻面をしたたか打ち転げるがすぐに立ち上がる。それを横目にグレイブを左のグリーンウルフの喉元に突き刺し払う。喉を裂かれたグリーンウルフは払った勢いでそのまま倒れた。
「まず、1匹目」
石壁をグリーンウルフに向かって蹴り倒し、ぶつかって来たグリーンウルフに向かって走り出す。
「ガウォォォォン」
遠吠えのようにボスが吠えた。その途端動ける2匹が踵を返し去っていく。ボスを見ると苦々しげに(いや、そんな感じがしただけ)睨むと藪の中に飛び込み走り去って行った。
『逃がさないのなのヨ』
「レイディ、追いかけなくていいわ」
跡を追おうとするレイディを引き止める。遊ばれた感があるのか悔しそうなレイディを撫でて宥める。《サンダースネイク》で気を失った2匹のグリーンウルフにトドメを刺し3匹をそのままマジックバックの方に入れる。グリーンウルフの肉は硬いし臭いし美味しくないので食べる気はないから時間が経ってもいいのだ。解体するの邪魔くさいのでこのまま売ろう。
狼は集団で狩をする。グリフォンに敵わないと踏んだあのボスは自分がレイディの気を引いている隙に手下に私を襲わせた。そして魔法を使った私にも不利だと感じたら、即退却した。普通の狼より頭がいいと言うか判断力があると言うか、この世界の狼系モンスターは侮れないね。この場所で角鹿の解体はヤバそうなのでインベントリに放り込んで移動する事にした。
《エリアサーチ》で各種薬草の位置と獣の動きをチェックしつつ採取をすると結構疲れるので、レイディに辺りを警戒して貰いながら採取に集中する。キノコ&野草もみっけ。あ、野苺だ。もう少ししたらブルーベリーとかも取れるかな。
影が伸び陽の傾きを感じる、そろそろ16時くらいか、
レイディにまたがり上昇する、東南方向に進路をとるとすぐに城壁と時の塔が見えてきた。時の塔は朝6時から21時まで3時間おきに鐘を鳴らし時間を教えてくれる。また6時と18時の鐘はそれぞれ開門と閉門の合図でもある。鐘は神殿か領主が管理しているところが多く、イチニは神殿管理となっている。この世界の時計は魔道具で精密機械ではないので持ってるのは貴族とか金のある商人とかだ。え、エレーニア?持ってるに決まってるでしょう。蓋に花の透し彫りが入った懐中時計型。当然パパンからのプレゼントだ。
西門が見えてきたので街道に降りる。そのままレイディを歩かせて入門待ちの列の最後尾に並ぶ為レイディから降りた。
従魔の首輪をつけているので、最初のように警備兵が走ってくる事はないがやはり周りにはビビられてる。レイディを撫でながら進むと門兵に「グリフォン…」と青い顔をされた。南門から出たから西門通るの始めてか。
門兵さん達にグリフォン連れの冒険者がいる事は通達されてると思う、たまにキラッキラした眼で観てる門兵さんもいる。グリフォン、フェンリル、ドラゴンは男の子の憧れ従魔トップ3なのだ。
ギルドカードを見せて無事イチニに入る。レイディを宿に連れて行ってから冒険者ギルドに行こう。
「レイディ、お疲れ様」
なでなでしてるとベン青年が来たので今日と明日の朝の分の角猪肉を渡しておく。
さて、納品行きますか。
夕方のこの時間にギルドハウスに来るのは初めてだ。朝よりは少ないが其れなりに多い。テーブルで報酬を分配するチームや、買取カウンターで交渉してる人など色々だ。さて私も列ぼう。何だろう、ギルドハウス内が生臭い気がする。
前に一度見た頭の寂しげなおじさんだ。ロブスさんと言うらしい。
「依頼分の納品に来ました」
先に依頼書とギルドカードを渡す。ロブスさんは受け取った三枚の依頼書を確認する。
