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◆ ◆ ◆ ◆



『お前達がそろっていてこの状況! この不始末、あの娘の父神に露見ろけんすればさらに大事になるのだぞ!』

「申し訳ございません、おきな



 大儺の儀はもう半分以上終わっていたとはいえ、その場で中止。招待客はみな帰され、主だった者だけ南の大広間に残され、後は周囲の警戒けいかいへと回された。


 いつもは実力に裏打ちされた自信に満ちた表情しか見せない元老院の奴らがこうべれ、向こうがけて見える老人の叱責しっせきあまんじて受けている。おそらくコレが実体なのではなく、思念しねんだけ飛ばしてきているんだろう。



『この度の配下の不手際ふてぎわ、謝罪のしようもない。この件、早急に我らが片付けさせてもらう』

「あ、いや。……私達の方にも油断があったことは確かだ。顔を上げていただきたい」



 陛下が苦虫をつぶした顔で向こうさんの長に声をかけていると、廊下をドタバタと全力疾走しっそうしてくる音が聞こえてきた。それからすぐに部屋の外から声がかけられた。たしか北の若手だったか。息を整える間もしいとばかりにかすれた声だ。



「報告いたします! 全て修復したはずの界の境目が一カ所開かれておりました!」

「なに!? どこだ!?」

「……し、城の、城の地下でございます!」

「なんだとっ!?」



 そんなはずっ! あそこは一番最初に手をつけて一番念入りに閉じたはずだぞ!? 元老院のヤツにも手を借りた! 

 それを再び開くには……まさか、そんな。


 鳳の方を見ると、ヤツもその考えにいたったようで、俺の方へ視線を寄越してきた。



「陛下。恐れながら申し上げます」

「……許す」

「この度のこと、我らの不手際も確かにございます。しかし、そればかりではないようです」

「……つまり、なにが言いたい」



 鳳の言葉に、俺も言葉を続けた。



「我ら、そして、登城を許された重役の中に裏切り者がおります」



 陛下が若くして即位することになった要因、そして俺達城下四部隊の顔触れが若い者が多い理由となった例の事件を思い出させる言葉に、陛下は目を固くつむった。


 その間にも、俺達の話を黙って聞いていた元老院の長の姿が薄れていく。



ほころびは我らが。良いな、お前達』

「「はっ」」



 完全に消える前にかけた言葉に、再び頭を垂れる元老院幹部達。雷焔だけは別に唯一と決めた者がいるらしく、片手を胸に当てるだけに留めている。


 その後、間を置かないうちに元老院の奴らがよく使う朱門が出てきた。立ち上がった奴らは準備運動とばかりに腕を曲げたり首を鳴らしたりしている。



「……さて、セレイルさんや」



 レオンがニコリと笑う。けれど、その目の奥は全く笑っていない。



「僕達は院則で人間への不干渉ふかんしょうが決められているわけだけど」

「ふん。綻びをそのままにしておくとこちら側にも影響がある。そして、さらわれたのは神の娘。人間ではない」

「だよねー? つまり?」

「今回は不問だ」

「待ってたぞ! その言葉!」



 片眼鏡モノクルをはめた長髪の男、カミーユと言ったか、奴が嬉々ききとして最初に門を潜っていき、副官らしき青年がその後を慌てて追っていく。


 セレイルとやらは確か、元老院で司法を管理していたんだったか。


 雅のヤツ、とんでもないもんと引き合わせてくれたもんだぜ。自尊心を傷つけられた怒りもあってか、れ出る気ですらけた違いだ。



「さて、奏と僕であの子をさらったヤツを追うよ」

「えっ。私と、二人で、ですか?」

「嫌?」

「いやー、嫌ではないですけど。私もあちらの方がよろしいんではないかなぁと」



 雷焔がカミーユが消えた朱門を指差す。だが、レオンは笑顔で首を左右に振った。



「あっちは確かに相手をする数は多いかもしれないけど……僕をコケにしたのはこっちでしょう? 僕、捕縛ほばくとかは慣れてないから」

「……そう、ですねー」



 カミーユの方をセレイルに任せると、もう一つ出した朱門をニコニコとしつつ潜るレオンと対照的に、これから死地にでも行くかのような暗い顔の雷焔。


 そこにもう一つ声がかけられた。



「あのー、それ、自分も連れてってもらえません?」



 ……雷焔、悪ぃ。


 レオンに負けずおとらず、綾芽が顔に笑みをり付かせていた。



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