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「あぁ、待ってたよ」



 厨房に行くと、薫くん達料理人さんがせっせとおせちの準備をし始めていた。


 そっか、栗! 栗きんとん!



「お疲れさま」



 近くにいたおじさんに餅が入ったボウルを渡す。


 何かお手伝いできるようなこと、あるかなぁ?



「つまみぐいはダメだよ」

「ち、ちがうよ!」



 ジッと机の上に置いてある重箱を見ていたものだから勘違いされたらしい。そっとくぎされた。


 いや、確かに美味しそうだなぁとは思ってるけども。



「かおるくん、わたしもなにかしたいなぁー」

「え? あー……じゃあ、そこで待ってて」



 今までやっていた作業を隣にいたお兄さんに申し送り、厨房から食堂の方へ出てきた。

 その手には小さな赤い割烹着かっぽうぎにぎられている。



「粉で服が白くなっちゃうから、これ着て」

「む。……ありがとー」



 肩からかけてるポンチョもどきをぎ、今度は割烹着にお着替えですね。了解です。


 薫くんがてきぱきと着替えを手伝ってくれるおかげでさっさと準備を済ませることができた。


 その間に別のおじさんが机の上に大きな底の浅い桐箱きりばこを用意している。そしてその上にうすーく粉をまぶし始めた。



「はい、この椅子いすの上に立って」

「あい」



 薫くんが引いてくれた椅子の座る部分に手をかけ、足を上げ……上がらぬ。

 私、そういえば身体固いんよ。



「……あ、そっか」



 後ろを向いておじさん達に指示を出していた薫くんが振り返り、私の窮状きゅうじょうを察知。抱っこして引き上げてくれた。



ちぢめるくらいなら身体の大きさ選べればいいのに」

「……ねー」



 私もすごく思います。



「じゃあ、まずは正月飾り用の鏡餅作るから。この型に餅を入れて、桐箱の上でクルクル回して。固まったなぁって思ったら言って」

「はーい」



 ちぎったお餅をホールケーキの型みたいなやつに入れてもらい、薫くんに言われた通りクルクルと回していく。たまに粉をまぶし、さらにクルクル。


 どうでもいいけど、この粉、とっても手触りがよくて気持ちいい。ちょっと脱線して粉を触りまくってたら、薫くんのひじが私の頭に振り下ろされた。



「遊ばない」

「あい」



 クスクスと笑う声が厨房からも聞こえてくる。


 肘で叩かれたことを笑われてるのかとそちらに目を向けると、おじさんがつんつんと自分の鼻の下を指している。


 鼻の下?


 手は粉まみれだから腕で鼻の下をぬぐうと、無意識のうちに触っていたのか、白い粉がばっちりついていた。


 うぅむ。……恥ずかし。



「早くしないと次も来るからね」

「えっ。……あ」



 薫くんが言ったそばから新しいお餅が運ばれてきた。なかなかのスピードでついてるらしく、どんどん運ばれてくる。


 どんどん、どんどん、どんどんどんどんどんどん……。



「……ちょっと、早すぎない? 人手が足りないんだけど」



 四回目にお餅を持ってきた綾芽にとうとう薫くんからお小言が入った。

 本当はもっと早く言いたかったんだろうけど、それを言わさぬ、というかそれを自分には言われたくないくらいペースが速い自覚はあったのか、持ってきた人達は皆足早に去っていた。

 綾芽は仕事を免除されてるからそのまま居座いすわろうとしていた。それでしっかりと薫くんのお小言を聞かされる羽目はめになったのだ。



「苦情は海斗へ言うてくれます? 自分、持ってきただけなんですわぁ」

「ちょっとは頭使ってペース考えてからついてって言って。そうしないと固くなるでしょ。こんな大きなかたまり、そのままなべに入れるなんてことしたくないからね」



 塊そのままは嫌だなぁ。


 えーっと不満そうにしている綾芽は動きそうもない。


 仕方ない。代わりに伝書鳩でんしょばとになろう。



「わたし、いってきましゅ。……いってきます!」

「わざわざ言い直さなくてもいいから。よろしく」



 だって、ほら、羞恥心しゅうちしんってものをいくら私でも持ち合わせているものなんですのよ、薫くん。


 スルーして欲しかったなぁと思いつつ、降りるときは簡単だからそのまま床へジャンプ。


 私の代わりに綾芽へ餅を寄越よこしている薫くんから転ばないように注意を受けながら、再び裏庭へ走った。


 もちろん転んだ。



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