第48話 鬼の親玉?酒呑童子現われる

「みんな!逃げるわよ!」


ピコハンが助けた女性が声を上げると数名の女の人が立ち上がり驚きの目を向けてくる。

それはそうだろう、その声を掛けているのが数ヶ月前に連れて行かれた女性で鬼にしか動かせない入り口のドアを押し開けていたのが少年である。


「あんた・・・生きてたんだね」

「色々と汚されちゃったけどね・・・」


少し遠い目をする女性だったが、命があっただけ良かったと割り切っており直ぐに表情を変えて今はここから生きて出るだけを考える事にしたようであった。


「立てない人はいる?」

「何人か・・・でも余裕のある人は肩を貸してあげて」


閉じ込められていた中に居た一人が場を仕切って指示を出す。

立ちあがれない人が居ても仕方ないだろう、この部屋は薄暗く歩き回れる程スペースに余裕がないのは直ぐに見て取れた。

唯一トイレだけは別に用意されていたのが救いであろう、ここに閉じ込められている女性達は鬼に子を宿す為に捕らえられているのだから。


「それじゃ彼に遅れないように行くわよ」


そう言ってその部屋に閉じ込められていた総勢40人ほどの女性は一人残らずピコハンの先導の後を助け合いながら付いて行く。

途中何人か赤鬼が気絶している光景に驚きながら彼女達は短いものでも数日、長い者で半年近く振りに外に出る事が出来た。

だがそこで悲劇は起こってしまう。


「おっとしまった。止めるつもりが力が強すぎたか」


階段を上がり外の光に包まれて安心した女性達のど真ん中に一匹の鬼が飛び込んできたのだ。


「ひ・・・いやあああああああ!!!」


あちこちで悲鳴が上がる、それは仕方ないであろう。

その鬼の体長は実に3メートルはあり青い肌をしたその手には着地と同時に近くに居た女性を数名掴んで居たのだ。

だがその掴んだ時の衝撃が強すぎたのであろう、握られた女性達は体の骨を砕かれ口などの穴から出血をしながら死んでいたのだ。

一瞬で8人が死んだ。

ピコハンが反応できなかったのは仕方ないだろう。


「な・・・が・・・」


先頭を進んでいたピコハンも既に別の青鬼に握られていたのだ。

メキメキとピコハンを握り締めた拳に力を入れる青鬼、誰もが絶望し生きる事を諦めた。

ピコハン以外は!


「ぐがぁああ!この糞人間?!」


ピコハン、握り締められていた拳の指に噛み付き肉を噛み千切ったのだ!

青鬼は骨近くまで引きちぎられた人差し指の痛みでその手が弛んだ!


ボキンッ!

「が・・・があああああああああああああああ!!!」


ピコハンは手の力が弛んだ一瞬を狙って青鬼の肉を噛み千切った人差し指を掴み逆方向へへし折ったのだ!

そして、痛みで屈みこんだその青鬼の顔面に手を踏みつけて飛び込み眉間に強烈なパンチを叩き込む!

空中と言う足場の固定されてない状態でのパンチであったがピコハンの脚力で飛び上がった力も加算され、その一撃で青鬼は天を仰ぐように仰け反る!

握り締められた一瞬でピコハンは悟ったのだ。


(殺らなければ殺られる!)


ピコハンの肉体は黒鬼を殺した時に強化されている、もしもそれが無ければあのまま握り潰されて即死していただろう、それを理解しているだけに目の前の青鬼に止めを刺すのは躊躇わなかった。

人間も鬼も同じく頭部に脳が在り胸に心臓が在りと同じであった。

それを知ってか知らずかピコハンは仰け反った青鬼の首に手に持ったクナイを投げつけた!

中心ではなく右側にワザとずらされたそのクナイは首の骨をかわし見事動脈を傷つけた!


「ぐが・・・ががが・・・」


周囲に動脈から飛び散る青鬼の噴水の様な出血。

その血を何人か浴びて悲鳴を上げそうになるが一人の女性の「今よ!逃げるわよ!」と言う叫びに我に返り駆け出す。

だが女達の中央に立っていたもう一人の青鬼はそれを阻止しようと腰を屈める・・・

そして次の瞬間にはその姿が消えて走り出した女達の前に回りこんでいた。

縮地と呼ばれる移動技で巨体にも関わらず目にも止まらぬ速度で移動が可能な技である。

だが、目に見えないのは移動の最中だけであり開始と修了には勿論慣性の法則を無視する為の隙が存在する。

そして、なによりその移動方法をピコハンは見ていたのだ。


「ば・・・か・・・な・・・」


ピコハンの力は一人目の青鬼を殺した時に更に光の粒子が勝手に飛び込み上がっていた。

そのとんでもない脚力で目にした縮地の移動方法を真似したのだ。

当然基礎を学んだわけではなく見よう見真似であったので移動の開始にスマートさは無いし止まる方法すらも検討が付かなかった。

それもありピコハンは青鬼の横腹を腕で削り取り数メートル先に着地していたのだ。

偶然にも青鬼のあばら骨の下を通過したのも幸運だったといえるだろう、骨に腕がそんな速度で当たっていたらいくらピコハンでも大怪我を負っていたかもしれないのだ。


削り取られ大量の出血と共に内臓が青鬼の腹から毀れる、口から血を吐きながら青鬼はゆっくりと横倒しに倒れる・・・

死者が出てしまったのだがそれでもピコハンは襲い掛かってきた青鬼2匹を撃退したのである!

しかし・・・


「皆、このまま真っ直ぐ進んだら洞窟が在る!そこの中に天井に水溜りが在る場所があるからそこまで先に行っててくれ!」


ピコハンがそう話をして一緒に来てくれないのかと心細くなった女達であったがピコハンの視線が全然別の方向を見ていたのに気付いた一人の女性。

彼女が捕らえられていた同じ境遇の人たちを励ましていたキャベリンから頼まれたアンナであった。

だがお互いに名乗りをした訳でもなくアンナはピコハンの目を見て頷き皆を誘導する・・・


「先に行ってます。絶対に後から来て下さいね」

「うん、皆を頼むよ」


アンナとピコハンが助けた女性の誘導で助かった30人程が先へと進む。

その姿をチラリと確認し充分に離れたと理解したピコハンは口を開く。


「居るんでしょ、出てきて下さい」

「ほぅ・・・お前人間にしてはとんでもないな・・・」


そして、赤鬼が使ってたであろう姿を消す技の様な物を解除してそいつは姿を現わした。

青鬼に比べれば身長は1メートル後半くらいで着ている物も人間と殆ど変わらず、頭の角を髪の毛で隠されれば人間と間違ってもおかしくなかったであろう。

だがそいつがとんでもなく強いという事実だけはピコハンは感じ取っていた。


「全員が逃げるのを止めない理由は何ですか?」

「俺は女よりもお前に興味がある、俺の名前は『酒呑童子』だ。お前の名前が聞きたい」

「ピコハンだ。」


互いに名乗り合い向かい合う二人。

周囲の空気がこれから始まる戦いを感じ取ったのかピリピリとし出す。

それを嬉しそうに酒呑童子は表情に表し右手をピコハンの方へ向ける。


「頼むから楽しませてくれよ」


そして、次の瞬間ピコハンは吹き飛ばされ近くの岩にその体を減り込ませているのであった。

手で相手の視界から自身の体の部位の動きを消して動きを読めなくさせる、そしてピコハンが反応できない速度でしゃがみ込むと同時に足払いを行い、払われて空中に浮いた胴体に突き出した手とは逆の左手による張り手が叩き込まれピコハンは目にも止まらぬ速度で岩に叩き付けられたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る