第42話 ダンジョンの外の最後のトラップ

「そうか・・・二人は人捨てで・・・」


鉄骨を戻り岩肌の通路にまで戻って来たピコハン達はそこでいったん腰を置いて会話をする事にした。

このダンジョンは入る度に中身が変わる、その為中でピコハンに出会えたのはまさに奇跡の様な確率であった。

土の女神が早く戻れと言ったのはこの子達を助けろという事だったのかとピコハンは一人納得しながら人捨てに合った二人の少女と手を繋ぐ少年に視線をやる。


「カーラとシリアを死なせるわけにはいかないからな、俺は自分から村を出てきた」


クルスと名乗った少年は二人の少女の兄の様な存在であった。

その姿にピコハンは心が痛む・・・

自分にも妹が居る筈なのに自分は何も妹にしてやれない・・・

しかも妹の顔や名前すらも既に思い出せないのだ。


「・・・さん?ピコハンさん?」

「んっあぁごめん、ボーとしてた」

「そんなんで冒険者として大丈夫なのかよ」


クルスが突っ込みを入れるがそんな自分よりも年下の男の子にピコハンは優しい視線を送る。

年齢的にも数年しか違わないが既にピコハンのここ数ヶ月の生活は一変し子供とは思えない思考をしていた。

そんなピコハンがクルスを見て自分も数ヶ月前はこうだったのだろうと考えているのだ。

妹の為なら自分の身を省みず全てを捨てて助けに行く。

クルスはきっと二人を助けたいだろう、なら自分も協力してやろう。

そう考えていたピコハンは話を切り出す。


「二人・・・えっとカーラとシリアだったよね?もし良かったら俺の村に来ないか?」

「「俺の・・・村?」」


二人は少女だが人捨ての事は理解しているのだろう。

会話の中で「もう帰れないし」と言う単語が出ていたのをピコハンは見逃さなかった。


「あぁ、俺も以前人捨てで村からこのダンジョンに捨てられてね・・・」


それからピコハンはこの数ヶ月の話をした。

クルスは半信半疑で聞いていたがカーラとシリアはまるで昔話を聞いているようにワクワクしながらピコハンの武勇伝を聞いた。

でも流石に魔物を一人で倒して攻略しているという話は本気にはしていない様子ではあったが・・・


「それでここの一番奥で女神様に会って来た帰りなんだ」

「女神様・・・私達も会えるかな?」

「う~ん・・・多分奥まで行けないよ、俺でも死に掛けたから」

「はんっホラ吹き話もここまで上手く出来てれば大したもんだよ」


クルスは一人ピコハンの話を全面否定する。

それも仕方ないだろう、本来人間が魔物を倒すには武器を持った数十人で魔物を取り囲んで一斉に攻撃をして狩りを行なえば勝てない事は無いと言うのが世の中の常識だ。

何処の世界にたった一人で魔物を相手取ってダンジョンを攻略できる子供が居るというのだ。


「ははっまぁ村には孤児院も建ったから住むには困らないよ」

「ま・・・まぁ行ってやらないこともないけど・・・本当に村に入れるのか?」

「それは大丈夫、俺村長だから」


流石にこの台詞には少女二人も疑いの目を向けていたが4人は休憩を終えてダンジョンの外を目指して再び歩き始める。

外からここまでは一本道、特に魔物も現われずそのまま実に数日振りの日の光に目を細めながらピコハンは今回も生きて出れた事を内心喜ぶ。

そんな4人の前に男女が立っていた。


「お、お父さん・・・お母さん・・・」


シリアが驚いた目をして目の前の二人に声を掛ける。


「おおっシリア・・・生きていたのか」


二人は両手を開いて走り寄るシリアを抱きとめようと待つ。

ダンジョンの外でやはり子供を諦めきれず両親が待っていたのか、そう考えたピコハンだったがクルスの驚く表情が気になりピコハンは咄嗟に走るシーラに走って近付き両親の元へ向かおうとするシリアを止める。


「離して、離してピコハンさん!お父さんとお母さんが・・・」


ピコハンを睨みながら叫ぶシリア、だがピコハンはシリアのこの叫びに全く反応を示さない二人に疑惑の目を向ける。


(何故二人共声を発しない?)


