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□ □ □ □



「イギリスから取り寄せたフォートナム・メイソンの紅茶と、紫苑しおんにアフタヌーンティーに合うお菓子を作ってもらったんだ。さぁ、し上がれ」

「い、いただきます!」



 ふわふわとしたブロンドの前髪からのぞくアイスブルーのひとみが細められる。


 私の真正面に座っている男の人――私達をお茶会に招待してくれたレオン様は“馬鹿ばかな子ほど可愛かわいい”と、初対面の時、そうであるにも関わらずそんな少々問題があるように聞こえるセリフを笑顔で言ってくれた人である。


 千早様いわく、ヤツの腹の中は乗り移ろうとした悪魔も真っ青になって裸足はだしで逃げまどうほどの漆黒しっこくっぷりだそうだ。


 歳は潮様とあまり変わらないそうだけど、ずっと年下に見える。でも、それを口にすることは絶対のタブーであるらしい。これは別の人から教えてもらった。


 でもまぁ、そんなこと。

 美味しいものを目の前にした私にとって、じきに些細ささいな事へと変わってしまう。


 だってさ、ほんと美味しいんだってば。紅茶の美味しさっていうのはまだあんまり分からないけど、お菓子が美味しいっていうのはすっごく分かる。


 そういえば、この前、潮様にも苺大福いちごだいふく作ってもらったけど、それもとっても美味しかったなぁ。



「……プッ。君ってば、本当に頭の中は食欲しかないみたいだね。うらやましいよ」

「ん? へへっ。おとくでしょー?」



 嫌味なら通じないよ? だって、薫くんやあの栄太とかいうお兄さんで慣れてるもの。あと、千早様もか。


 東のお屋敷で料理のメニューを試行錯誤しこうさくごしている薫くんや、どこで何をしているか分からないお兄さん。

 今日も元気に誰かに悪態あくたいついてるのかなぁ?


 薫くん、本当は優しいのに、あの口のせいでとってもそんしてるし。もったいない。



「見つけた! レオン様、第六課うち罪人ざいにんを送るなら報告書もまとめてくださいとあれほどっ……あら、貴女もいたのね。ごめんなさい」



 怖い顔をした奏様が生垣いけがきの向こうから姿を現した。


 丁度私が見えない位置にいたのか、はたまた怒りでレオン様以外の周りが見えていなかったのか、奏様はあらげていた声量をすぐに落とし、何をする気だったか分からない手を後ろに隠した。



「ちょっと、僕達もいるんだけど」

「貴方はこの光景、くやしながら見慣れてるでしょ? 潮様にはごめんなさい」

「なにその態度の差。僕、一応、神なんですけど」

「生まれてから千と少ししか経っていない童神のくせに。そういうのは私より早く生まれるか、私より力をつけるかして言いなさい」

「そんなの、どっちも無理でしょ」



 千早様はぶすっと不貞腐ふてくされてお菓子に手を伸ばした。


 そっかー、千年ってそんなに短い間のことだったんだー。確かに生まれて間もない……ってそんなわけないよ! 十分なくらい、おじいちゃん!



「年寄扱いするのはやめてくれる?」

「ごめんなさい」



 ひえっ。にらまれた!

 あつかい難しいなぁ。



「まぁまぁ。二人とも、喧嘩けんかはダメですよ。奏、紫苑がお菓子を作ってくれたようです。貴女も仕事がまっていないのなら休憩きゅうけいしていっては? レオン、かまわないでしょう?」

「……潮様がそうおっしゃるのなら。紫苑様のお菓子もいただきたいですし」

「僕も別にかまわないよ。ティータイムの邪魔じゃまをしないのであれば、どんな存在モノでも」

「……報告書は後で頂きますからね?」



 奏様が着ている白衣のすそさばき、空いていた椅子についた。


 一人でに動くティーポットとティーカップにソーサー達。

 他の三人は当たり前のようにしているけど、これってすっごく便利だと思う。



「……フゥ。美味しい」

「そう。良かった」



 そそがれた紅茶に口をつけた奏様が思わずらした言葉に、レオン様はニコリと笑みを浮かべている。


 ただ黙ってそこにいるだけなら目の保養になる人ってやっぱりいるんだなぁって思う存在が今まで限られていたのが、ココに来てぞろぞろいることに若干の恐怖と不公平さを覚えるんですが。


 まぁ、その分クセが強い強い。

 綾芽のなまけ癖が可愛く思えちゃうくらいだ。



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