第54話 神隠しの秘密についての仮説
「えっ・・・」
「助かった人にそんな人は居なかった筈ですが・・・」
横で相変わらずメモを取りながら会話を聞いていたクリフが口を挟む。
驚きを隠せないピコハンはアイに対して声を大きくして述べる。
「な、何言ってるんだ?ルージュだよ!ルージュ!」
「えっと・・・ごめんなさい記憶に無いわ」
アイと共にユティカも頷く。
そんな筈は無い、この村を形にし始めたのはルージュなのに知らないはずが無いのだ。
「ピコハン・・・」
横でピコハンの肩に手を乗せるアンナはピコハンが視線を向けると小さく呟く・・・
その後の会話はピコハンの耳に届いていなかった。
ルージュと共に過ごしたあの夜の事を思い出しながらピコハンは混乱の渦に巻き込まれるのであった。
そして、それを見詰める一つの視線・・・
「・・・」
アリーである。
その目には輝きが宿っていたのだがその場に居る誰もが気付くことはなかった・・・
その夜、ピコハンは一人ベットの上で横になっていた。
天井を眺めながら寝付けないのに苛立ちを覚えながら手に力を込める。
それはあの3人を助けた時にカーラと呼ばれていた少女が忽然と消えていたのを思い出していたのだ。
アイからクルスとシリアは一人前になり結婚して町へ移住したと聞いていたのだがピコハンの耳には届いていなかった。
「ダンジョンに行けば・・・何か分かるかも・・・」
「奇遇だね、今誘おうと思ってたのさ」
突然部屋の窓から聞こえた声にピコハンは視線を向ける。
そこには月明かりに照らされたアリーの姿が在った。
「ピコハン、あんたに聞きたい・・・母さんの事を覚えているのか?!」
「母さん?」
「ルージュ・・・それが誰も彼もが忘れてしまった私達の母親の名前さ」
ピコハンは突然飛んできたそれを片手で受け止める。
それは小さな金属のお守りであった。
盾の形をしたお守りの裏側に『ルージュ』と彫られている。
「あんたは私達の母さんを覚えているんだな、教えてくれないか?母さんの事を・・・」
「君は本当に・・・」
そう、彼女アリーはルージュの娘であった。
そして、ピコハンは日中の感情の理由に気付いた。
あの夜の行いがアリーとクリフを誕生させたと言うことに・・・
つまり、彼女達は年上なのにピコハンの子供なのである。
「やっぱりダンジョンに母さんの消えた理由があるんですね」
部屋の入り口の方からも声がしてそこにクリフが立っている。
何時の間に部屋に入ったのか分からなかったがピコハンは自身の気持ちがいつの間にか落ち着いているのに気が付いた。
「もしかしたら、俺の妹もダンジョンで消えたかもしれないんだ・・・」
「そうなるとやはり僕の仮説が正しかったと実証されるかもしれませんね」
「仮説?」
「ピコハン、クリフはダンジョン研究家で様々な研究をしているんだけどその一つに誰にも信じて貰えなかった仮説が在るんだ」
「それは、ダンジョンが人の存在を喰らって生きているという仮説です。僕の研究によると他にも消えた人が居るのですがその人の事を誰も覚えていないのです。その事からダンジョンは人間の存在を喰らう、すると喰われた人間は他の人の記憶からも消えてしまう。だけどその人が残した物は消えないのです」
クリフが2年掛けて調べ上げた話を聞いてピコハンもこの村に居たクルスとシリアにはもう一人カーラと言う少女が居たと言う話をする。
その話を興味深そうに聞いたクリフは一人何かを呟きながら考えに集中する・・・
「あぁなると暫く何を言っても無駄だからほっといていいよ、それよりも母さんの話だ」
その夜、ピコハンはルージュの事を話した。
アリーにとって名前しか知らない母親の話を聞ける機会に心を躍らるのは仕方ないだろう。
そして、母親の形見とも言えるお守りをピコハンに投げ渡してそのままにしている事からも、彼女もピコハンが父親とは気付いていなくても何か特別な人間だと気付いているのは間違いなかった。
「とまぁルージュの事で知ってるのはこれくらいかな?」
「ううん、本当にありがとう・・・」
日中とは態度が一転しているアリーであったが嬉しさから涙を少し流しているその顔はまさしくルージュの生き写しであった。
普段は無表情に固定しているのは心の乱れがダンジョンでは命取りになる事も多いからそう鍛えられていたのだ。
それが本人も気付かないうちにピコハンの前でだけ解いていた。
クリフもそれに気付いているのだが敢えて何も言わない。
「それじゃ、ピコハンも元気そうだし・・・早速明日ダンジョンに行きましょ」
「アリー、また懲りずにアレに挑戦する気か?」
「だって聞いた話通りなら私と組めばきっと勝てるわ」
ピコハンは疑問に思う事が色々在るが深く突っ込みは入れずに明日ダンジョンに一緒に挑む約束だけ済ませその夜はお開きとなった。
いつの間にか落ち着いていたピコハンはその夜グッスリと眠り翌朝の目覚めで帰ってきた実感を感じるのであった・・・
「本当に今日行くの?もう少し休んでからの方が・・・」
「もう大丈夫さ、それに・・・」
ピコハンは視線を向けるとそこには、腕を組んで無表情でピコハンを村の入り口で待つアリーとクリフが居た。
アイも心配しているのだが昔のピコハンがそうだったのを思い出し何を言っても無駄だと悟り出発を見送る。
そんなアイとピコハンから少し離れた場所では鬼の所から救出されたが、帰る家が無くこの村に住み着くことに決めた女性達が居た。
彼女達はピコハンに体でも何でもいいから助けてもらった恩を返したいと朝から押しかけたのだがピコハンがダンジョンに潜ることを決めていたのでそれ以上口を出せないでいた。
勿論アンナもその中に居る。
「ピコハン!絶対に帰って来いよ!共有箱の前で私も待機しているから!」
鬼の所に置いてきた共有箱はもう使えないので別のダンジョンから出た共有箱をアリーから手渡されたピコハンは腰に付けたそれに視線を一瞬向けてアンナの方を見て手を上げる!
アイとユティカも共有箱の前で待つと言っていたので3交代で待機してくれることだろう。
むしろ他の女性達も協力してくれるからかなり楽になるのは間違いなかった。
「ほらピコハン行くよ!」
「あぁ、今行くよ」
ユティカから手渡された新しい剣を腰に付けたピコハンは小走りに村の入り口へ向かう。
アリーとクリフと共にダンジョンで待つクリフの言っていたアレとは一体何なのか、それが頭を過ぎるピコハンが近付くのを合図に2人もダンジョンへ向けて歩みだしたのであった。
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