人捨てで捨てた娘がやっぱり忘れられずダンジョンの前まで戻って来ていたと考えればおかしくはないが、その娘が生きて出てきたのにも関わらず一切言葉を発しない。

更にシリアを守ると宣言していた筈のクルスが一切動かず固まっているのにも違和感があった。


「はなして!!」


シリアがピコハンの手に噛み付く。

力強く噛み付かれたがピコハンの手はそれくらいではびくともせず歯型が付いてしまったくらいでしかなかった。

そんなシリアを一切見ないでピコハンはその男女を睨みつける。

両親の姿をしている二人はあれ以降全く動かずに両腕を開いたまま待っていた。

ピコハンの中の本能が危険信号を発する。

まるで地面の中を何かが移動しているのを感知したようにピコハンは足元に違和感を感じシリアを抱えて後ろへ飛んだ!

ピコハンに宿った土の加護の力であった。

すると丁度二人が立っていた場所に木の根が突き出した!


「そういう・・・ことかよ!」


ピコハンはシリアを抱えたままクルスの元へ移動して立ち呆けているクルスにシリアを押し付ける。


「おい!クルス!おい!!」

「えっ・・・あっあぁピコハンさん・・・」

「大丈夫か?」

「あっうん・・・目の前に死んだ筈の俺の両親が・・・」


そこまで聞いてピコハンは理解した。

シリアの手をクルスが握ったのを確認してピコハンは再び二人の男女の方を見る。

その間に木の根が突き出し揺れ動いている・・・

その木の根へ向けてピコハンは真っ直ぐに歩いて近付いた。

そして射程に入ったのであろう、木の根は鞭のように撓りピコハン目掛けて襲い掛かる!


「遅いっ!」


その木の根をまるで軌道が分かっている様に避けたピコハンはその根の先を掴み握り潰す!

更に生えている方へ次々と握る手を変えて近付きながら根を握り潰していく・・・

とんでもない握力に見えたのだろう、クルスがその様子を驚きに満ちた目で見つめていた。

そして、生えている根元まで来たピコハンは握り潰した部分を使って逆に鞭のように未だ両手を広げたまま固まっている男女へ向けて振る!


「ぼきゃっ!」


そんな音と共に木の根は二人にぶつかりその体を押し潰した。


「いやぁああああ!!!」


シリアが叫び声を上げるが直ぐにそれは納まった。

押し潰された男女の体はまるで中身の無い風船の様な物だったのだ。

中の空気が抜けた様に萎んだその体があった場所の下には小さな花が咲いていた。

ピコハンはそこへ向けて再び木の根を振ってぶつける!

するとその花は木の根をぶつけられた瞬間巨大化して人間と同じくらいのサイズとなった。


「はっこれが最後のトラップってわけかよ!」


そう、今回のダンジョンは鉄骨の部分に到達するまで魔物も罠も何も無かった。

逆に言えばダンジョンに入った者があそこで引き返すパターンがありえる訳だ。

そして、それを狩り取っていたのが目の前の花の魔物なのだろう。

人間サイズになった花、トレントと言う木の姿をした魔物の亜種と思われる。


「今回は収穫が余り無かったからお前の素材貰うぜ!」


ピコハンはその花に向けて駆け出した!

その動きは早すぎたのだろう。

花は地面から根を突き出してピコハンを串刺しにしようとしたのだろうが既にピコハンは花の根元に到達していた。

そして、足払いの様にしゃがんで地面から生えてる部分を蹴った!

ピコハンの蹴りの威力が高過ぎてそれ一撃で花は根元から切断されその場に倒れる。

すると地面から突き出していた木の根が次々に萎れて枯れていく・・・


この魔物の正体はダンジョンから出てくる人間を食料とする花の魔物。

本体である花から樹液で人型の物を作り出し出口に蒔いていた花粉で幻覚を見せる。

そして、外に出たと安堵した所を食料として得ていた魔物であった。

勿論ダンジョンの魔物で根はダンジョン内に繋がっている、ダンジョン内の魔物は基本的に外に出ると生きる事が出来ない。

それでこの魔物は切断され枯れてしまったのだろう。


後に残った花の部分をピコハンは共有箱を展開し中へ入れていく・・・

特に苦戦する事も無かったピコハンは再び外の空気を満喫し後ろを振り向く・・・


「あれ?」


そして、気付いた。

カーラと呼ばれていた少女がいつの間にか居なくなっていたのを・・・

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