第3話 勝利と生存者
このダンジョンに生まれてどれくらいの獲物を捕獲し食して来たか・・・
蜘蛛の魔物はたまにやってくる極上の獲物である人間を捕獲し保存し食べて生きていた。
こうもりや虫も居るのだがやはり人間はとても非力で美味いらしく蜘蛛にとってご馳走であった。
蜘蛛は糸で獲物を巻きつけ身動きが取れなくなった状態で牙を打ち込みそこから毒と共に消化液を出す。
牙で砕いたそれを腸から出した消化液で溶かして食べるので肉の質は余り関係なく老若男女関係なく美味しく食べるのである。
この蜘蛛も思った。
「またご馳走が来た。」
それは当然だろう、人間は蜘蛛にとって一方的に殺せる弱者で最高のご馳走なのだから・・・
なので戦法も作戦も何もない、ただ糸に反応した獲物を捕らえるために襲うだけ。
今までと同じようにそうして食料を得られる筈だった。
「おぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」
しかし、目の前の人間は自分が襲い掛かって行った場所に刃物を向けて向かって来た。
おかしい、こんな餌が居る筈が無い・・・
それが蜘蛛の最後に考えた事であった。
ピコハンは冒険者の死体から抜き取った剣を構え自分に向かって飛んで来た蜘蛛の腹目掛けて突いた!
今のピコハンの力ではこの大蜘蛛の体は貫けなかったかもしれない。
だが蜘蛛自身から飛びかかっていたのが幸いした。
本来蜘蛛と言うのは獲物の動きを封じる為糸を使って捕縛するのが普通である。
しかし、この蜘蛛は人間がとてもひ弱で糸で1匹を捕縛している間に他の獲物に逃げられた経験からまず襲い掛かり1匹を無力化しつつ他の獲物に糸を放つ戦法をずっと取っていた。
度重なる偶然がピコハンを勝利に結びつけたのだ!
「おぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」
蜘蛛の腹に突き刺さった剣をそのまま地面に突き刺すように叩き付けた!
背中まで貫通したのか剣が刺さったまま蜘蛛の足が内側へ縮まる。
だがその体から光りの粒子が出てこないのでピコハンは気を緩めない!
すぐさま蜘蛛の下腹部に足を乗せその剣を蹴り倒した!
腹部に刺さった剣は押されて更に傷口を開き斜めになった剣をピコハンは抜き蜘蛛の頭部に突き立てる!
「うぁあああああああああああああ!!!!」
何度も、何度も、何度も、何度も・・・
人間を食べるその恐ろしい魔物に対する恐怖を散らす為に叫んでいるのかそれとも命懸けの戦いに勝利を確信し叫んでいるのか・・・
分かる事はピコハンは大蜘蛛を一方的に攻撃していた。
どれ程強かろうが一瞬気を抜いたり運が悪いと負ける。
それが自然の摂理、それが弱肉強食の世界。
それを忘れただ食事する餌が来たのだとしか考えなかった蜘蛛が敗れたのは当たり前の事であった。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・勝った・・・」
既に蜘蛛の頭部は粉々になりその体から光りの粒子が出てピコハンの体に入っていった。
今までよりも大きな存在の力がピコハンに流れ込むのを感じ筋肉痛にも似た痛みが一瞬走る。
「つっ・・・」
だがそれも一瞬でピコハン自身、何処か擦り傷でも負ったか?と感じる程度であった。
その時後ろから声が聞こえた。
「た・・・す・・・け・・・」
驚き振り返ると糸によって壁に貼り付けられている死体の中で一つだけ動いているモノが見えた。
生存者だ!
ピコハンは直ぐに蜘蛛を刺していた剣を持ってその人物の糸を切っていた。
「なんて硬さだ・・・」
そうこの蜘蛛の糸は凄まじく硬かった。
剣で斬りつけても切断できず仕方なく剣をのこぎりのように使い少しずつ切っていく方法をとった。
その結果、10分くらいしてやっとその人物を拘束していた片側の糸を切断し終えた。
グッタリとしたその人物は女性であった。
蜘蛛からしたら小さいので後回しにしたのであろう。
まだ息があるのを確認しピコハンは着ている物を脱がせる。
摑まってから時間が経っているのもあり汚物に着ているものが汚れていたからだ。
そして、他のまだ綺麗な遺体から衣類を剥ぎ取りその女性に着せてやる。
拭きはしたがそれでも結構汚れているその女性を背中におぶりピコハンはダンジョンの外へ向けて歩き始める。
驚く事に相手が女性で何も食べてない為軽くなっているとは言えその体重は数十キロある筈なのにピコハンはそれほど重く感じず彼女を連れてダンジョンから出るのであった。
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