第64話 永久の古墳

「玄武に・・・リトー・・・」


ピコハンから聞いた話にその名を復唱しながらクリフは考え込む。

村へと戻ったピコハン、アリー、クリフはピコハンの家に集まっていた。

帰った時にはアリーとクリフが共有箱に入れた金銀財宝が村の住人の手により手分けして処理されていた。

一国の国家予算にも匹敵するほどの収益が見込める状況に人々は歓喜していた。

勿論功績者であるアリーとクリフの取り分はしっかりと分けられている。

トレジャーハンターとして国から認可されている彼等と共に村に来ている者がしっかりと目を光らせていたのだ。


「ピコハンさん・・・王都に来て下さい、もしかしたらピコハンさんなら・・・」


クリフが真剣な顔でピコハンに王都行きを進める。

玄武とリトーと言う名前に心当たりがあったようで意味深な言葉を途切れ途切れに話すクリフ・・・

その言葉を聞いてピコハンはアリーの顔を見詰める・・・

ピコハンの視線に気付いたのか頬を赤く染めつつもクリフの誘いを受けるのか気にするアリー。

だがピコハンはアリーこそがリトーの狙いだと知っている為に出来れば離れたくなかった。


「アリーも一緒に来るのなら行こう・・・クリフがそう言うって事は何かあるんだろ?」

「はい、王都で呼んだ古文書の一つにリトーの名前が載っている物があります。まるで雲を掴むような御伽噺な内容でしたがそれをもう一度しっかり読み直したいのです。それと先程の話が本当なのでしたらピコハンさんに行ってもらいたい場所がありますので」

「クリフ?まさか貴方『永久の古墳』へピコハンを?」

「永久の古墳?」


アリーの口にした名前にピコハンは首を傾げるが気にせずにクリフは頷く。


「もしかしたらピコハンさんを待っている者が居るのかもしれません・・・」


こうして2週間後、財宝の処理が全て終わり村の後の事をアイに任せてピコハンはアリーとクリフと共に王都へ向かうのであった。










「凄いな・・・これが王都・・・」

「はい、それでは私とアリーはここで降ります。ピコハンさんはこのまま永久の古墳へ向かって下さい」

「分かった」


王都の門前でクリフとアリーと分かれるピコハン。

ピコハンは人捨てに在った時に村の名簿から名前が抹消されている、それはつまり戸籍的にこの世界ドリーには存在しない人間となっている。

小さな村でさえ戸籍の存在しない人間は入れないのだから王都にピコハンが入れる筈は無いのだ。

その為、門の外からそれを眺めるだけであったピコハンは乗ってきた馬車に揺られその場所へ向かう。


「お客さん、着きました。帰りは明日の昼にお迎えに上がりますのでここでお待ち下さい」

「分かったありがとう」


馬車から降りたピコハンは従者にお礼を告げ去るのを見届ける。

聞いた話ではこの永久の古墳は遥か昔の名も無き英雄と呼ばれる人物を祭っている場所で名所と呼ぶほどではないが観光目的で極稀にこうして来る者がいるらしいのだ。

ピコハンはその入り口を見て固まる。

暫し瞬き一つしないピコハンには分かったのだ。


「なんだ?この感覚・・・まるで・・・」


そう独り言を言いながら足を踏み出すピコハン。

神殿の様な柱が建てられた中央に存在する真っ暗な空間に一歩足を踏み入れれば不思議な事に視界が開ける。

外の光が途切れると共にクリアになったその中を見てピコハンは肌に感じる空気で理解した。


「これは・・・ダンジョン・・・なのか?」


そのまま前へ足を進めるとまさしく墓と言う感じで墓石の様な物が幾つも規則正しく並んでいた。

どれもこれもかなり古い物で欠けたり割れたりしている物も沢山在ったが迷う事無くピコハンは奥へ足を進める。

通路なのか分からない墓石と墓石の間を通りピコハンは一つの墓石の前に辿り着いた。


『やぁ、君が今回の玄武候補なのかな?』


ピコハンの脳内に声が響く、墓石に向かってピコハンは頷き返す。


『まさかこんな子供が今回の候補だなんて・・・そうか、もう時間が無いのか・・・』

「時間?」

『あぁ、気にしないでくれ。それよりもここに来て声が届いていると言う事は君はもう3段階まで進んでいるんだね?』


その単語にピコハンは警戒心を高める。

墓石に向かっては居るが声は脳内に直接届いている。

しかもその内容がリトーが話していた事と被るのだから警戒しない筈がないだろう。


『君が希望になるか、それとも単なる繋ぎになるのか試させて貰うよ』


その瞬間ピコハンのからだは真横へ落下を始めた!

一瞬で自分の立っていた場所が縦になったかのように重力の方向が変わったのだ。

驚きつつも警戒していたピコハンは真横に生える様な形になった墓石につかまり落下を止める。


「ふぅ・・・落ちたらあれの餌って訳か・・・」


落下する予定だった下を見るとそこには壁一面に水色の巨大なスライム状の何かが存在していた。

半透明のスライムの中には白骨死体と思われる物が幾つもあり、取り込まれれば喰われるのは一目瞭然であった。


「とりあえず下は無理そうだし上か?」


そう言いながら生えている墓石に捕まり足をかけながら上へ上へとピコハンは登っていく。

少しして墓石がダンジョンごと揺れたと思ったら下に居た巨大なスライムが更に巨大化し上へとその体を伸ばしてくる。

まるで空間そのものを取り込むようにピコハンの方へ向かってくるのでピコハンは焦らず更に上へと墓石を頼りに登っていくのであった。

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