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 その時、天の助けが自分の方からやって来てくれた。



「あ、あの! 喧嘩はやめてください!」



 見かねて待機していた所から走って来てくれた響様。その隣には追ってきた奏様が静かに寄り添って……静かに?


 奏様がイケメンさんを見る目はまるで……お母さんが蛇を見る目、心底嫌いなものを見る目つきと同じだった。否、それよりもさらに酷いかも。



「儀式はまだ終わっていないんですよ?すず様、後もう少しだけ、役に徹してもらえませんか?」

「ま、まぁ。お前の頼みなら……仕方ねぇな」



 ……ハハァン。なるほどなるほど。ほーん。


 イケメンさん……鈴様は響様のこと、お好きなんですね? それも、千早様にストーカーなんて呼ばれちゃうほど。それに、響様もさり気なく腕に触れてるあたりまんざらでもなさそうだ。


 この二人、黒木さんと瑠衣さんよりくっつくのが早いと見た!



「おにいさん、こっち!」



 鈴様と響様の手を引っ張り、朱門を潜り直す。斎場の内側へと。私達の後ろから千早様と桐生さんもついてきてくれた。


 奏様はちょっぴり不服そうにしてたけど、元いた待機場所に戻ってくれるみたいで私達とはそこで別れた。



「ふくはーうち、おにもーうち! ただし、よいおににかぎる!」



 私が大声で宣言した言葉に皆は最初驚いてざわついていた。



「良いな、それは。たしかに、今代は人外の存在に幾度も守られての御世だ。ふくはーうち、おにもーうち。これからはそう掛け声をかけるとしよう」

「あい!」



 帝様の鶴の一声でざわつきはこれからある豆撒きの歓声へと変わっていった。


 この作戦を一緒に考えた海斗さんを探しあて、ブイッとVサインを出すと、海斗さんもニカッと笑って親指立てて応えてくれた。



「ふくはーうち、おにもーうちー!」



 うははははっ! 楽しいぞぅ!



 準備された豆を色んな所に掴んでは投げ、掴んでは投げ。


 奏様や響様のお顔はとても晴れやかで、私も嬉しい。それでこそやったかいがあったというものだ。



「……あ、もうなくなっちゃった」

「ほら、僕の分あげるよ」

「ううん! わたし、もらってきます! ちはやさまもまめまきしててください」

「あっ! ちょっと! ……豆撒きなんてやりたくないからあげるって言ってんのに」



 私が考えていることも千早様にはお見通しかもしれないけど、私だって千早様の考えていることは少しくらいお見通しだ。千早様の嫌そうな声を無視して、豆を皆に供給している凛さんがいる幕に駆けていく。


 一度朱門を出なきゃいけないから遠回りだけど、清められている場だから仕方ないよね。



「りんさぁーん、まめくださ……」

「雅ちゃん!」

「雅!」



 朱門を潜った時、フッと暗くなった背後を見ると、黒布を頭から被った誰かが私の腰に手を回そうとしている。そして、そのまま腰に回された手は固くて冷たくて。いつも抱きかかえてくれる皆の手とは全然違う。


 奏様の雷が、カミーユ様とコリン様の剣が、地面をひきずる誰かの黒布の裾を縫い留めようとしたのだろうけど、それは届かず。


 皆が、元老院の人達が、そして神様達が見ている前で私は何度目になるか分からない人攫いに遭おうとしている。それだけは必ず避けなければいけない。そう思うのに、身体が何故かいうことを聞いてくれない。



「雅!」



 最後に聞こえたのは、こちらに駆け寄る綾芽の声だった。




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