「角兎肉5キロ以上と、角兎の毛皮5匹分、角猪肉10キロ以上と。あれ、今日受けた依頼ですよね、もう達成されたんですか?と言うか依頼品はどこに?」
たすき掛けの鞄一つで荷物がないのでロブスさんは怪しむ。私は少しカウンターに身を乗り出し小声で伝えた。
「マジックバック持ってますので中に入れてます」
「そ、そうですか、じゃあ、か、買取カウンターの奥の方へ、結構ありそうなので」
ロブスさんは噛みながら案内してくれる。顔が赤いぞ?ロブスさんは買取カウンターにいる男性に声をかけ私の依頼書を手渡した。
「よう、嬢ちゃん。あんた昨日登録した新人だよなぁ、オレはギブソン、解体と査定係だ。よろしくな。で、角兎と角猪って、おいまじか」
依頼書を見て意外そうな顔をする。
「エルと言います。お願いします」
ギブソンさんの前に角兎肉5匹分と皮5匹分、角猪1匹分を出す。ふと見るとギブソンさんの口が開いていた。
「あ、ああ、ちょっと査定すっから、こいつは番号札だ。番号で呼ぶからその辺で待ってな」
8番と書いた木札をもらう。待ってる間に依頼書ボードを見てこよう。新しいのがあるかもしれない。
【角鹿の毛皮】が残ってる。あとは【角兎肉】が増えてる、依頼が【酒と肉亭】ってなってる、ここって酒と肉しかメニューにないのかな?鹿肉の依頼があればいいけど無さそう。この辺は商業ギルドにでも売るか。
ん?【角鹿一頭】って言うのがある、こっちの方が解体してないしちょうどいいや。あとは薬草系だな。ぴっと2枚の依頼書を剥がす。ちょうど8番が呼ばれたので買取カウンターへ行った。
「角兎はどれも一発で仕留めてあって毛皮に傷がない。依頼書は2500だが3000ってとこだ。肉の方は6.6キロなんで2970メル。角猪肉は16キロで12800メル、合計で18770メルだ」
この世界の長さ重さの単位は日本と同じ、メートルとグラム。まあゲームかラノベかの設定が日本仕様だったから。オンスとかインチじゃなくてよかった。
なんか渋い顔で依頼達成のところにギブソンさんのサインが入った依頼書を差し出される。受け取ろうとした時ギブソンさんが口を開いた。
「…査定、待ってる間に依頼書剥がしてたよな、嬢ちゃん。そのバックの中にまだとって来たもん入ってんのか?」
「はい、他にもあるんでこの後受付処理して貰おうと思ってます」
そう告げるとますますギブソンさんの眉間に皺がよる。
「邪魔くせえからここで俺が受理してやる。出しな」
「常時依頼の薬草なんかはどうしたらいいですか?」
「薬草まであるのか?そいつもここで出しな。薬草の本数で依頼書書いてやる」
「わかりました、ではお願いします」
常時依頼は依頼ボードの依頼書ではなく受け付けでその都度依頼書を発行してもらうのだ。
【角兎肉】と【角鹿一頭】の依頼書を渡しインベントリから兎肉と角鹿を取り出す、あ、ヤベ!角鹿ほんのり温かい、どうしよう。そうだ無詠唱で
ザワザワッと周囲が騒めく、あ、バレたかな周りがなんかこっち見てる。
「おい、今鞄から角鹿一頭丸々出さなかったか?」
「マジックバックじゃあないのか」
「いやそれより、あの子が倒したのか?あの角鹿!」
そっちですか、ちょっとホッとした。前を向くとまたギブソンさんが難しい顔をしている。
「角兎肉がこんだけあるんだったら毛皮もあるんじゃないのかい?」
ギブソンさんの後ろから聞き覚えのある声がした。
「マスッ、ランダか、俺もそう思ってたとこだ、あるなら買い取るぜ」
うーん、レイディが捕まえた角兎は爪跡があって売り物にはなりそうにないんだよね。まあ、見せたら納得してくれるか。
