第41話 二人目の女神

停車した車内に残る猫の死体を共有箱に入れてピコハンは車両を降りる。

そこは日本人ならばプラネタリウムを想像するのは間違いない星空が一面に広がる空間であった。

そして、目の前にドアが一つ在る。


「多分、これがダンジョンの核なんだよな・・・」


ピコハンは周囲に警戒しながら真っ暗な地面を進みドアノブに手を伸ばす。

ここはダンジョン、何が起こるか分からないので周囲に警戒は行ないながらノブを捻りドアを開く。


「おっ君が  の言ってた人間だね」


そこには人形が椅子に座って話しかけていた。

フランス人形と言えば誰もが想像するアレと同じ姿で椅子の上に足を伸ばしたまま座りこちらを真っ黒の瞳で見詰めている。

ピコハンは前回同様中に入れば危険は無いだろうと考えその中へ足を踏み入れる。


「流石に二回目になると胆が据わってるのかな?」


堂々と進むピコハンの様子に手拍子をしながら人形は話す。

その時ピコハンの肩に手が置かれた。


「っ?!」


何の気配も感じず肩に手を置かれた瞬間まで気付かなかったその存在に驚きながらもピコハンは無駄な抵抗はしない。

その人形の強さを瞬時に理解したからだ。

今もしもこの肩に置かれた手を払いのけようとしても自分の手のほうが怪我をするのに気付いたのだ。


「なるほど、見事だね。名乗るのが遅れたね、僕は  だよ」


前回の女神同様名前を名乗ったのだろうがそれは音になっておらずピコハンの耳には届かなかった。

それよりもその声がピコハンには前に居る人形か、肩に手を置いている人形のどちらから放たれているのか理解できない事に驚いていた。

そして、察する・・・

この神はこの人形達を操る神なんだろうと。


「僕はピコハン、前に会った女神さんに言われてここまで来たんですけど・・・」

「あぁ話は聞いているよ。今回は怪我を特にしてないみたいだね、いや~たいしたもんだ」


その言葉にピコハン自身も良く自分が無事だったものだと理解した。

ただ前回の成長が無ければ間違い無くここまで到達は出来なかったのが分かっているだけに運がかなりの量を占めているのは理解している。

ヘタすれば死んでいたと思われる事も多かったからだ。


「まぁそんなに硬くならなくてもいいよ少し話でもしようじゃないか」


その言葉と共に周囲の空間が一瞬で大広間と言った感じの部屋に変化した。

そして、先程人形が座っていた椅子が半回転しその前にテーブルが用意されているのに気付いた。


「とりあえず紅茶でも飲みながら君の話を聞かせてくれないかな?」


再びピコハンは驚く。

周囲に数十人もの執事服やメイド服を着た人形達が整列し頭を下げている。

そして、テーブルの正面に一人の女性が座っているのに気が付いた。


「あなたがここの女神様ですか?」

「あぁ、そっかやっぱり君には僕らの真名は伝わらないんだね」


真名、それはその者を表す本当の名前・・・

特に高位の者の真名は近い存在の力を持つ者でなければそれを聞くことすら出来ないのだ。


「それじゃ失礼します」


ピコハンは用意された席に着席する。

そして、晩餐が始まった。

用意された食事はピコハンが今まで食べた事も無いような美しく美味しい物ばかりで一口食べる毎にピコハンの体の疲労が取れて肉体が強化されるのを感じていた。


「ははっそんなに焦らなくても沢山あるからゆっくり噛んで食べるといいよ」


その言葉に少し落ち着いたピコハンを見て女神は口を開く。


「それじゃ君について質問だ。君には前世の記憶があったりするかい?」

「前世?」

「あぁ悪い、なんでもないよ」


色々と女神は話を聞きたい様子であったのに、それ以降特に質問をされる事は無く晩餐は終了した。

満腹になったピコハンに女神は手を翳しその手から茶色の光がピコハンの中へ入っていく。


「うん、君は多分違うと思うけど可能性は0じゃないからね。これは私からの土の加護だ」

「あ、ありがとうございます」


ピコハンは頭を下げる。

そんなピコハンの体をそっと手で押して女神は扉の外へ押し出す。

軽く押されただけなのにピコハンの体はまるで吹き飛ばされたように地面を滑り真後ろへ水平移動する。


「えっ?」

「もう行くといい、でないと間に合わなくなるかもしれないからね」

「間に合わなくなる?」


ピコハンは首を傾げるが女神がそう言うのであれば何か理由があるのだろうと理化し、女神に一礼して停車している車両の中へ飛び込む。


「可能性は0じゃない、だけど・・・ううん、これ以上は僕が気にしても仕方ないからね」


自身を私ではなく僕と呼んだ女神は空間を繋ぐ扉をその手で閉める。

ピコハンは気付いていなかった。

会話をして土の加護を与えてくれたその女神すらも人形の体だった事に・・・







「本当、何にもないんだな・・・」


車両内を順に通っているピコハンだが、やはりあの猫を倒した事で中の異常な現象は完全に消失していた。

そして、壊れた車両内の傍らに落ちている物を適当に拾って量が溜まったら共有箱に入れて再度進む。

金属片や見た事もない生地の様な物などそれなりの量を回収しながらピコハンは最後尾車両にまで戻り天井のダンジョン内に繋がっていた縦穴を登って洞穴の様な場所に戻る。

そして、通路を進み天井の鉄骨の重力に引き上げられ鉄骨の下に逆さまに立って歩いている時にそれは聞こえた。


「キャー!!!」

「なんなんだこいつらは?!」


子供数名の声であった。

ピコハンは駆け出す。

そして、目の前に5本の鉄骨を走る板の様なそいつが再び現われるのだが腹部の刃は鉄骨の上へ出しているようでピコハン側からは攻撃し放題であった。


「しかもこんなに弱かったっけ?」


蹴り一発でバラバラに破壊され飛ぶそいつらを次々と破壊し数分後襲撃は落ち着いた。

そして、後ろの壁の近くまで戻り鉄骨を横に飛ぶとピコハンの体は鉄骨を中心に周り鉄骨の上に立つ。

そこには幼い少女2人を守ろうと一人立っている少年がピコハンを睨みつけていた。


「お、お前はなんだ?!」


今にも泣き出しそうな少年であったが彼はその身を呈してあのピコハンが破壊したやつらから後ろの少女二人を守っていたのだ。

その勇気に微笑みながらピコハンは声に出す。


「もう大丈夫だよ」


少女二人はピコハンの声に顔を上げる。

そして、ピコハンは脳裏に妹の事が過ぎるのだがそれを振り払って少女達に怪我が無いのを確認する。


「怪我とかはしてないみたいだね」

「だからお前は誰なんだ?!」


目の前の少年が吼える、それはそうだろうピコハンは忘れがちだがまだ10歳である。

少年が見た目小学校低学年程度に見えるのでピコハンの目にも7歳か8歳くらいと予測していた。


「俺はこのダンジョンを攻略しているピコハンって言う冒険者さ」

「冒険者・・・人間なんだよな?」

「こんな普通の耳した獣人は居ないと思うけど・・・」


そんな当たり前の事を話すピコハンの様子に少女の一人がクスッと笑いを漏らす。

それを切欠に少年も名乗るのであった。


「お、俺はクルスって言うんだ。二人はカーラとシリア、俺の友達さ」

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