第53話 生還した世界の現実

深い闇の中、ピコハンは仰向きに浮いていた。

自身の体が裸というのと真っ暗な中自身の体はハッキリと見えている事からこれが現実ではない事は明白である。


「俺は・・・死んだのか?」


口からではなく心から出たその声が闇の中に響く。

ピコハンは目を閉じても自分の姿が見えている事を確認して全身の力を抜いた。

浮遊すると言う体験は初めてであり余りにも開放的な脱力感に体が安らぐのを感じていたのだ。

動かそうとしても指一本動かせないのだからどうしようもないだろう。


「皆は無事だったのかな?」


それは鬼達の所から助け出した女性達の事である。

洞窟から出さえすればきっと何とかなってるだろうと楽観視するのもあれなのだがピコハンがあのダンジョンに潜っているというのは領主であるキャベリンが知っている。

しかもキャベリンの親戚であるアンナも一緒に助かった筈なのだ。


「きっと大丈夫」


そう言った自分の言葉に落ち着いて今しばらく浮遊感を堪能する・・・

すると全身の力が抜けて自身の呼吸や心拍音が耳に響くように感じた時にそれは鮮明に感じ取れた。

自身の心臓よりも少し下、その位置にとても暖かい何かが存在しているのである。


「これは・・・」


ピコハンは本能的にそれが何か分かった。

自分がダンジョン内で他の生物の命を奪った時に自身に取り込まれる光の粒子の力である。

それはとても力強く・・・そして暖かい・・・

その中にとても懐かしい感覚が感じ取れるのに気が付いた。


とても愛しい・・・


その感覚を包み込むように自分の内側に少し力を入れたところでピコハンの体は闇に飲まれて消えていくのであった・・・






「う・・・うぅぅううう・・・」

「ピコハン?!誰か!誰かピコハンが目を覚ましたわよ!」


目を開いて視線を向けるとそこに座っていた一人の女性が立ち上がり声を上げる。

アンナだ。

ピコハンは体をゆっくりと起こしてダルい感覚の中無理やり体を動かす。

あれほど痛かった全身の傷はすっかり癒えており自分がどれくらい眠っていたのか気になったピコハンはアンナに尋ねる。


「ダンジョンから脱出してから今日で3日目だよ、お帰りピコハン」


入り口から声が聞こえ視線を向けるととても綺麗なお姉さんが居た。

誰だろう・・・見覚えはあるのだが誰か分からないその人物に目を向けながら首を傾げるとそのお姉さんはベットの上に座っているピコハンに抱き付いてきた。

年齢は20歳位だろうか?とても美人だ・・・それがピコハンの第一印象だ。

ふくよかな胸に顔を埋められるが、両手が優しく包み込むように自分を抱きしめたので苦しくは無かった。


「本当に・・・無事で良かった」


その泣きながら漏らした声を聞いて自分を良く知る人物であると分かったのだがピコハンにはその女性が誰なのか全く分からない。

その困惑した様子に戸惑っていると両肩を捕まれて正面から見つめられる。

目と目を合わせて見詰め合った時にピコハンはやっとそのお姉さんが誰なのか気付いたのだが・・・


「えっ?まさか?いや、でもそんな・・・」

「私が分かった?」

「多分・・・でも・・・そんな筈無いよな・・・」


ピコハンは目を見て確信を得ていたがそれはありえない、だがピコハンの反応からお姉さんの方もピコハンが気付いてくれたと理解していた。


「とりあえず立てる?」

「あぁ、問題ないと思う」


アンナも本来なら暫く安静にさせたいと思うのだが戻ってからピコハンの体が異常な速度で回復していたのを見ていたので黙ってそれを見守る。

ベットから起きて立ち上がり、真っ直ぐ歩けるのを確認してピコハンはその建物から外へ出た。


「そんな・・・嘘だろ・・・」

「ピコハンが想像した通りなんだよ」


正面にはピコハン達が一緒に暮らしていたあの家が建っており、それがここはピコハンの村だという証明となった。

だが問題なのはそれ以外の場所で在る。

ピコハンの家以外は道も石畳が敷かれしっかりした道となり凄い人の量と賑わいに驚きを隠せなかった。

そんな光景に唖然としているピコハンに後ろから誰かが抱きつく!