「残りの毛皮は傷が多くてちょっと売り物にはなりそうもないんですが」
カウンターに置いた毛皮をギブソンさんとランダさんが手に取って調べる。
「なんだい、この大きな傷、爪跡だね」
「従魔が捕まえた分なんです。捕まえた時の傷が…」
「へえ、従魔持ちかい、何連れてんだ?嬢ちゃん」
「グリフォンです」
ガタン、ドタッ、バタン
あっちこっちから物音がする。前を見ると今度はギブソンさんとランダさんの口が開いていた。
ランダさんがハッと我に返り
「暫く前にグリフォン連れの冒険者が街に入ったって聴いたが、このイチニにグリフォンを従魔にしてる冒険者なんていないからガセネタだと……あんただったのかい」
「一体どこでグリフォンテイムしたんだ?」
尋ねるギブソンさんをランダさんが止める。
「冒険者の詮索は御法度だよ、ギブソン」
「ああ、そうだな、つい。すまんな嬢ちゃん。まあこの皮は買い取れても一枚100メルだな、どうする?」
持ってても仕方ないので売っちゃおう。ギブソンさんに売ると返事をする。
「わかった、あとは薬草か」
インベントリから薬草を取り出す。
解熱草15本、解毒草10本、ロキ草16本、ビオ草20本、ヒール草10本。それぞれ水で湿らせた麻布に挟んであるので状態はすこぶるいい。
「お、おう、じゃあ査定すっから待ってろ」
今度は15番の木札を渡された。なんかランダさんの視線が痛い。いやランダさんだけじゃなく周りの視線が痛い気が…もしかしてやっちゃった?
査定の結果、角兎肉7キロ2800メル、角兎の毛皮700メル、角鹿一頭1万メル、薬草は状態がいいので解熱草500メル、解毒草450メル、ロキ草650メル、ビオ草500メル、ヒール草550メル。
合計16150メル。本日の収入34920から1割ひいて31428メル…一桁ってどうするんだろ?最低貨幣は10メルの小銅貨だよね。
ギブソンさんから7枚の達成サイン済み依頼書と薬草を包んでた麻布を渡された。
「エル、カウンターで依頼達成処理してもらいな」
ランダさんとギブソンさんに礼を言ってロブスさんのカウンターに並ぶ。1日の収入としてはまあまあかな。グリーンウルフは今日は出さない方がいいだろうな、今度にしよう。先の達成済みの依頼書とあわせて10枚か、ん?10枚…
「ではエルさん、達成済み依頼書を出してください」
ロブスさんに依頼書を渡す。数えてるうちに何だか手が震えてるような、気のせい?あれ、なんか汗かいてますよ。
「え~っとですね、エルさんは依頼連続10件達成で…
ランクアップ条件をクリアしましたので……
今日からFランクになりまずね、じょっどおまじぐだざい」
最後なんか変な言葉になってたが、ロブスさんは依頼書を持って奥に引っ込んだ。
若干ふらつきながら戻って来たロブスさんは袋と赤いカードを差し出す。
「Fランクになったので赤のギルドカードになります。表面に間違いがなければ魔力を流して下さい」
名前:エル・年齢:16歳・性別:女
出身地:ディヴァン領、オルフェリア王国
職業:魔法剣士、冒険者
所属:オルフェリア王国、エイデ領、イチニ支部
ランク:F
賞罰:ー
「ではこちらは依頼達成料の31430メルです」
大銀貨3枚、小銀貨1枚、大銅貨4枚、小銅貨3枚いただきました。一桁は切り捨てかな。
「ありがとうございます」
日暮れまでまだ時間があるな、商業ギルドに行ってみるか。
「登録1日目でランクアップって嘘だろ…」
そんな呟きがエルの後ろ姿に向かって放たれた。
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