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 お話という名のお説教に一区切りがつき、一休憩ひときゅうけいはさんでいると、いつの間にかどこかへ行っていた海斗さんがお腹をおさえながら綾芽と一緒に戻ってきた。


 海斗さん、若干じゃっかん涙目なの、気のせい?


 ……あ、薫くんも一緒だ。



「このおバカ!」

「ひえっ!」



 な、なにさっ。

 いきなり大声出して言われなくても、そう思っているところだよっ。


 薫くんが腰に手を当て、巳鶴さんの膝に座る私を見下ろしてくる。


 防衛本能でついつい頭を両腕でかばっていた手をそろりそろりと下におろし、耳に当てようとした。けれど、私のそのささいな抵抗は無駄な抵抗だった。


 敵は敵だけにあらず。味方にもひそんでいた。



「……あぅ」

「話はきちんと聞かなければいけませんよ」



 巳鶴さんの両手によって私の手は耳から離れ、殊勝しゅしょうな態度を示すかのように膝の上に固定された。



「いつもいつもいつも、何かしら面倒事を持ってくるだけじゃなくて、今度は自分から引き寄せようとしだすなんて! 信じらんない!」

「い、いつもじゃないもーん」

「はぁあぁぁっ!?」

「なんでもありませーん」



 ちゃんと自覚はあるけど、いつもじゃないよぅ。

 そんな鬼の面つけてるみたいな顔して怒らなくてもいいじゃんか。鬼より怖いなんて、夏生さんやひいおばあちゃんだけで十分だ。三人もいらない。……二人も嫌だけど。



「どーせ、ヘラヘラしとけばいいとか言われたんでしょ」

「に、ニコニコだもーん」

「何だって!?」



 ぎゃー!


 薫くんが伸ばしてきた手が私のほお鷲掴わしづかみにしてきた。そのままみょんみょんともてあそばれる私。



「まったく。不用意に返事をする阿呆あほうな口はこれか、この口か」

「ひゃうー」



 すごい速さでひょっとこ顔になったり戻ったりを繰り返していく。


 やーめーてー。



「……ふん」



 何回繰り返したか分からなくなるほど続けた後、薫くんはようやく満足したのか手を離してくれた。


 でも、まだ顔は怒っているんですよねぇ。どうやら、お怒りは続行中のよう。



「薫さん、やり過ぎです」



 巳鶴さんが薫くんにやられて真っ赤になった頬を優しく撫でてくれた。


 体温が低い巳鶴さんの手はとっても気持ちいい。

 思わずトローンとなっていると、すかさず薫くんから冷たい視線が飛んできた。



「……く、くつろいでましぇん」

んだね。ウソだね」

「うぅー」



 あぁ。ウソじゃないと言えない自分がうらめしい。


 それにしても、薫くんがここまで怒るなんて、ただニコニコしとけばいいお手伝いだとは思えない。

 何かある。これは何かある!



「まぁまぁ。この子も理解したようやし、それくらいにしてやってくれへん?」

「あ、あやめ……」

「出た。そうやって綾芽が甘やかすから」

「甘やかしてなんかいーひんなぁ?」

「ねー」



 ……ご、ごめんなさい。


 薫くんからさらにひと睨み頂いちゃった私は、もう黙っておこうと思う。これ以上余計なこと言えば、ご飯問題がでてきそうだもの。

 それは絶対に嫌。避けなければならぬ問題なんだから。



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