「村長!お帰りなさい!」


その声を聞いて直ぐにそれが誰か分かった。

だが振り返った時にその人物を見てピコハンは再び驚愕する。

そこに立っていたのは30台半ばの女性であった。


「ど・・・どうなってるんだ?」


ピコハンのその言葉に建物からピコハンと共に出てきたアンナが声を掛ける。


「ピコハン・・・落ち着いて聞いて欲しいんだ。多分、もう分かってると思うけど・・・」


ピコハンは驚きに満ちた顔をしたままアンナを見詰める。

自分が想像している事実が余りにも異常な事は分かっている、だがそれを認めたくないのだ。


「ここはあんたの村で、私達は15年過去から移動してきたみたいなの・・・」


その言葉でピコハンは自分の考えが正しかったのだと理解した。

抱きしめてくれたお姉さんはアイで、今正面に居る女性がユティカなのだ。


「う・・・そ・・・だ・・・ろ・・・」























ピコハンは自宅に戻り3人から詳しい話を聞いた。

ダンジョンから脱出に成功した女性達は入り口を警備していた人物に救助された。

領主であるキャベリンの指示で15年間ずっと警備の兵士を立たせていたというのだ。

事実、入って消えた人が帰ってこないダンジョンなんて危険すぎて開放する訳にもいかないからだ。

そして、キャベリンと再開したアンナはキャベリンが老けて居る事に・・・

キャベリンはアンナが消えたあの頃と変わっていない事に驚き互いの情報を交換し合った。

その後、ピコハンの町と現在は呼ばれているピコハンが作った村に運び込まれたピコハンの所でずっと看病をしていたというのだ。


「失礼します。お目覚めになられたと言う話を聞きまして・・・」


3人がピコハンに今までの話をしていた時に玄関から入ってくる男女2名が居た。

ノックもせずに入りそれをアイとユティカが当たり前の様に振舞っているのを見て親しい人物なのだとピコハンは理解した。

一人は青髪の青年でもう一人は金髪の女性だ。

年は10歳のピコハンよりも少し上である、その2人はとても似ていた。


「初めましてピコハンさん、僕はクリフといいます。こっちは双子のアリー」

「初めまして、お会いできて光栄です」


クリフは手にしていた紙の様な物とペンを手にして何かを記載する準備をした。

アリーは腕を組みながら鋭い視線をピコハンへ向ける。


「あ、あぁ宜しく・・・クリフとアリーね」

「それでは早速ですが僕の仮説を述べさせてもらいますね」


そう言ってクリフはピコハンにアンナから聞いた話を元に立てた仮説を述べ始めた。


「共有箱に梯子を入れたのは15年前、そして皆さんが戻ってきたのが先日と言う事からあちらから戻ってくる時にだけ時間が飛ぶ仕掛けだったのではないかと思います。」

「凄いでしょ?クリフはねこの村の出身で、世界にダンジョン研究者と言う名で様々な発見をしているのよ」


ユティカが自慢気にそう告げる。

その言葉にちょっと照れているクリフ。


「そんな事よりピコハンさん、私貴方と戦ってその強さを知りたいのですが・・・」

「アリー、まだピコハンは起きたばかりなんだから・・・ごめんねピコハン、アリーもこの村の出身でこう見えて世界的に有名なダンジョン探求者なの」


今度はアイの言葉に少し照れるアリー。

やはり双子は似るのか?

そう考えたピコハンだったがアリーと手合わせする気は全く無かった。

何故だか分からないがアリーに手を上げるのを本能的に拒絶したのだ。


「むぅ・・・なら今度一緒にダンジョンに潜って下さい」

「まぁ・・・それならいいよ」


と何故かピコハンに対して対抗意識を燃やすアリー。

その後、ピコハンが居ない15年の間に起こった事をその後ゆっくりと聞くのであった。

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