世界で俺だけがダンジョンを攻略できるだと?! ピコハン頑張る!
昆布 海胆
第1話 捨てられたピコハン
雨が降っていた。
俺の住む村では今年も不作が続いて遂に口減らしに俺が捨てられる番が来た。
せめて妹だけは捨てられないで生きていて欲しいものだ。
「お兄ちゃん、私ね大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになるの」
それが昨夜妹から言われた最後の言葉だというから笑えない。
この世界は残酷だ。
街に行けば色んな仕事があり喰うのに困らないと言うが田舎者が街に行っても仕事を斡旋すらして貰えないのが現状だ。
コネが無いから仕方ないだろう。
それが先月捨てられた友人の兄から聞いた最後の言葉だった。
この世界ドリーにはダンジョンが存在する。
このダンジョンの中と言うのは未知のアイテムや魔物が沢山と言う事なのだが中に入った者を待つのは死だけだ。
武器を持った集団で中に入って探索し近くの未知のアイテムを回収して戻ってくるとレジャーハンターと言う仕事が在るらしいが直ぐに大怪我を負って引退するのが普通と聞いている。
そもそも魔物相手に人間がどうこう出来る訳が無いのだ。
そして、ダンジョンのもう一つの使い道が人捨てである。
老人や子供を口減らしにダンジョンの入り口に捨てるのである。
勿論外に逃げ出そうとする者も居るが捨てられた者は既に死んだ者として扱われ家にも帰れない。
結局死ぬしかないのだ。
村長に名簿から名前を抹消されたら村に滞在する許可も下りず門番に村に入れてもらえなくなる。
この世界は本当残酷だ。
遅くなったが俺の名前はピコハン。
変わった名前?特徴的で覚えやすいだろ?
と言ってももう直ぐこの世ともオサラバなんだろうけどな・・・
「それじゃさよなら」
子供に向けるとは思えない目を両親に向けられダンジョンの入り口に置かれた俺は泣かなかった。
いずれこうなるのは分かってたし、まだ死んだわけじゃないから諦めない!
俺はそのまま振り返りダンジョンの中へ入っていく。
きっと両親は俺が泣きついて来ても突き放すつもりで心を鬼にしていたのだろう。
もう10歳になった俺はせめて両親を困らせないように後ろは見ない。
「死んでたまるか!」
両親に聞こえたかどうかは分からないが俺は一人何も持たずダンジョンに足を踏み入れた。
これが俺の全ての始まりであった。
「はははっもう駄目かな・・・」
5分後、俺はこうもりの様な魔物に追い込まれていた。
近くには人間の遺骨が多数転がっている。
このダンジョン内が何故か闇ではなく明るいのに驚いた所で天井に多数見えた目に追いかけられ横道に逃げ込んで現在に至るわけだ。
ここの人骨は殆どが同じようにここに逃げ込んでこいつらの餌になったのだろう。
「嫌だ!死にたくない!」
叫ぶが誰も助けてくれない。
きっとこの世に霊なんてモノが居るならきっと今、周りで仲間が来たと喜んでいる事だろう。
そしてこうもりの一匹がこちらに飛び掛ってきた。
咄嗟に横に転がりそれを回避したがそれで壁際に追い詰められてしまった。
終わった・・・短い人生だったな・・・
壁際に座り込み全身の力を抜いて天井を見上げた。
それは無意識だった。
偶然手に触れた人骨を手に掴んだ。
そして飛び掛ってきたこうもりを見た。
死を覚悟したからだろう、こうもりの動きが物凄くゆっくりに見えた。
タキサイキア現象と呼ばれるこれを見ながら何気に手に持っていた人骨を直線状に向けた。
するとこうもりはその顔面を自ら人骨に突き刺さりにきて即死した。
ピコハンの意識下ではスローだったがこうもりの降下速度はかなり早く途中で止まれなかったのだ。
その瞬間ピコハンの体に変化が起きた。
目の前で死んだこうもりから光の様な物が抜けて自分に飛んで来たのだ。
それがピコハンの体の中に入る。
体が少し暖かくなるのを感じた。
「なんだ?いまの?」
そんな事を考えた時にまた別のこうもりが飛び込んでくる。
だがピコハンは先程までの脅威を感じなかった。
落ちていた人骨を掴んで飛んで来たこうもりを叩き落した!
手に伝わる衝撃に違和感を覚えながら落ちたこうもりにもう一度人骨を叩き付け絶命させる。
「勝てる・・・勝てるぞ・・・はははっ勝てるんだ!」
そこからはピコハンの逆襲が始まった。
飛んでくるこうもりを次々と落ちていた人骨を使って叩き落し落ちたこうもりは足で踏みつけて止めを刺す。
どうやら死んだ時にあの光の様な物が抜けて飛んできてそれが自分の体に入ると自分が強くなるのを感じた。
そして、気が付いた時にはこうもりは全滅していた。
俺は生き残ったのだ。
「こいつ・・・食えるのかな・・・」
動いてお腹が空いたピコハンだったが生でこうもりを食う勇気は無く近くに落ちていた人骨を幾つか拾いダンジョンから出て行くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます