第49話 圧倒的酒呑童子の強さ

「いつつ・・・」


ピコハンが岩から減り込んだ体を引き剥がそうと力を込めた瞬間、酒呑童子がこちらに飛んでくるのが見えた!

岩から両腕だけ引き剥がし目の前でクロスしてその攻撃を防ごうと防御するが・・・


「ぐえ・・・」


酒呑童子は空中で殴りかかろうとしていた姿勢から顔面を防御したピコハンを見て体勢を変えて空中で飛び蹴りに変化させそのままピコハンに突っ込んだ!

腹部に突き刺さる蹴りの威力でピコハンの腹部は岩に更に減り込み巨大なクレーターを作りながら岩にひび割れを起こさせる!

腹部に強烈な打撃を受けたピコハン、あまりの痛みに顔面を覆っていた両腕の力が抜ける・・・


「終わりだ」


腕の隙間を抜けて酒呑童子の拳がピコハンの顎を殴り上げた!

ボクシングで言うところのアッパーカットである。

当然頭部は減り込んでいる岩に更に叩き付けられその衝撃でピコハンの体は岩から剥がれ落ち目の前に倒れる。

それを見下ろしながら酒呑童子はピコハンの頭部を鷲掴みにして持ち上げる・・・


「嬉しいぜ、こんな頑丈な生き物を相手に出来るなんてな」


ピコハンの両腕はダラリと下がり口を開けたまま意識が朦朧としている、だが生きているのだ。

酒呑童子はその手を離す。

地に着いている足に力が入らずそのまま酒呑童子の方へ倒れこむピコハンの顔面に酒呑童子の拳が炸裂し再び後方の岩にピコハンが激突する!

その衝撃でクレーターが出来ていた岩は砕けピコハンは岩の向こう側へ転がり倒れる。

起き上がれない様子から一目で瀕死なのは見て取れた。

意識はかろうじで残っているのか何かを言おうと口を小さく動かしているが言葉にならない・・・


「まだ生きてる・・・嬉しいなオイ!」


酒呑童子はゆっくりと嬉しそうな笑みを浮かべ歩いて近寄る。

明らかな力の差がそこには在った。

ピコハン自体も今までダンジョンで倒した魔物の力を吸収し、ここでも何人かの鬼を殺してその力を得ていたがそれを加味しても酒呑童子には足元にも及ばないのだ。


「ほら、立てよ」


痙攣する体に鞭打ちピコハンは必死に立ち上がろうとする・・・

既に内臓は損傷し顎は砕かれて口が閉まらなくなっているのだ。

それでもピコハンは徐々に回復をしている自身の体に気付いていた。

そう、土の加護である。

地面に触れている事で自身の体を徐々にでは在るが回復させるその効果のお陰でなんとか即死を免れた状態から回復し始めていたのだ。

だが、目の前に居る鬼の親玉と思われる強すぎる酒呑童子相手にどうする事も出来ていないのが現状。

言葉を交わそうにも顎が砕け口の中は血まみれで何もまともに喋れない。


「くくくく・・・お前最高だよ」


なんとか立ち上がったピコハンを見て凶悪な笑みが更に酷くなり握り締めている拳に力が入っているのだろう、酒呑童子の右腕が見る見る膨張して行く・・・

まさに力を溜めている様子にピコハンは全身が震えるのを押さえきれない・・・

いままで戦ったどんな魔物よりも強い目の前の酒呑童子に本能が恐怖しているのだ。


「だが、これで終わりだ!」


明らかに二回りは大きく太くなり血管の浮き上がる右腕がピコハンに向けて振るわれる!

だが酒呑童子にも一つだけ誤算が在った。

今まで酒呑童子は自身よりも小さい強者と戦った経験が殆ど無かったのだ。

同族の鬼は全て自分よりも大きく食料として狩りに出た場合は大きな獲物を取るのが基本となる鬼。

その為、小さな相手に攻撃を行なう事というのが殆ど経験なかった。

酒呑童子の身長は190台、それに比べピコハンは140程度。

見た目通りの子供であるピコハンはとてつもなく強いがそれでも成長途中の子供であった。

自身に迫る酒呑童子の右拳を見ながら全身の力を抜いたピコハン。

両腕を顔の前で十字にクロスしてその拳を受けた!


ボキッ!


ピコハンの両腕は一瞬で骨が折れ真後ろへ吹っ飛ぶ!

だがその目は生きていた。

地面を何度もバウンドし転がりその勢いを利用して地に足を付いて立った姿勢で体を止めたピコハン。

ダラリと下げられた両腕は折れ、間接が変な方向に曲がっていた。

腹部は内出血で染まり顎は砕かれ口から止まらない血、それでもピコハンは生き残ったのだ。


「クククク・・・まだやらせてくれるのか」


嬉しそうに凶悪な顔を再び見せる酒呑童子はピコハンに近寄ろうと足を一歩踏み出した。

だが・・・


「なっ?!」


そのまま前のめりに酒呑童子は倒れた。

自身の足に力が入らず地に手を着いているのだ。

それはピコハンの根性が残した一撃の反撃。

両腕を破壊されながら後ろに吹き飛ばされるその衝撃で跳ね上がったピコハンの足は酒呑童子の顎先を僅かに蹴り上げていたのだ。

下からの顎への打撃、ほんの僅かな一撃であったが偶然にも掠る様に当たったその一撃は酒呑童子の脳を揺らした。

自身よりも小さい相手と戦った事のなかった酒呑童子の一撃は通常なら相手の腹部へ叩き込む一撃である、それが顔面に当たった事でピコハンは衝撃を後ろに逃がす事が出来た。

その代償は両腕と言うとんでもない一撃であったがそれでも即死は免れたのだ。

そして、狙っていたのかどうかは分からないがピコハンの反撃は確実に酒呑童子に一撃を決めた!


「おもしれぇ・・・お前最高だ・・・?!」


両手を着いて顔を上げて立ち上がれない足に視線をやった酒呑童子はピコハンを見たが既にそこにピコハンは居なかった。

酒呑童子が倒れたのを確認して直ぐに走って逃げていたのだ。

少しの間、酒呑童子はピコハンからの反撃が死角から来ると警戒していたがそれも来ず全身から溢れる怒りは徐々に大きくなる。


「まさか・・・逃げやがったのか?!」


それに気付いた時既にピコハンは視界に入らないくらい遠くまで走って逃げていた。

口から垂れる血を何度も飲み込み地面に痕跡を残さないように注意しながら折れた両腕から1歩毎に襲ってくる激痛に耐えピコハンは走り続ける。


「くっそがぁああああああああああああああああ!!!!」


四つん這いの姿勢で地面を殴りつける酒呑童子!

その一撃は地面に巨大なクレーターを作り出していた。

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