第40話 全ての元凶

接近戦に持ち込まなければ一方的に攻撃を受けるのは目に見えている。

だがピコハンは後方へ飛んだ。

あのまま前へ進んでいたら間違い無くピコハンは既に死んでいただろう・・・

事実、白いスーツの男の目の空間は目に見えない何かが通過していたのだ。

それが地面に辺り床が削れるのを見たのだ。

それでピコハンは気付いた。


「相手は一人じゃないって訳か」


先程から見えない攻撃を遠距離から受けていたピコハン。

そのダメージを受けた部位に何も残っておらず何をされているのか分からないが確実に痛みが走るのは確かである。

気配も殺気も無く見えない遠距離攻撃が飛んでくる中、目の前の白いスーツを着た仮面の男を相手にしなければならない。

はっきり行って状況は悪すぎた。


「なんだ?」


そこで思考を巡らせているピコハンは白いスーツの男が動かないのに違和感を感じる。

ピコハンが距離を取ってからまるでピコハンを見失ったかのように構えたままジリジリと周囲を警戒しているのだ。

更に先程までの遠距離攻撃が来ない事にも気付いた。

悪手だと思われた距離を取るという行為が予想外の副産物を生み出したのだ。


「試すしか・・・ないよな!」


ピコハンは女王蟻の剣を構えて仮面の男へ向けて突っ込む!

まるで仁侠映画のヤクザが刃物を構えて突っ込むような姿勢で体当たりと共に剣先を相手に突き刺す動きである!

狙いは2つ!

剣を出来るだけ相手から死角にする事で攻撃を体当たりだと錯覚させる事と全力の突撃で遠距離からの狙撃を防ぐ事である!


「うぉおおおおおおおおおお!!!!」


そして、ピコハンが一定距離よりも近付いた瞬間に仮面の男はピコハンの方へ向き直って手にした剣を振り上げた!

真っ直ぐにピコハンの頭上を狙い定め射程距離に入った瞬間にそれは振り下ろされる。

既にピコハンは全速力で突っ込んでいる!

その速度に完全に合わされて振り下ろされた剣は真っ直ぐにピコハンの正中線である体の中心を真っ二つにする位置に振り下ろされる!


ガキンッ!


仮面の男の振り下ろされた剣は確実にピコハンの命を断っていた筈であった。

だが響いたその金属音がピコハンが無事なのだと証明している。

仮面の男が振り下ろした剣はピコハンの頭部を切り裂く筈であったがぶつかる直前にピコハンは上を向き首を横に捻っていた!

そして、歯で挟んでいたクナイで白いスーツ男の剣を横に反らしたのだ!

突撃と共に俯いていた時に咥えたのである!

完全に予想外であったのであろう、仮面の男は剣を振り下ろしておりピコハンの体当たりを回避できずその腹部に女王蟻の剣が突き刺さる!


「これで終わりだ!」


腹部を貫かれた状態の仮面の男の首へ女王蟻の剣から離した左手で咥えていたクナイを掴んでそのまま突き刺す!

だがそれだけでは終わらない、ピコハンは腹部に剣を突き刺した時に気付いていた、相手が人間では無いことを・・・

密着したからこそ分かるその異臭からアンデットなのは確実であった。

白いスーツと仮面に隠され皮膚は首元しか見えておらず暗がりの為気付かなかったが密着すれば何の事は無かった。

白いスーツ男の首の中心に突き刺さったクナイはそのまま上へ向けて切り上げられ白い仮面を剥ぎ取る!

そこに現われるのは腐敗した顔面。

既に皮膚は無く非情にグロテスクなその中で濁った目だけがギロリと動く!

腹部は剣が貫き、喉から顔面を切り裂かれているのにまるで痛みを感じていない様子の白いスーツの男であったがピコハンは一切油断はしない。


「おらぁ!」


切り上げたクナイと共に男の剣を持つ腕を蹴り上げていた!

その手から腕ごと剣が飛ぶ!

だがピコハンは止まらない!

そのまま反対の足で白いスーツ男の腹部に突き刺さっている女王蟻の剣の柄に足を乗せ蹴り上げた左足で顔面を蹴り抜く!

白いスーツの上に在った頭部は首からもぎ取られ真横へ吹っ飛んでいく!

そしてゆっくりと倒れそうになる胴体に刺さっている女王蟻の剣の柄を握り締め思いっきり円を描きながら振り回しその体が遠心力で剣から抜けて飛んで転がる!

ピコハンが焦って一方的にオーバーキルを行なっている理由がそこにはあった。


「おいおい、冗談きついぜ・・・」


転がった胴体が歩いてきている何かの足に当たりバランスを崩す。

そこには同じような白いスーツに白い仮面を被った男達が居たのだ。

それもそっちの方向だけでなくピコハンを囲むように四方向から歩いて来ていた。

ざっと16人以上は居るのが確認でき全員が腰に帯刀している。

その気配から少なくともさっきのヤツと同等以上の力を全員が持っているのは確実であった。

その光景に一瞬ピコハンの動きがその男達の姿で止まった事で遠距離攻撃も再開された。


「ぐあっ?!」


背中に再び痛みが走る。

だがそれをピコハンは待っていたのだ!


「ってーな!だがそこだぁああああ!!」


周囲には白いスーツの男達が立ち並び壁となっている。

逆に言えばそれを通過してピコハンに攻撃を当てているとすれば方法は2つである、上空からか足元から・・・

そして、今の攻撃は斜め下からぶつかっていた!

ピコハンは左手に握っていたクナイを白いスーツの男の足元の影に投げつけた!


「みぎゃあああああ!!!」


黒い靄に包まれた小さなそれは大きな声を上げて地面を転がる!

そして、ピコハンの周囲がいきなり明るくなり白いスーツの男達はその動きを止める。


「まさかこいつが本体だったとはね」


ピコハンが女王蟻の剣先を向けているその先には一匹の猫が居た。

そう、最初白いスーツの男が立ち上がる時に飛び降りたあの猫である。

その体に先程投擲したクナイが突き刺さっており痛みに苦しみながらもこちらを威嚇する猫。

周囲が明るくなった事でその真っ白な体が黒い靄に包まれなければあの闇の中隠れるのに不利なのだろうと理解したピコハンはその場で女王蟻の剣を振り下ろす!

なんと猫の顔面からオーラの様な物が飛び出し猫の顔面の形をした白い塊が突っ込んで来たのだ!

これが先程からピコハンが遠距離攻撃を受けていた正体であった。


「そして、これで終わりだ!」


振り下ろした女王蟻の剣をそのまま下に構えたまま前へ突っ込み振り上げる形で猫を切り裂く!

クナイが突き刺さり身動きが碌に出来なかったのだろう、猫は一撃で体を真っ二つにされ地面にべチャッと落ちる。

それと共に変化が突然現われた。

ピコハンが立っている場所を中心に急激に壁が迫ってきて空間が狭まり立ち尽くしていた白いスーツの男達は霧の様に消え去った。

そして、ピコハンは車両の運転席と思われる狭い部屋に胴体を真っ二つにされた猫が転がる前に立っていた。

徐々に振動が収まり乗っていた車両が減速しているのが分かる・・・


「こいつが全ての元凶だったのか・・・」


その車両の減速と共に猫の体から物凄い量の光の粒子が飛び出しピコハンの体に飛び込んでくる。

車両の減速と共に車両自体がボロボロに変化しまるで何年も放置された様になった頃、車両は静かに停車をするのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る