第2話 生きる為にダンジョンへ

「外だ・・・」


ダンジョンから出ると雨はあがっており雲の切れ間から日光が差し込んでいた。

生きている・・・

それだけが全てであった。


「お腹空いたな・・・」


ピコハンは手に持っていた武器代わりの人骨をダンジョンの入り口に立てかけて近くを探した。

そして、ダンジョンから歩いて5分くらいの森の中に池を見つけた。

だが・・・


「汚いな・・・」


そう、池は濁り試しに少し掬ってみたが細かなゴミの様な物が大量に含まれていた。

とても飲み水にも使えそうに無くピコハンはその場を後にする。

だが直ぐに思いなおしてその池に戻ってくる。


「これだけ大きな池だ、もしかしたら何処からか水が流れ込んでいるのかも・・・」


そう考えピコハンは池をぐるりと回りこむと池の少し離れた場所から湧き水が出ているのに気が付いた。

試しに手で掬うと湧き出て直ぐの水は透明でなんとか飲めそうだった。

恐る恐る口に含んでみると・・・


「美味しい・・・」


喉が限界まで渇いていたと言うのもあるが湧き出て直ぐの水は冷たくとても美味しかった。

ピコハンはこの場所を基点に生活する事を決めた。

幸い湧き水の近くには小ぶりな果実が実っており少量ながら口に入れられる物が得られた。


「生き抜くんだ。例え一人でだって・・・」


ピコハンはその日からそこで暮らし始めた。

枯れ木を敷き詰め落ち葉でベットを作り雨が降っても大丈夫なように木で作った屋根に葉を大量に乗せて住処を作った。

だが強風が吹くと葉は飛び直ぐに断念した。

特にもう直ぐ秋から冬に変わり始める。

果実もそれ程取れるわけでもないのでこのままでは死ぬのは目に見えていた。

そして、決意する。


「ダンジョンに潜るか・・・」


ダンジョンには様々なアイテムが落ちている、その話は以前にも聞いていた。

特に浅い階層でも稀に拾われるマジックアイテムと呼ばれる不思議な物が在れば生活は一変する。

武器を持った大人が数十人で命懸けで手に入れると言う話は既に頭から抜け落ち、ただ生きる為・・・

それだけを目的にピコハンはその日、再びダンジョンに入った。

入り口に置いて置いた人骨を手に奥へ進むと人間くらい在る巨大なナメクジが動いていた。

その体内には子供くらいのサイズの昆虫らしきものが入っており、喰われたのだと理解した。


「動きは遅そうだが、邪魔だな・・・」


通路はそれ程広いわけでもなく気付かれずに交差するのは少し難しそうだ。

だが、移動している様子を見る限り動きは非常に遅そうだ・・・


「倒したらまたアレが出るのか試しておくか・・・」


ピコハンは前回こうもりを殺した時に出た光の様なものを思い出しそれが体内に入ったら自分が強くなったと解釈していた。

実際に筋力も少し上がっているのだが空腹と睡眠不足と言うのもありその実感が沸かなかったのだ。

ピコハンは人骨を振り上げる!

そして、ナメクジが横向きに移動しているその体に持っていた人骨を叩き付けた!


「ぐぢゅ!」


生々しい音と共にナメクジは体を叩いた拍子に口から体液を吐き出した。

先ほどの体内にあった昆虫の様な生き物が吐き出され苦しそうにしているのでチャンスとばかりに再び人骨を振り上げナメクジの胴体に叩き付けた!


「ぶぢゅぎゅ!?」


更に体液を撒き散らしなめくじは動かなくなった。

そして、その体からあの光の塊みたいな物が飛んできてピコハンの体内に入る。

それと共にやはり体が強化されたのを確認したピコハンは魔物を殺せば強くなれるのなら狩り尽くしてやる!


そう考えドロドロに崩れ始めたナメクジを放置してそのまま更に奥へと進む。

そして、ピコハンは目を疑った。


「なん・・・だこれ・・・」


通路の様な道を進んだ先に在ったのは少し広めの空間でそこに張り巡らされた蜘蛛の糸。

それを人骨で取り払い中へと進むとそいつは居た。

人型の何かを糸でグルグル巻きにして宙につるし上げそこで食事をしているようだった。

ピコハンは他にも糸に摑まっている人間が居るのに気付いた。

だがどれもコレも既に息をしておらず死んでいるのは明白だった。

その死体を見ていたら腰にぶら下がった剣を見つけそれに手を伸ばした。


「糸に・・・触れないように・・・」


そして、死体の腰に装着された鞘から剣を引き抜いて手にする。

だが抜ききる時に剣の端が蜘蛛の糸に触れたのだろう。

突如食事を止めた上に居た蜘蛛がこちらを向いて近付いて来た。

やはり予想通り糸に触れたら獲物が掛かったと本能で理解して襲い掛かってきたのだ!


「やるしか、ないか・・・やってやるよ!」


ピコハンは剣を構えて蜘蛛と対峙した!

その光景を薄れいく意識の中で見ていた一人の人物が居た。

蜘蛛の糸に捕らわれて数週間、生きているのが不思議なくらい衰弱している一人のトレジャーハンターであった。

自分以外は全員死んだ。

それを理解しているその人物は蜘蛛の糸に縛られながらも運よくここまで喰われる事も無く行き続けていたのだった。


「だめだ・・・にげろ・・・」


かすれたその声はピコハンには届かない。

トレジャーハンター12名がこの蜘蛛の魔物1匹に全滅させられたのだから仕方あるまい。

だが、その人物は目を疑う事となる。

それは、ピコハンと蜘蛛の戦いを見たからだった。

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