第62話 玄武
「なんだ・・・まだ子供じゃないか・・・」
ピコハンの耳に声が届いた。
「おーい、少年よー俺の声が聞こえるかー?」
ピコハンは声に誘われるように目を開く・・・
そこは真っ暗な空間であった。
「こっちこっち」
振り返って声のする方を見るとそこには白い線だけで描かれた様な人間が立っていた。
輪郭と目、鼻、口が白色で描かれているのでそれは人だと理解できるのであるが・・・
「やぁ良くここまで進めたね、玄武の子に会うのは本当に久々だよ」
「玄武の子?」
「あぁ、君達の事だよ。それはそうと名前を聞いてもいいかな?」
「ピコハンだけど・・・そっちは?」
ピコハンはその白い線だけで描かれた人間から敵意を感じないので情報を集める為に会話を続けることにした。
「ピコハン?中々珍しい名前だね、俺はリトーって言う。宜しく」
そう言って掌をこちらに向けて挨拶をする。
「リトーさん、ここは一体?」
「ここはピコハン君の精神世界さ、本当なら2段階の時点で俺が挨拶をしないと駄目だったんだけどね」
「えと・・・その2段階って何ですか?」
「ダンジョンに自分を愛する人が喰われて存在が2段階進化したって事さ」
「ダンジョンに・・・喰われた?」
その言葉を聞いてピコハンは妹の存在を思いだす。
意識をそらすと直ぐに頭の中から存在が消え去るので今の今まで忘れていたのだ。
「そうだね、君は次の玄武候補なんだから知っておくべきかもね」
「げ、玄武候補?」
「そうだね、ちょっと長い話になるけど・・・いい?」
ピコハンは妹の情報が手に入るのならばと頷きリトーの話に耳を傾けることにした。
「最初に何処から話すか悩むんだけど・・・ピコハンはこの世界、玄武は知っているかな?」
首を横に振るピコハン。
生まれた時から住んでいるこの世界の本当の名前が玄武だと言うことすら今始めて聞いたのだ。
だが先程告げられた言葉が頭に浮かぶ・・・
(玄武の子?)
「遥か遠い昔、この世界は滅びたんだ。理由は分からない、だけど生命が生存する事はほぼ不可能な世界になってしまった。そんな世界の滅びの中で唯一生存が可能な生物が居た。それが玄武だ」
突然始まった余りにも予想を大きく外れた話にピコハンは混乱しつつも話に耳を傾ける。
「玄武は世界が滅びれば生き残るのは自分だけになる、それは絶対に嫌だったんだろうな・・・だから玄武は自らの体内に世界に住む生き物を丸ごと取り込んだんだ。そうして滅びる世界から玄武によって救済された生命は玄武の中で生きる事が出来るようになった。」
「ま・・・まさか・・・」
「そう、それが君達が住む世界なんだよピコハン」
「そ、それじゃああのダンジョンは・・・」
「ダンジョンだけじゃないさ、この世界全てが玄武の体内なんだよ」
とんでもない事実を突きつけられたピコハンは理解に苦しみながらもリトーの話を聞く。
「しかし、玄武も1匹の魔物。生き物である以上寿命と言う物は勿論ある、だから玄武は自分が死ぬ前に次の玄武と入れ替わりこの世界を守り続けることにした。その入れ替わりに必要なのが4段階進化した玄武の子という訳さ」
「じゃあ・・・ダンジョンに喰われて忘れられた人って・・・」
「うん、女の玄武の子は次の玄武を背負うのに相応しい存在に自らの存在の力を与える役割があるのさ」
「それじゃあ妹とルージュは・・・もう・・・」
ピコハンの言葉にリトーは首を横に振る。
「ピコハンは既に3段階まで進化しているみたいだね。1段階進化が存在の器を作る、2段階進化が他者の命を取り込む、3段階進化が寿命を延ばす、そして4段階進化で君達は本物の玄武となるわけだ」
「・・・えっ?」
その言葉にピコハンは疑問を抱いた。
ピコハンがダンジョンを単独攻略出来るようになった進化は記憶によると妹がダンジョンに喰われてからである。
それが2段階進化だと言うのならば・・・
「最初の1段階進化に使われた玄武の子は誰の記憶にも残らない、だから思い出せるのは2人目以降の相手だけなのさ」
「ま・・・まさか・・・」
そう、ピコハンの記憶にも残っていないもう1人の存在・・・それはピコハンの姉であった。
彼女はピコハンがまだ幼い頃に人捨てに遭いダンジョンへと捨てられた。
そして、そのままダンジョンに喰われたのだが彼女はピコハンへその命を繋いだ。
結果、ピコハンは次に妹がダンジョンに喰われてもその記憶を完全には失わず思い出すことができたのである。
「さて、それじゃあ最後の一人を喰わせてピコハンを玄武にするとするか」
そう言ってリトーが闇を見るとそこへ白い枠が出来てモノクロの世界が映し出された。
そこには仰向けで寝るピコハンに膝枕をしているアリーの姿が在った。
「彼女が適任だね、これで君が次の玄武にな・・・」
リトーが体をそらせてそれを避ける。
ピコハンが目にも止まらぬ速さで折れた剣の破片を投げつけたのだ!
「甘い甘い、でも邪魔は出来ればしてほしくないんだけど・・・仕方ないか」
溜め息を一つ吐いてリトーは拳を強く握り締める。
するとピコハンを囲うように白い線が床や何も無い空間を走った!
「その四角い結界から外へは出れないから大人しくしているんだね」
だがピコハンはリトーを止めようと手を伸ばす。
しかしそこには見えない壁が在りピコハンはそこを全力で殴りつける!
「ちょっと大人しくして貰おうか!」
リトーがピコハンに向けて翳した左手を左へ素早く動かした!
するとまるでその方向が地面になったかのようにピコハンの体が横の壁に向かって落ちていく。
「死なない程度が難しいから死なないでね」
リトーのその言葉にピコハンは慌てて左側の何も無い空間に足を置いて真横へ飛び上がった!
すると押し付けられていた壁から竹槍の様な物が突き出してきた!
「あぁ、避けちゃだめでしょ!」
ピコハンは再び重力が元に戻ったのを確認して床と思われる場所へ着地した。
「一筋縄じゃいかないか・・・ならこれはどうかな?」
リトーがそう口にすると白い線の結界よりも外から物凄い速度で柱が突っ込んでくるのが見えた?!
ピコハンは焦らずそれを横へ大きく回避する。
だがリトーのいる場所へ反撃をしようと考えても白い線で出来た結界がピコハンの邪魔をする。
「くそっこれじゃあ・・・」
「いい加減諦めて大人しくなさい!」
再びリトーが腕を上へ振る!
するとピコハンの体が上へ落下して白い線の結界に背中をぶつける!
すぐさまピコハンは何も見えない白い線で出来た結界に足を付いて下へ向かって飛び上がる!
再び何も無い空間から竹槍の様な物が突き出してきてピコハンは困惑する・・・
リトーの攻撃は本当に理解に苦しむものなのだ。
白い結界に包まれた身動きが大きく取れない空間でピコハンは次々に襲い掛かる柱や竹槍に舌打ちしながら回避をし続ける。
「リトー!アリーは・・・俺の娘はお前にはやらない!」
「ふーん」
ピコハンの言葉にリトーは笑みを浮かべるのであった。
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